上 下
33 / 42
第七夜 ラート はじまり編

最上階の露華の部屋

しおりを挟む
露華の指定した部屋まで来た駿太たち。チャイムを鳴らしコンコンとノックをする。
「どうぞ、入って」
ノックの音に部屋の中から露華が応える。
「入るよ」
駿太に続いて皆が入って行く。
「どうぞ、適当に座ってね」
露華に面識のある駿太に夜多乃、話では聞いているミサオが適当に席に着く。
矢那、千舞宇は、あまりの豪華な部屋に圧倒されている。
「は?露華って・・・あのテレビ出てるあの露華?」
「さ、さすが、伊香下さんだね。わしらとは次元が違うな」
「そんなもの、すぐに慣れますよ。それに派手にしてないと世間に舐められちゃいますからね」
手のひらを返し、席に座るよう勧める露華は受話器を取る。
「何か、コーヒーとか紅茶とか、飲み物を適当にお願いできるかしら。ええ、アルコールもあってもいいわね。お任せするわ」
最近では、事業にも手を出して自社ブランドの化粧品なども好評でかなりの年商だと聞いている。
駿太とミサオが並んで座る席に、ミサオとは反対側の駿太の横に座る露華。
「駿太、元気にしてた?」
駿太にもたれ掛かる露華は、駿太の珍玉に手を置く。
「あひ!」
声をあげる駿太は、立ち上がろうとするミサオを止める。
「あら?こちらは?」
「ミサオだよ」
駿太がザックリと紹介する。
「みさお?なんか、ミサオ・マモルに似てるわね?」
「よく言われるんだよ。まあ、そのことについても話があるんだけどね」
「ふうん、よくわかんないけど、いいわよ。で、お願いって言うのを聞きましょうか?」
駿太が立ち上がると一人一人紹介を始めた。
「こちら、矢那さんと妹さんの千舞宇ちゃん。会社の同僚の毛衣地夜多乃もういちやたのさんは知ってるよね?それから・・・」
いよいよ、ネタバラシである。
「横にいるのが、ミサオ・マモルだ」
露華があごをつまむ。
「ミサオ・マモル? って、女優のミサオ?」
「そう、正真正銘、本物のミサオ・マモル」
え?驚く夜多乃と露華。
「え?だって、さっきは従姉妹って」
夜多乃は、やはり騙されていたことにきづく。
「すまない、素性を明からさまには出きなくてね」
「で、でも、仮に本物だとしたらなんでこんなとこにいるのよ」
「そうですよ、第一本物って証拠でもあるんですか?」
スックと立ち上がるミサオは、何を思ったのか得意の格闘の構えをする。
殺陣を始めるミサオ、映画のワンシーンを再現している。
千舞宇が釘付けになる、それもそうである何度も見て必死に覚えた一連の動きだった。
スムーズに動けていたミサオが、体を回転させながら逆立ちになり、そこから蹴りを打ち下ろす場面、蹴りが上手く決まらずバランスを崩し倒れ込んでしまう。
露華と夜多乃がやれやれとした顔をする。
千舞宇だけは驚いた顔をしている。
「な、何よ。失敗しちゃってるじゃないの」
露華がすかさず突っ込む。
「所詮、モノマネだね」
腕を組み呆れ返る夜多乃。
「いいえ、彼女は本物よ」
千舞宇はミサオから目が離せずにいる。
「は?現に決めの所で失敗してるじゃないの」
露華は、認めたくないから失敗を蒸し返してくる。
「私、メイキングもかなり見たから知ってるの」
「何をよ」
「ミサオ、必ずここでミスをするの」
「プロなら、それくらい克服するはずよ」
「そう、だから彼女は失敗から編み出したものがあるの」
千舞宇は鳥肌を立てている。
ミサオは、両の手を床に着くと逆立ちになった。スカートが落ちて下着が露わになる。駿太と矢那が顔を背けながら、目でしっかりと見ている。
「そう、逆立ちになってから体を捻った回転蹴り」
ミサオの2本の足が円を描き空を切る。
「わあお、ヤバいヤバい。やっぱ、本物だよ。どうしよ、どうしよ」
と足をバタバタとして興奮が収まらない千舞宇は、改めて本物であることを確信している。
ドッカと椅子に座り込む露華。
「ま、まあ、いいわ。本物だとして話を進めましょう?で、何が言いたいの?」
「一緒に、映画の中に行ってほしいんだ」
駿太の直球すぎる言葉に、耳を疑う露華と夜多乃。
「はい?今、映画の中にって、言った?」
「私もそう聞こえました。それって?」
「言葉の通りだよ」
説明に困る駿太は、周囲を見回すと自宅のものより遥かに大きい4Kテレビを見つける。
念のために持ってきたディスクを取り出す駿太。物は試しである。
「露華、テレビ借りるよ」
「え、いいけど、そんなもの何するの?」
「まあ、見ててよ。上手く行ったらご喝采っと」
ディスクをデッキに入れるとテレビが連動して起動する。
映画【ラート】のミサオの登場シーンまで、早送りする駿太。
再生される場面を見て、千舞宇が首を傾げて声を出す。
「おかしいわね?ここ、ミサオが出てくるはずなのに」
「さすが、千舞宇ちゃん。鋭いね。ミサオ、頼むよ」
ミサオに促す駿太。
「いい?これから、ミサオがすることをよく見てて」
ミサオは、テレビの画面の前に立つと画面に向けて手を伸ばす。
皆が何するの?先の見えない行動に釘付けになる。
画面に触れるミサオの手。
スルリと画面に吸い込まれてしまった。
それを見た露華と夜多乃が、狼狽する。
「ななな、何?トリック?」
「手が切れちゃった」
「いいや、切れてはいないよ」
まるで、水の中に手を差し入れているかのようであって、わずかな波紋を残し手が動く。
画面の中のミサオの手が、手を振る。
「し、信じられないんですけど」
夜多乃が、この真実を認めたくなかった。
画面の中のミサオの手が中指を立てると、ニカッと笑って見せるミサオ。
「なっ!」
チッと舌打ちする夜多乃。
スルリと手を抜くミサオは、何事もないよ。と、手を動かして見せる。
「どお?信じてもらえるかな?」
あごをつまむ露華が、考えている。
「要するに、ミサオは画面の中から出て来たってこと?」
「うん、まったくその通りだよ。露華」
駿太が感心している。
「わ、わかったわ。で、私たち、何をしたらいいの?」
話の早い露華は、本題に入るのを待っている。
しおりを挟む

処理中です...