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1章:嵐のあと
1985年8月17日 再起
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とある政府極秘文書
1985年8月18日 作成者********
3日前の8月15日、身分詐称他複数の容疑で拘束した**・**(男性、黄色人種、年齢24、出身地日本。以降『ケースF』と呼称)について、NSA及びFBIの合同特別チームが組織された。
6時間に渡る協議の結果、ケースFを特異かつ合衆国において有用な存在と認定。FBIによる証人保護プログラムを適用し、身柄を合衆国政府の管理下に置く事とした。
ケースFもこれを了承し、当人が保有していた*****を合衆国に提供する事と引き換えに、新しいIDと永住権が付与された。
ケースFの新しい姓名は……『***・****』。
手続きを終えたケースFは昨日釈放され、その身柄は、第一接触者であるハーグマン家に預けられることとなった
(以下略)
######
ティム・H・リンカーズの述懐
……という経緯で、『彼』ことトシヤ・タツカミ―彼の国の表記で龍神十四也―は、我が懐かしの実家、ハーグマン家にホームステイの学生という設定で居候する事となった。
僕たちがトシヤとの数少ない接触者であること、父さんが警察署長で、家族皆が守秘義務とかそういうのを弁えてる(であろう)とストレートに決まったらしい。
そしてこれ以降、公的な記録に彼の存在が現れる事は無くなる。
なので、ここからは僕や姉さんによる私的な回顧録となる。
事実を誤認していたり、何が起こっていたのか解らなかった事もある点に留意してほしい。
******
1985年8月17日 夜
フェアリーロイト 住宅街 ハーグマン宅
「まったく、なぜこんな厄介事を……。こんな措置、何かあったら一家丸ごと『消して』終わりにする為に違いなかろうが!」
と、『彼』を連れての帰宅早々、父アンドリュー・ハーグマンは愚痴を漏らした。
田舎町の警察署長とFBIとでは、とても抵抗のしようが無いからと、渋々受け入れた反動のようだ。
けれど、そんな父に賛同する声は無かった。むしろ母さんや姉妹たちは、未来人という存在を面白がって歓迎していた。……この僕も。
「ねぇねぇトシヤさん、あのスーツどんな性能があったの?未来では一般人でも装着出来るの?」
「ライダースーツか?アレは色んなナノテクが使われててね。四肢の関節には補助筋肉が入ってて、1人で2tまで持ち上げられるし、ヘルメットには通信機能と各種センサー搭載で、ビデオ通話しながら運転もできた。……まぁ、会社の備品だから、私物ではちょっと手が出ない値段かなぁ」
「お兄、未来ってどんなおやつがあるの?チョコは?ビスケットはまだある!?」
「アハハ、どっちもたくさん種類があるよ。……まぁチョコはカカオの木の世代交代で一時期貴重品になったけど……」
などと、未来の生活や技術についてアレコレ聴きながら、気づけば夕食の時間となった。
意外にも、『彼』は料理が上手だった。母さんと2人、いつもの半分の時間で6人分のグリルチキンとサラダ、コンソメスープをこしらえた。
「未来だと機械が全部やるんじゃ無いの?」
「そういうのもあるよ、ここに並んでるのが全部ワンプレートに収まってて、レンジで3分温めるだけの冷凍食品とかね。でも、手作りの方が安上がりだったり、趣味として嗜む人も多いよ。TV番組でコンテストやったりね」
と、こんな風に食事時まで未来の話題になったもんだから、父さんが遂にキレた。
「そこまで!トシヤ、貴様はもう口を開くな!ウチの家族に余計な知識をひけらかして、タイムパラ…なんとかが起こったらどうする!?」
タイムパラドックスと言いたかったらしい。
でも、その一言で皆がハッ、と時を止めた。
トシヤ・タツカミというイレギュラーと関わることで、未来の出来事が変わるかもしれない。起こるはずの出来事が起こらず、逆に本来は起こり得なかった事件が起こる。そんな当たり前なことが、頭から抜けていた。
けれど、『彼』は笑ってソレを否定した。
「大丈夫ですよ。少なくとも今後50年間、フェアリーロイトで世界史に残る事件は起こりませんから。2035年までは、知名度の低い長閑な田舎町として続いていくわけです。それに……」
と、『彼』はふと真面目な顔になり、テーブルの上で両掌を蝶の形にみせる。
