異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明

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東の街へ

疑念の火種

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???視点

深夜2時頃、俺たちは暗闇に紛れて対象が眠るテントを探し出した。
仲間の1人に指文字を使って合図を送ろうとしたその時、何かの気配を感じて草陰にさっと隠れた。

10代ぐらいの少年たちの声が森のなかに静かに響く。

「でも、よかったんか?帝国に行くことにして。」

「僕はね、最後死ぬその時まで、君達と共に在る覚悟がある。答えはそれだけで十分じゃないかな。」

不意に、緑色の瞳と目が合った気がした。

「…っ!!」

偶然か?いや、、Cランク程度が気づくわけがない。たまたまだ。そう、たまたまに決まっている。

「…ただ、風の噂で聞いたんだけど、君の村は消滅した可能性がある。」

「えっ、それ初耳やねんけど!」

「そりゃあ初めて言ったからね。そもそもこの情報を掴んだのは今日の夕方だし。なんで消滅したのかはまだ分かってないらしいから、信ぴょう性は疑わしいけどね。」

そう言って少年はこちらを見て不敵に笑った。

背中に冷たいものが走る。

これは…勘づいている。

そう気づいた瞬間、目の前に捉えていたはずの少年の姿がなかった。

「いったいどこに……っ!」

カキンという音と共に火花が走った。

短剣をギリギリ受け止めて、俺は咄嗟に後ろに下がった。

「さっきから視線を感じるなと思ってはいたんだけど、まさか本当にいるとはね。見たところ、誰かに雇われた殺し屋とかじゃなさそうだから、組織的な盗賊とかかな?」

この少年以外にも赤い瞳の少年がどこかにいるはず。さすがにこれは分が悪いな。

このまま戦えば確実に負ける。

逃げるが勝ちか…

腰につけていた狼煙をあげ、撤退の合図を送る。

ナイフを取り出してテントの方に投げた。

「…っ!」

少年がそのナイフをはたき落とすために移動した隙に俺は簡易転移魔法陣を発動させた。


カイ視点

「…簡易転移魔法陣、か。ふつう盗賊がそんなもの持ってるかな?」

男が消えた方を見ながらそう呟いた。

「そっちはどうだった?」

「すまん。逃げられたわ。」

「逃げに特化してそうだったし、仕方ないよ。僕の初撃を受け止めた時点でかなりの実力者では間違いだろうね。」

「どうする?皆を叩き起こしてここから一刻も速く避難したほうがええんちゃう?」

「いや、こんな真夜中に馬車で移動するのは逆に危険だよ。もう少し様子を見てから判断しても遅くない。」

「無理したあかんで。さっきの気配、正直ゾッとしたわ」

そう言ってコウが肩をすくめる。

「向こうも同じだよ。僕らに見つかって、かつ殺しきれなかった時点で、かなり慎重になっているはず。」

そう言って僕は焚き火の側に腰を下ろして、周囲の警戒を一層強めた。

それ以降、森は拍子抜けするほど静かだった。
風が枝葉を揺らす音と、時折どこかで鳴く夜鳥の声。それ以外に、異変と呼べるものは何一つなかった。

僕は焚き火の火力を最小限に保ったまま、夜の気配に神経を研ぎ澄ませ続けていた。襲撃時に感じた微かな違和感も、まるで最初から存在しなかったかのように消えている。

引いた、か。おそらくこれは敗走ではなく様子見の撤退。相手は僕らに関する情報を得た。それだけで十分だったのだろう。

わざわざ気配を消すことに特化したヤツを送ってきたんだ。普通の盗賊ではないのだろう。

再度の襲撃に出ないという事実が、逆に胸の奥に小さな引っかかりを残す。

殺す必要がない。あるいは、今は殺すべきではない。そう判断された可能性が高い。

なら、目的は…やはり…

夜は深まり、やがて空の色がほんのわずかに薄れ始める。
誰かが寝返りを打つ気配がした。

この夜は、何も起きない。

そう確信した瞬間、逆に気が抜けそうになる。だが、油断はできない。何も起きない夜ほど、警戒すべきものはないからである。

僕は焚き火を見つめながら、先ほど交わされた会話を思い返すこともなく、ただ事実だけを整理していた。

見られた。気づかれた。逃げられた。
ただ、それだけだ。

夜明け前は森は一番静かになる、世界が息を潜めるような、そんな曖昧な時間。

やがて太陽が昇り始めても、テントも馬車も、誰一人として欠けていなかった。足跡も、血の匂いもない。ただ、昨夜までと同じ風景がそこにある。

だからといって、この夜が「何もなかった夜」として終わることはない。

そう思って、僕は一足先に起きてきたロアンさんの方を見た。

彼はおそらく何か知っているはずだ。

彼らは間違いなく誰よりも子どものことを思っている。それなのに幼い子どもを連れて一週間も移動しなければならなかった理由が、奥方のご両親の体調不良では説明がつかない。

ロアンさんは信用できる。
少なくとも、僕はそう思っている。
だからこそ、この違和感を曖昧なままにしておくわけにはいかない。

僕はそう思って彼のもとへ歩き出した。
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