ゲーム転生したようです。

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メイド?戦闘職ですよね?

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 何とも不思議な幸運に巡り合い、メイドという職にありついて暫く、ハッと気付けば私は何故か“乳母”へとジョブチェンジしておりました。
・・・あれ?

 メイドになって数ヶ月後、私達を拾って下さった若奥様が出産の日を迎えました。嵐の夜のことでした。
 その日、夕方頃迄はお産の気配は微塵も無く、助産医さんも出産はまだ暫く先になるだろうと帰途に着かれたのです。
 が、空模様が荒れるのと呼応する様に強くなった産気は止まること無く、産医が戻って来るのを待たずに、若奥様は小さな男の子を産み落とされました。
 そして、その時何故か助産医の代わりを務めたのが、私だったのでした。

 出産の智識は頭に叩き込んでありました。なんせ誰も助けてくれない中で出産しなければいけない可能性がありましたので。産婆のお姉さんは同じ村の人ではなかったので、急に産気付いた時に困らない様に頭に叩き込んでおいたのです。
 必死で覚えた智識は、ここで初めて陽の目をみることになったのですが、やはり“蓄えた智識”はけして“無駄”にはならないのだと、改めて痛感したのでした。

 それから数日もしないうちに、新たな問題が発覚しました。
 どうやら、若奥様は母乳の出がすこぶる悪いようで、授乳してもお坊っちゃまは直ぐに空腹を訴える様にむずがり暴れます。それどころか、終いには若奥様が抱き上げただけで泣き出す始末。
 途方に暮れた若奥様とメイド長を横目に、何故か私があやすと大人しくなるお坊っちゃま。直ぐに私はお坊っちゃまの専属メイドに任命されたのですが、それだけでは終わりませんでした。
 メイド長が代わりの食事(ヤギの乳だそうです)を用意している間、空腹を訴えて泣き続けるお坊っちゃまを抱き上げあやしていた時の事、何故か私の胸元が濡れてきました。そして、それを泣き止んだお坊っちゃまが、しきりに舐めるのです。
 不思議な事に、疾うに止まっていた筈の私の母乳がまた出る様になっていたのでした。

 胸のサイズの事は放っといて下さい!赤ン坊三人に吸い尽くされて、縮んだんです。仕方ないんです。けして、元から全く育ってなかったわけじゃないんですからね!!


 あれよという間にお坊っちゃまの専属メイド兼乳母へと就任した私は、やっと安定した暮らしを手に入れたと安心したのですが、やはり世の中そう簡単にはいかないようです。
 私がお坊っちゃまの乳母になって三月も経った頃、ずっと不在だったこの屋敷の旦那様が帰って来られました。


 「おお、メリアリーデ、今帰ったぞ。長く一人にしてすまなかったな」

 帰ってきた旦那様は、いの一番に玄関先で若奥様を抱き寄せました。何というか、やたら大仰な仕草が舞台芝居の様です。

 ヤバイ、吹き出しそうです。耐えろ私。

 思っていたより大分濃い感じの旦那様は、若奥様よりもかなり年嵩の様です。後から聞いた話、若奥様は後妻なのだそうですよ。

 「お帰りなさいませ、旦那様。私は大丈夫ですわ、皆が良くしてくれますもの」

 スルリと旦那様の腕から抜け出した若奥様のステップスキルがキラリと光ります。ですよね~。

 「それで、私の息子は何処かね?」

 めげない旦那様は、何事も無かったかの様に襟を正しつつ問います。

 「こちらに」

 後ろに控えていたメイド長からお坊っちゃまを受け取り、若奥様は旦那様へ御披露目しました。

 「ふむ。健やかそうでなにより」

 あれ?それだけ?
 若奥様にはあんなに鬱陶し・・・ゲフン。もとい、熱烈に挨拶(笑)していたのに。我が子には、一応義務的に見るだけ、みたいな視線しかやりません。
 子供、大事じゃないのでしょうか?
 私の疑問を他所に、旦那様はそうそうに部屋へ引っ込んでしまいました。

 それから暫く、お坊っちゃま付きメイド兼乳母である私は、旦那様に会う事なく過ごしました。
 つまり、旦那様はお坊っちゃまに会いに来ません。
 下級とはいえ貴族ですから、会わずに済むのは私の精神衛生上は良いのですが、子供を持つ親としては心配になります。

 というわけで、レッツ★聞き込みです!
 というか当然私は話せないので、任意傍聴です。
 別名、盗み聞きとも言いますね!