「タイムパラドックスの説明で、この時代でも既にあるものとして『蝶』を使った例え話がありますよね。過去で蝶を踏み潰すと、その蝶を食べる筈だった別の生き物が、食えずに死ぬ。それが連鎖していって、やがて歴史が変わる大きなうねりになってしまう。という……でも俺のいた時代では、ソレを否定する理論が主流になってるんですよ。『セカンド・バタフライ理論』、というのがね」
「二度目の、蝶?」
「そう、例え蝶が一匹踏み潰されても、歴史を変えるほどにはならない。なぜなら、蝶を食いそこねた天敵は、他の蝶を食べるから。万物には予備となる存在がいて、もし歴史を遡ってメインの存在を消しても、それがよほど大きな存在じゃない限り、あらゆる方法で代わりが用意される、という理論です」
「大きな存在って……ジョージ・ワシントンとか、ジョン・レノンとか?」
「そうだね。全世界の教科書に載る程のビッグネームなら大変な事になるだろうね。でもその人達って、暗殺を企てることすら難しいでしょう?意図的に変えようとしても、多大な労力が必要になる。ちなみにこれは、逆に生き残らせようって場合も同じ。例えば、あの爆発事故」
と、『彼』はいつの間にか仕入れていた新聞をテーブルの下から出した。
この街の地方紙で、一面では荒いモノクロ写真と彼が兄弟を助けたアパート火災を報じていた。
『試験中の消防隊服で兄弟を救うも、隊員が殉職。
正規採用は取り止めに』
どうやら偉い人達がマスコミに介入し、情報を改変したようだ。
「あそこで死ぬはずだった人を俺が助けてしまったなら……その時は、まぁできれば違っていてほしいんだけど、彼らは近いうちに、別の形で死ぬことになる。アパートでの焼死が、自動車事故や病気に変わるだけ。……そしてその『二度目の蝶』は、絶対に防ぐことは出来ない」
「……」
『彼』は確信を持って、そう言い切った。
まるで、実際に歴史を改変しようとして、それに失敗した事があるかのように……。
「……って、夕食の席でする話じゃありませんよね。すいません。……とにかく、俺は大人しく、目立たず、平穏に生活するので、安心してください」
「ん~?もうむずかしいお話は終わり?じゃあメリーはごちそうさま。お風呂入るね~」
と、メリッサが一抜けしたのを機に、自然と未来談義はお開きとなった。
大人しく、目立たず、平穏に……『彼』はこの時そう言ったが、僕や姉さんは、心の何処かでソレを疑っていた。
そして半月後、僕らの学校で新学期が始まったその日に、その予感は的中した。
とある政府極秘文書
1985年8月18日 作成者********
3日前の8月15日、身分詐称他複数の容疑で拘束した**・**(男性、黄色人種、年齢24、出身地日本。以降『ケースF』と呼称)について、NSA及びFBIの合同特別チームが組織された。
6時間に渡る協議の結果、ケースFを特異かつ合衆国において有用な存在と認定。FBIによる証人保護プログラムを適用し、身柄を合衆国政府の管理下に置く事とした。
ケースFもこれを了承し、当人が保有していた*****を合衆国に提供する事と引き換えに、新しいIDと永住権が付与された。
ケースFの新しい姓名は……『***・****』。
手続きを終えたケースFは昨日釈放され、その身柄は、第一接触者であるハーグマン家に預けられることとなった
(以下略)
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ティム・H・リンカーズの述懐
……という経緯で、『彼』ことトシヤ・タツカミ―彼の国の表記で龍神十四也―は、我が懐かしの実家、ハーグマン家にホームステイの学生という設定で居候する事となった。
僕たちがトシヤとの数少ない接触者であること、父さんが警察署長で、家族皆が守秘義務とかそういうのを弁えてる(であろう)とストレートに決まったらしい。
そしてこれ以降、公的な記録に彼の存在が現れる事は無くなる。
なので、ここからは僕や姉さんによる私的な回顧録となる。
事実を誤認していたり、何が起こっていたのか解らなかった事もある点に留意してほしい。
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1985年8月17日 夜
フェアリーロイト 住宅街 ハーグマン宅
「まったく、なぜこんな厄介事を……。こんな措置、何かあったら一家丸ごと『消して』終わりにする為に違いなかろうが!」
と、『彼』を連れての帰宅早々、父アンドリュー・ハーグマンは愚痴を漏らした。
田舎町の警察署長とFBIとでは、とても抵抗のしようが無いからと、渋々受け入れた反動のようだ。
けれど、そんな父に賛同する声は無かった。むしろ母さんや姉妹たちは、未来人という存在を面白がって歓迎していた。……この僕も。
「ねぇねぇトシヤさん、あのスーツどんな性能があったの?未来では一般人でも装着出来るの?」
