23 / 29
第三章
壁の家
しおりを挟む”シース”と名乗った女の子について行く。
ここは底穴と呼ばれるダンジョンの第六階層、モンスターも出るのだが、この子は安全な道を知ってるようだ。
「先に見つからなければ平気さ!」と逞しいことも言う。
天井まで三十メートルほどあり、地下迷宮と言うよりも森や街がそのまま地下に沈んだような不思議なダンジョン。
その中で建物に囲まれた狭い通路を、シースはすいすいと歩いていく。
幾つか気になっていたことを聞いた。
「なあ、地上で暮らさないのかい?」
「……ここの方が、安全なんだ」
「どうして?」
「ボク達はローテルの孤児だから。捕まったら売り飛ばされる」
ローテルというのは、最初に訪れた町の名前。
巨大なダンジョンの近くということで、とても繁盛していた。
商店・宿屋・飲み屋、そして娼館。
孤児は、そこの女たちの子供がほとんどだそうだ。
「春を売るのに、子供は邪魔なんだよね」と、シースは何でもないように言った。
うーむ、十を過ぎたあたりに見える子供の口から聞きたい話ではないなあ。
腕自慢の冒険者が集まる場所、その暗部を少し覗いてしまった。
「ここで孤児ばかりで暮らしてるのかい?」
「そうだよ。ここは冬がないからね、凍死しなくてすむ。それに、おっさんみたいな間抜けな冒険者から、適当に盗んで売ってりゃ食ってけるんだ」
このガキ! 全然反省してねえ!
だがまあ、自分らの才覚だけで必死に生きてる子供を、俺の世界の常識で怒鳴りつけるのも変な話だ。
自分だけでも、昔の常識に従いますかね。
子供に『助けて』と言われたら、大人は無条件で手を差し伸べるって常識に。
「なあ、シース」
「なんだい、おっさん」
「おっさんはやめてくれ。俺には”ゆうた”って名前がある、優しいって意味だ」
数歩前を行くシースがこっちを振り返る。
「変な名だ。ユウタだって、ユウタ!」
初めてシースが子供らしい笑顔を見せた。
薄汚れた茶色い顔だが、ぱっちりとした目とえくぼがかわいい。
そしてまた俺は、余計なことを言ってしまう。
「うんうん。笑ってた方が良い、将来は美人になるぞ」
シースは、短く刈られた髪を引っ張りながら答えてくれた。
「そうかな、そうだとイイなあ。この髪だと男の子にしか見えないし」
口調も原因だと思うけどね。
少し打ち解けてくれたのか、次第に口数も増えてきた。
それから丸刈りの女の子が衝撃的な提案をしてきた。
「ユウタさ、ボクの髪が伸びた頃、買いに来てよ。あと一、二年もすれば盗みをやめて街角に立つんだ。そうすれば、弟妹たちにもう少しマシなものを食わせてやれる」
えっ! ――と言いたかったが、声が出なかった。
『待て、止めなさい』と言うのは簡単だが、盗みや売春をしてでも下の子の面倒をみる決意に、なんて言えばいいのだろう。
「どう? 安くしとくよ?」
俺に呼びかける『姉』と呼ばれる女の子の顔には、何の負い目もなかった。
七層へと降りた。
子供らの住処はこの階だそうだ。
「シース、5層のボスはどうしてるんだ? あれを倒さなきゃ降りて来れないんだろ?」
「抜け道があるんだ。内緒だよ」
「それって5層だけ?」
「お、ユウタは鋭いね。10層にも15層にもあるよ! そっから先は魔物が鋭くてさ。何なら案内してやろうか?」
それは是非とも頼む。
一気に降りれれば、それだけ早く仕事も終わる。
どの階も数キロ四方はある大きなフロアで、下手すりゃ1日に一つか二つがやっとだ。
道案内の約束を取り付けた頃――お礼に残ったお金と宝石を全部あげると約束した――シース達の家へ着いた。
「壁……にしか見えないけど?」
そこはダンジョンの端、壁に面したところだった。
「まあ見てなって!」
シースが石ころを拾って壁の一部を叩くと、その近くの壁がへこむ。
魔法ではなく人力で中から引っ張ってるようだ。
隠れ家は壁の中にあった。
「シースだ!」「シース、シース」と、中から子供の声がする。
「お医者さんを連れてきたんだ。心配しなくていいからね」
シースはそう言ってくれたが、子供らの視線は厳しい。
見ず知らずの大人は、最大限警戒するようになってる。
「大丈夫、何もしないよ。あ、いや、治すだけだからね」
全力で優しい笑顔を作ってみたのだが、余計に胡散臭いと思われたみたいだ。
壁の中は想像してたよりもずっと広く高い。
木の根が何百と入り込んで空間を支えていた。
「こっち」とシースが先に立って歩く、見つめる子供らだけで十人以上。
そして案内された先には、五人の子供が寝ていた。
見るからに血色が悪く、苦しそうだ。
一応、「原因は?」と聞いたら、近くの川で水を飲んだらこうなったと。
あとで川とやらも見にいってみよう。
<<治療>>
ただの医術や薬草の神なんかではない、絶対神がくれた能力。
水に当たったか毒か分からないが、ほんの一瞬で全快させる。
俺の後ろで見ていた二十以上の瞳が、あっという間にキラキラになる。
「凄いや!」
「本物のお医者だ、初めてみた!」
「あのね。わたしの右目、見えないの」
「足が痛い!」
口々に騒ぐ子供らを集めてから俺は言った。
「さあ順番にならんで。悪いとこ、全部治そう!」と。
シースは、治った5人を抱きかかえるようにして泣いていた。
歳は11か12といったところで、二十人近い子供の面倒見てたのか、この子は……。
女神さま、すいませんが少し出張が長引きそうです。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる