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1章:嵐のあと
1985年8月17日 考察
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参考資料:
聴取記録 事件番号ΔΔΔ-ΔΔΔΔ#3(極秘資料につき抹消)
被疑者(抹消) 聴取担当者:R.J.Johnson/L.M.Johnson
『F.A.N.N.Y.』の映像記録を確認した3人は、暫し沈黙した。自分がたったいま見聞きした出来事を咀嚼し、あるいは記憶を呼び起こしながら。
最初に言葉を発したのは、映像の中で濁流に呑まれていた青年、トキワだった。
「……段々と思い出してきた。アレに吸い込まれて、タイムスリップしてしまった、と」
「何だったんだ?あの光は。計算がどうとか言ってたな。それに、お前ともう一人はアレから逃げようとしてる様に思えたが……落ちてくるのを知ってたのか?」
ライリー捜査官が額に浮いた汗を拭いながら問いかける。
すると、トキワが答える前に、ファニーが新たな映像を提示した。
『発光の特徴、地理的、時間的要素から判断すると、あれは「スエズ」、異常気象緩和衛星によるハリケーン「ベネット」弱体化が失敗した事故、ということだね』
映し出されたのは、望遠鏡のような円筒状の装置と、3枚4対の太陽光パネルを取り付けた球体が合体した人工衛星。全体像の上部には
『Saved Unusual WEather Satellite』
と明記されている。
トキワは語る。
「この『S.U.WE.S.』は、さっきの映像の博士、カイル・ラックハイムを主任としたチームが開発して…。甚大な被害を出している、もしくは出すと予測されたハリケーンや積乱雲の塊に、特殊な被膜で包んだ圧縮エネルギーをぶつけて、大気の状態をリセットする、という代物……のはずでした」
『ちなみに、厳密には「スウェス」が正しい発音なのだけど、臨時助手の誰かさんが言いにくいってんで、「スエズ」呼びが定着しちゃったんだよね』
暗にトキワの事を揶揄するファニーの余談と共に、映像は衛星のシミュレーション映像になる。
地球上で巨大な渦を巻くハリケーンの真上で、『スエズ』の望遠鏡部分が展開。
下部の筒の中で光球が生成され、出口部分でシャボン玉のように虹色の膜に包まれる。
そして、嵐の中心へ向かって落下。大気圏に再突入する中で皮膜は少しずつ摩耗していき、ハリケーンの雲と同高度で炸裂。
渦は掻き乱され、雲は周囲へと拡散されていき、やがて嵐は沈静化された。
先程の実際の映像との差異に、ローマン捜査官が気づく。
「本来は、上空で作用するはずだったこの球が、地表へ到達してしまった、と?」
トキワは同意を示す。
「でしょうね。なんせ、ハリケーンがカナダへ越境するかもって予測が出されて、急に決まった発射でしたので……それも、爆心地が俺と博士の居る研究所を巻き込む位置での……あんっの誤爆王っ、俺たちを見殺しにする気満々だったのか!?」
ギリギリと拳を握るトキワの顔は、この場に居ない誰かへの怨嗟で真っ赤に染まっていた。
が、虚しさを悟ったように自ら治めると、ため息交じりに姿勢を正した。
「という訳で、自分でも実感ないですが、どうやら『未来への帰還』よろしく、タイムスリップしちまったようです」
『ただし、次元転移装置を積んだデロリアンは無いから、未来に帰れないけどね、マーティ』
ギョロ目白髪で白衣を着た老人姿のファニーが、トキワを慰める。
2人の会話がつい先月に封切られたSF映画をネタにしたものだと、捜査員たちが察する(或いは、この場のこれまでの出来事が現実であると認める)には、少し時間がかかった。
すると、ローマン捜査官が、別の映画に絡めたジョーク交じりに、トキワへと語りかける。
「カイル・リースと違って、君はしっかりとした証拠を用意出来てるわけだ。特にこの『彼』でいいのかな?ファニーを見せられては、認めざるをえないね」
「まじかよローマン……俺には判断がつけられねぇぞ、クソッ」
「まぁまぁライリー坊や、お前さんだってグラサン黒コート姿のシュワルツネッガーに襲撃されたくはないだろ。……正式な決定は、我々の上司が下すが、まぁアレを見ていたんだから、結論はそう違わないだろうさ。」
と、部屋の壁に取り付けられた巨大な鏡の向こうへ目をやりながら、ローマン捜査官は席を立つ。
「君、もとい『君たち』のこれからにいついて、細かい協議をしてくるよ。すまないが、もう暫くここで待っていてくれ」
「構いませんよ。なんなら50年待てば、全部元通りですし……」
「いやそん時、お前いくつになってるよ?」
ライリー捜査官のツッコミで、記録は終了する。
聴取記録 事件番号ΔΔΔ-ΔΔΔΔ#3(極秘資料につき抹消)
被疑者(抹消) 聴取担当者:R.J.Johnson/L.M.Johnson
『F.A.N.N.Y.』の映像記録を確認した3人は、暫し沈黙した。自分がたったいま見聞きした出来事を咀嚼し、あるいは記憶を呼び起こしながら。
最初に言葉を発したのは、映像の中で濁流に呑まれていた青年、トキワだった。
「……段々と思い出してきた。アレに吸い込まれて、タイムスリップしてしまった、と」
「何だったんだ?あの光は。計算がどうとか言ってたな。それに、お前ともう一人はアレから逃げようとしてる様に思えたが……落ちてくるのを知ってたのか?」
ライリー捜査官が額に浮いた汗を拭いながら問いかける。
すると、トキワが答える前に、ファニーが新たな映像を提示した。
『発光の特徴、地理的、時間的要素から判断すると、あれは「スエズ」、異常気象緩和衛星によるハリケーン「ベネット」弱体化が失敗した事故、ということだね』
映し出されたのは、望遠鏡のような円筒状の装置と、3枚4対の太陽光パネルを取り付けた球体が合体した人工衛星。全体像の上部には
『Saved Unusual WEather Satellite』
と明記されている。
トキワは語る。
「この『S.U.WE.S.』は、さっきの映像の博士、カイル・ラックハイムを主任としたチームが開発して…。甚大な被害を出している、もしくは出すと予測されたハリケーンや積乱雲の塊に、特殊な被膜で包んだ圧縮エネルギーをぶつけて、大気の状態をリセットする、という代物……のはずでした」
『ちなみに、厳密には「スウェス」が正しい発音なのだけど、臨時助手の誰かさんが言いにくいってんで、「スエズ」呼びが定着しちゃったんだよね』
暗にトキワの事を揶揄するファニーの余談と共に、映像は衛星のシミュレーション映像になる。
地球上で巨大な渦を巻くハリケーンの真上で、『スエズ』の望遠鏡部分が展開。
下部の筒の中で光球が生成され、出口部分でシャボン玉のように虹色の膜に包まれる。
そして、嵐の中心へ向かって落下。大気圏に再突入する中で皮膜は少しずつ摩耗していき、ハリケーンの雲と同高度で炸裂。
渦は掻き乱され、雲は周囲へと拡散されていき、やがて嵐は沈静化された。
先程の実際の映像との差異に、ローマン捜査官が気づく。
「本来は、上空で作用するはずだったこの球が、地表へ到達してしまった、と?」
トキワは同意を示す。
「でしょうね。なんせ、ハリケーンがカナダへ越境するかもって予測が出されて、急に決まった発射でしたので……それも、爆心地が俺と博士の居る研究所を巻き込む位置での……あんっの誤爆王っ、俺たちを見殺しにする気満々だったのか!?」
ギリギリと拳を握るトキワの顔は、この場に居ない誰かへの怨嗟で真っ赤に染まっていた。
が、虚しさを悟ったように自ら治めると、ため息交じりに姿勢を正した。
「という訳で、自分でも実感ないですが、どうやら『未来への帰還』よろしく、タイムスリップしちまったようです」
『ただし、次元転移装置を積んだデロリアンは無いから、未来に帰れないけどね、マーティ』
ギョロ目白髪で白衣を着た老人姿のファニーが、トキワを慰める。
2人の会話がつい先月に封切られたSF映画をネタにしたものだと、捜査員たちが察する(或いは、この場のこれまでの出来事が現実であると認める)には、少し時間がかかった。
すると、ローマン捜査官が、別の映画に絡めたジョーク交じりに、トキワへと語りかける。
「カイル・リースと違って、君はしっかりとした証拠を用意出来てるわけだ。特にこの『彼』でいいのかな?ファニーを見せられては、認めざるをえないね」
「まじかよローマン……俺には判断がつけられねぇぞ、クソッ」
「まぁまぁライリー坊や、お前さんだってグラサン黒コート姿のシュワルツネッガーに襲撃されたくはないだろ。……正式な決定は、我々の上司が下すが、まぁアレを見ていたんだから、結論はそう違わないだろうさ。」
と、部屋の壁に取り付けられた巨大な鏡の向こうへ目をやりながら、ローマン捜査官は席を立つ。
「君、もとい『君たち』のこれからにいついて、細かい協議をしてくるよ。すまないが、もう暫くここで待っていてくれ」
「構いませんよ。なんなら50年待てば、全部元通りですし……」
「いやそん時、お前いくつになってるよ?」
ライリー捜査官のツッコミで、記録は終了する。
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