「ライダースーツか?アレは色んなナノテクが使われててね。四肢の関節には補助筋肉が入ってて、1人で2tまで持ち上げられるし、ヘルメットには通信機能と各種センサー搭載で、ビデオ通話しながら運転もできた。……まぁ、会社の備品だから、私物ではちょっと手が出ない値段かなぁ」
「お兄、未来ってどんなおやつがあるの?チョコは?ビスケットはまだある!?」
「アハハ、どっちもたくさん種類があるよ。……まぁチョコはカカオの木の世代交代で一時期貴重品になったけど……」
などと、未来の生活や技術についてアレコレ聴きながら、気づけば夕食の時間となった。
意外にも、『彼』は料理が上手だった。母さんと2人、いつもの半分の時間で6人分のグリルチキンとサラダ、コンソメスープをこしらえた。
「未来だと機械が全部やるんじゃ無いの?」
「そういうのもあるよ、ここに並んでるのが全部ワンプレートに収まってて、レンジで3分温めるだけの冷凍食品とかね。でも、手作りの方が安上がりだったり、趣味として嗜む人も多いよ。TV番組でコンテストやったりね」
と、こんな風に食事時まで未来の話題になったもんだから、父さんが遂にキレた。
「そこまで!トシヤ、貴様はもう口を開くな!ウチの家族に余計な知識をひけらかして、タイムパラ…なんとかが起こったらどうする!?」
タイムパラドックスと言いたかったらしい。
でも、その一言で皆がハッ、と時を止めた。
トシヤ・タツカミというイレギュラーと関わることで、未来の出来事が変わるかもしれない。起こるはずの出来事が起こらず、逆に本来は起こり得なかった事件が起こる。そんな当たり前なことが、頭から抜けていた。
けれど、『彼』は笑ってソレを否定した。
「大丈夫ですよ。少なくとも今後50年間、フェアリーロイトで世界史に残る事件は起こりませんから。2035年までは、知名度の低い長閑な田舎町として続いていくわけです。それに……」
と、『彼』はふと真面目な顔になり、テーブルの上で両掌を蝶の形にみせる。
「タイムパラドックスの説明で、この時代でも既にあるものとして『蝶』を使った例え話がありますよね。過去で蝶を踏み潰すと、その蝶を食べる筈だった別の生き物が、食えずに死ぬ。それが連鎖していって、やがて歴史が変わる大きなうねりになってしまう。という……でも俺のいた時代では、ソレを否定する理論が主流になってるんですよ。『セカンド・バタフライ理論』、というのがね」
「二度目の、蝶?」
「そう、例え蝶が一匹踏み潰されても、歴史を変えるほどにはならない。なぜなら、蝶を食いそこねた天敵は、他の蝶を食べるから。万物には予備となる存在がいて、もし歴史を遡ってメインの存在を消しても、それがよほど大きな存在じゃない限り、あらゆる方法で代わりが用意される、という理論です」
「大きな存在って……ジョージ・ワシントンとか、ジョン・レノンとか?」
「そうだね。全世界の教科書に載る程のビッグネームなら大変な事になるだろうね。でもその人達って、暗殺を企てることすら難しいでしょう?意図的に変えようとしても、多大な労力が必要になる。ちなみにこれは、逆に生き残らせようって場合も同じ。例えば、あの爆発事故」
と、『彼』はいつの間にか仕入れていた新聞をテーブルの下から出した。
この街の地方紙で、一面では荒いモノクロ写真と彼が兄弟を助けたアパート火災を報じていた。
『試験中の消防隊服で兄弟を救うも、隊員が殉職。
正規採用は取り止めに』
どうやら偉い人達がマスコミに介入し、情報を改変したようだ。
「あそこで死ぬはずだった人を俺が助けてしまったなら……その時は、まぁできれば違っていてほしいんだけど、彼らは近いうちに、別の形で死ぬことになる。アパートでの焼死が、自動車事故や病気に変わるだけ。……そしてその『二度目の蝶』は、絶対に防ぐことは出来ない」
「……」
『彼』は確信を持って、そう言い切った。
まるで、実際に歴史を改変しようとして、それに失敗した事があるかのように……。
「……って、夕食の席でする話じゃありませんよね。すいません。……とにかく、俺は大人しく、目立たず、平穏に生活するので、安心してください」
「ん~?もうむずかしいお話は終わり?じゃあメリーはごちそうさま。お風呂入るね~」
と、メリッサが一抜けしたのを機に、自然と未来談義はお開きとなった。
大人しく、目立たず、平穏に……『彼』はこの時そう言ったが、僕や姉さんは、心の何処かでソレを疑っていた。
そして半月後、僕らの学校で新学期が始まったその日に、その予感は的中した。
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