39(サーティー・ナイン)

浅野新

文字の大きさ
6 / 18

5

しおりを挟む
がくん、と頭が前に揺れて、ハッと目を覚ました。
 いけない。いつの間にか寝ていたようだ。
 見られていただろうか。
 辺りをそっと確認する。染み一つない真っ白な壁は何も変化はない。
 腕時計を見た。多分五分程度だ。それぐらいなら許してもらえるだろう。
 手元の本、39を見た。
あまりページが進んでいない。
もう少し読もうと思って図書館に来てみたけれど。
 連日の残業で少し疲れているようだ。今日はあと三十分読んだら終わりにしよう。
__それにしても。
久々に思い出した。
ピーターの言葉が頭の中で響く。
__隠されるんだよ。
約束を破って隠された子供。
そう、確かにあの人は隠された。
嫌な事を思い出したな。
僕は軽く頭を振り、本のページをめくった。


 三月五日 快晴
 本日の報告
 午後六時十分 サクヤ 図書館到着
 図書館員 モーリス 応対
 39 第百八十一 を借りる。
 午後六時十五分より午後七時三十分まで特別室にて読書
 途中休憩をはさむも異常なし
 午後七時三十五分特別室より退室、39を返却 午後七時四十分退出
 本日 39 第百八十一を読破
 全て順調
 報告以上
 モーリス・マーチン


 今日も順調に終わりやがった。
 そうだよ。百八十一冊目を読破した。
 全く、ムラ気もなくあいかわらず立派なこった。
 ああ、昔からそうだ。俺はあいつをガキの頃から知っている。
 そうだよ。俺はあんたが来るずっと前からここのスタッフだからな。あいつに39を渡すのは俺の役目なんだ。
 あいつがここに来たのは九歳くらいからだったかな。最初はニナに連れられて来ていた。それからずっとここで39を読んでる。今二十三歳だぜ? 信じられないだろ。ああ、今までの奴らの中じゃ一番だ。
 俺はいつだめになるのかとヒヤヒヤしてた。最初の頃はな。
 でもよ、何故だ?
 何故彼だけがなし得るんだ?
 俺だったら気が狂っちまうわな。
 理由もわからず与えられた本を延々と読むなんて。多分一生な。こんなしょうもない本をよ。
 え? 内容? いや、知らねえよ。本人以外は読んじゃいけない事になってるからな。
 でもよ、あいつが読んだ後、毎回どれだけ読んでるかチェックするだろ。嫌でも目に入っちまうわな。
 でも本を開くと、小さい文字がびっしり並んでて、ありゃあ読む気がなくなるよ。
 家族で旅行した話とか、息子の学校での出来事とか・・・。
 普通の小説だよ、普通の。特別面白いわけでも何でもありゃしない。
 ただ、あいつはよ、人形なんだよ。中身なんかないんだ。
 自分の人生に不満もなけりゃ疑問も持たないのさ。
 それでなきゃ、どうして39を読み続けられる?
 どうして不自然な人生に疑問を持たない?
 普通なら駄目だとわかっていてもこっそり調べるものさ、主張もするさ。自分の人生だろう? それでこそ人間ってもんだ。実際あいつ以外は全員そうだった。いや、俺は全員は知らない。聞いたんだ。
 だから人形なんだよ。俺はあいつがカウンターに来る度、どきっとするのさ。丁寧な物腰でよ、必要な事以外一切しゃべらなくてよ。いつもいつもそうなんだ。何も変わらないんだ、あいつはよ。人間の匂いがしない。
 気にいらねえ、気にいらねえな。
 サクヤってやつはよ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...