 あっ、私の事はお気になさらず。ちょっと井戸端会議してる横で、お坊っちゃまのオシメを洗っているだけなので。
 いえいえ、大丈夫ですよ。皆様がかしましくおしゃべりしながらお茶してる後ろで、遅めの昼食をとっているだけですから。
 あらあら、ご苦労様です。お仕事上がりに皆様でほんのりお酒を嗜んでらっしゃるのですね。私はお坊っちゃまのお尻拭き用にお湯を貰いに来ただけですので。

 私、隠密いけるかもしれません。
 間者?スパイ?無口キャラの私には天職なのでは?
 口きけないだけですけど。

 地道な隠密活動(ただの盗み聞き)の結果、旦那様がお坊っちゃまへ関心を持たない理由が判明しました。
 なんと、旦那様には前妻との間に、既に二人の子供がいるらしいのです!
 ・・・まあ、いますよね。あの歳ですし。
 っというか、それで後妻に美人な若奥様とか、爆破案件ですよね!これだから貴族は!!
 と思ったのですが、元から貴族だったのは若奥様の方で、旦那様は所謂『成金』というやつらしいです。

 旦那様のお祖父様がやり手の商人だったそうで、一代で中級貴族程度の財を築いたのだとか。
 対して若奥様のお家は、貴族とは言うものの没落寸前で、旦那様を婿に迎える事で出資を得、貴族としての体裁をなんとか保っているそうです。

 初めて出会った時に一人で出歩いていた若奥様が、弱小とはいえ貴族令嬢と聞いて驚きました。
 何故お一人で出歩いていたのか不思議に思ったのですが、若奥様はただの散歩だと笑っておられました。まあ、妊娠中はストレス溜まりやすいですからね。
 それでも、
 「没落寸前の貴族なんて、平民とさして変わらないわよ」
 と、コロコロ笑って見せる若奥様は、儚げな容姿の割に、なかなか強かな方なのだなと理解しました。

 そんな強かな若奥様の連れてきた新人メイドな私を、若奥様の顔に泥を塗らない様にと育てて下さったのは、若奥様が子供の時分から仕えていたというメイド長さんでした。なんなら老執事さんも巻き込んで、あらゆる技術を私に叩き込んで下さいました。
 とはいえ、出来る事と出来ない事があるのですけどね。私、元のスペックがかなり貧弱ですし。
 むしろ、チョコチョコ私の後ろに付いてくる息子・ユキと娘・リッカの方が、覚えが早かったくらいです。
 あなた達、それ以上ハイスペックになってどうする気ですか? 一人ダメっ子なお母さんは泣いちゃいますよ? どじっ子とか担当する気は無いですからね? 無表情などじっ子メイドとか、需要無いですよ?

 教えられる事柄は多岐にわたり、ついて行くだけでも必死な私は、前世の智識もフル稼働してようやっと食らい付いていられたのですが、どんどんと不思議な方向に進むメイド教育に疑問を持つ隙も無く、ハッと気付けば、スカートの下に武器を仕込むのが当たり前になっておりました。
 え?メイドって“戦闘職”ですよね? と普通に考えている自分に愕然としながら、ここがライトなファンタジー好きのお兄さん達が好むゲーム世界だった事に思い至ったのでした。

 わ、忘れてた……。

 というか、ユキちゃん、リッカちゃん、お母さんを置いてかないで! ハイスペック幼児の成長が酷いです。
 何気にユキちゃん、執事教育も受けてますよね? あと、何でたまに“男の娘”になってんですか!?
 リッカちゃんダメです!そんな仕種は貴方にはまだ早いですから!娘がどんどんあざと可愛くなっていく!
 ユキちゃん、リッカちゃん、それ意味分かって無いですよね? いえ、分からなくて良いのですが。むしろ分かっちゃダメーーー!!

 そんなこんなで、なんとかメイド業に慣れた頃、旦那様が王都から戻って来られたのでした。
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