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十二突き目 病院にて

一城なら、大丈夫

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哲美の部屋に戻った蓮実は、これからどうすべきか考えていた。
ガラガラと入り口の扉が開くと哲美が帰ってきた。
「戻ったよ」
「おかえり、哲美」
「なんだか、浮かない顔だね。なんか、あったのかい?」
ベッドに座り込む哲美は、そばに座る蓮実を気にかける。
「うん、歩くんのことなんだけどね」
「おお、そういや、歩ちゃんてひょっとして恵くんの初恋の子なのか?」
「ううん、それはないよ」
「なんでよ?」
「歩くんて、元々男の子だからよ」
「ん?あ、ん?」
わかったような気がして、やはりわからない哲美。
「性別適合手術」
「性別?手術って、それ。男から女になるようなやつか?」
「そう」
「て、ことは何かい?恵ちゃんは・・・」
「手術して、女の子になった男の子よ」
「そうなんだ、だから僕って」
「好きになった男のために、女になったけど嫌われちゃったみたいでね。それで、一時的な男性恐怖症にかかってしまったみたいなの」
「なるほど~、で、歩ちゃん、いや歩くんはこれからどうしたいって?」
「一城に会ってみたいって」
「一城に?話がよく見えないな。一城がどう絡んでるって言うんだよ」

事の経緯いきさつを掻い摘んで話す蓮実。

「そんなことがあったのかい。一城も、相当ショックだったろうな」
「うん、そうみたいだよ」
あの日、涙を見せた一城を思い出すと胸が苦しくなる蓮実だった。
「あいつ、あれで根は優しい奴だからな。心じゃかなり泣いてるぜ」
さすが哲美。一城のことを知り尽くしていた。
哲美が、松葉杖を取ると、慌てて立ち上がろうとしている。
「哲美?どうするの?」
「決まってんだろ。一城、呼んでくんだよ」
「え?待ってよ。哲美」
「なんでよ?この時を一番待ってるのは、一城だぜ」
「あ、まあ、それは、そうだけど・・・」
「あいつなら、大丈夫だよ。きっと、うまくやるはず」
どこから、これだけの自信が持てるのか、蓮実には理解が出来なかった。
四六時中一緒にいた哲美だから、わかることなのだろうか。蓮実は、こんな哲美に嫉妬していた。
羨ましかった。自分の知らない一城を哲美は知っている。
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