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一週間ぶりにサクヤは図書館へ出かけた。いつも通り39を読んだ後、図書館に残ってしばらく新聞を読む。
ふと目をやると、ある広告が目に入った。
「一年ぶり待望の新刊! 新刊発売記念アルバート氏サイン会開催! 」
アルバート。
名前を見てサクヤは興奮した。大ファンの推理作家だった。節約の為、本を購入した事はなかったが、図書館で彼の本はほとんど読んでいる。
開催日を見た。今週の日曜日、Tブックストアだ。ここからそう遠くはない。
絶対行かなくちゃ。
日曜日、サクヤはTブックストアへ出かけた。同じくアルバートファンのトムも一緒だ。声をかけたら二つ返事でついて来た。
トムの強い勧めでサイン会の一時間も前に本屋に着いたのに、既に店内にはファンらしい人々の姿があちらこちらに見える。
二人は慌ててアルバートの新刊本を買い、整理番号をもらった。
トムが得意げに言う。
「ほら、急いで来て良かっただろ」
サクヤは整理番号をちらっと見た。
偶然ってあるものなんだな。
先着五十名様だったっけ。
「うん」
のんびりしたら危ないところだった。
二人が雑誌等を読みながらしばらく時間をつぶしていると、
「作家アルバート氏のサイン会が始まります」
というアナウンスが流れ、急いでファンの列の中に並んだ。
五分程してから、アルバートが姿を現した。彼はファンの前まで来ると、丁寧に挨拶し、本日来てくれた事への礼を述べた。最後に恥ずかしそうに新刊本のPRをしたのが、サクヤには好印象だった。
挨拶が終わると、サイン会が始まった。
先に並んだトムが笑顔で振り返る。
「なんかドキドキしてきたよ」
「うん」
サクヤは頭の中で何を言うべきか考えていた。
しばらくしてトムの番が来た。トムは耳まで真っ赤にしながら、昔からずっとファンです、本は全部持ってますと興奮してしゃべっている。アルバートの笑っている声が聞こえた。
やがて、トムがサイン本をしっかり抱きしめて脇へどいた。
「次の方。整理番号を頂きます。・・・はい、三十九番ですね」
係りの店員がサクヤから番号を受け取り、用紙にチェックをした。
アルバートがサクヤを見、笑顔で右手を差し出す。
サクヤも右手で握手しながら、左手に持っていた、買ったばかりの新刊本を差し出した。
「あの、密室シリーズ最高です。ずっと応援してます」
「ありがとう」
アルバートは、慣れた手つきで本にサインをした。
「君のお名前は? 」
「サクヤです」
瞬間、アルバートはぎょっとした様子で顔を上げ、サクヤを見つめた。眼鏡の奥の目が揺れている。しかし、ふと我に返った様子で、慌てて目をそらした。
「あー、えーと、変わった名前だね。サ・・ク・・ヤ・・だね」
そのままサインの上に〝サクヤへ〟と書き加えながら、アルバートは小声で隣の係員に声をかけた。
「えーと、君、これで何人目だったかな」
「三十九人目です」
「あ、・・・ははは、そうかそうか。あ、じゃあ君、サクヤ、来てくれてありがとう」
アルバートは笑いながらサクヤに本を渡した。
列から離れると、遠巻きに見ていたトムが近付いて来た。
「なあっ、何言われてたんだよ」
「別に。名前が変わってるなって」
「なあんだ。ここらへんでアジア人は珍しくないのにな」
「うん」
本を渡された時、アルバートの手が微かに震えていた事を、サクヤは思い出していた。
ふと目をやると、ある広告が目に入った。
「一年ぶり待望の新刊! 新刊発売記念アルバート氏サイン会開催! 」
アルバート。
名前を見てサクヤは興奮した。大ファンの推理作家だった。節約の為、本を購入した事はなかったが、図書館で彼の本はほとんど読んでいる。
開催日を見た。今週の日曜日、Tブックストアだ。ここからそう遠くはない。
絶対行かなくちゃ。
日曜日、サクヤはTブックストアへ出かけた。同じくアルバートファンのトムも一緒だ。声をかけたら二つ返事でついて来た。
トムの強い勧めでサイン会の一時間も前に本屋に着いたのに、既に店内にはファンらしい人々の姿があちらこちらに見える。
二人は慌ててアルバートの新刊本を買い、整理番号をもらった。
トムが得意げに言う。
「ほら、急いで来て良かっただろ」
サクヤは整理番号をちらっと見た。
偶然ってあるものなんだな。
先着五十名様だったっけ。
「うん」
のんびりしたら危ないところだった。
二人が雑誌等を読みながらしばらく時間をつぶしていると、
「作家アルバート氏のサイン会が始まります」
というアナウンスが流れ、急いでファンの列の中に並んだ。
五分程してから、アルバートが姿を現した。彼はファンの前まで来ると、丁寧に挨拶し、本日来てくれた事への礼を述べた。最後に恥ずかしそうに新刊本のPRをしたのが、サクヤには好印象だった。
挨拶が終わると、サイン会が始まった。
先に並んだトムが笑顔で振り返る。
「なんかドキドキしてきたよ」
「うん」
サクヤは頭の中で何を言うべきか考えていた。
しばらくしてトムの番が来た。トムは耳まで真っ赤にしながら、昔からずっとファンです、本は全部持ってますと興奮してしゃべっている。アルバートの笑っている声が聞こえた。
やがて、トムがサイン本をしっかり抱きしめて脇へどいた。
「次の方。整理番号を頂きます。・・・はい、三十九番ですね」
係りの店員がサクヤから番号を受け取り、用紙にチェックをした。
アルバートがサクヤを見、笑顔で右手を差し出す。
サクヤも右手で握手しながら、左手に持っていた、買ったばかりの新刊本を差し出した。
「あの、密室シリーズ最高です。ずっと応援してます」
「ありがとう」
アルバートは、慣れた手つきで本にサインをした。
「君のお名前は? 」
「サクヤです」
瞬間、アルバートはぎょっとした様子で顔を上げ、サクヤを見つめた。眼鏡の奥の目が揺れている。しかし、ふと我に返った様子で、慌てて目をそらした。
「あー、えーと、変わった名前だね。サ・・ク・・ヤ・・だね」
そのままサインの上に〝サクヤへ〟と書き加えながら、アルバートは小声で隣の係員に声をかけた。
「えーと、君、これで何人目だったかな」
「三十九人目です」
「あ、・・・ははは、そうかそうか。あ、じゃあ君、サクヤ、来てくれてありがとう」
アルバートは笑いながらサクヤに本を渡した。
列から離れると、遠巻きに見ていたトムが近付いて来た。
「なあっ、何言われてたんだよ」
「別に。名前が変わってるなって」
「なあんだ。ここらへんでアジア人は珍しくないのにな」
「うん」
本を渡された時、アルバートの手が微かに震えていた事を、サクヤは思い出していた。
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