女神さまの代理人 ~暗黒企業から女神の下僕に出世しました~

六倍酢

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第三章

人の方が怖い

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 ダンジョンの地下200メートルに住む孤児の群れに、夕食をご馳走になった。

 いやまあ、俺の荷物を売ったお金で買った穀物の粉と、子供らが仕留めた獣肉、それにこの辺りに生えてる野草だけれど。

 贅沢は言わない、食い物の事情が良くないのは見てても分かる。

「すげー! ご馳走だ」とか「お医者さんが来たから?」とか、「お祝い?」などと子供らがはしゃいでいる。

 涙で喉を通らねえ……と思ったが、感謝して食った。

『どうすっかなあ……女神さまに土下座して何とかしてもらうかぁ……』
 行きずりだからと放って行けるほど、凄惨な人生は過ごしてない。
 キツイ前世だと思ってたが、割と”まとも”だったなと感じてしまう。

「おじちゃん、ずっとここに居てもいいよ?」
 病気の治った子供が、にかっと笑っていった。
 いかん、また涙が……。

「そうもいかないの。ユウタはこれから一番下まで潜るんだって」
 シースがなだめてくれるが……これは俺の事情というより、子供たちに期待を抱かせたくないのだと分かってしまった。

 食後、シースが鎧や兜を持ってきた。
「防具まで売ってごめんなさい。これ使って」と。

 倒れた冒険者の遺品らしい、俺が買ったものは既に売られていた。
 ついでに宝石類は手付かずのまま、子供だけでは売り様がなかったそうだ。

「うーん、大丈夫。要らないよ、お兄ちゃんは強いからね」
 一度は断ったが、シースは強く勧めてきた。

「そんな格好だと、ボスと戦うのに混ぜてもらえないよ」
「あー、そういう事もあるのか。なら、ありがたく使わせてもらうね」

 壁の中に掘られた家は、木の根に沿いアリの巣のように広がっていて、一番大きな部屋が食堂兼寝床だった。

 ここで年下のグループに囲まれて寝る。
「あのね、ちょっと前はもっとお兄ちゃんやお姉ちゃんがいたの」

 5歳くらいの男の子が教えてくれた。
 乳児は居ない、喋れて歩けるくらいが一番年下だ。

「どういうこと?」
 俺の質問に別の女の子が答えてくれた。

「シースはね、3番目くらいのお姉さんだったの。ニース――年長の少年たち――も、3人くらい居たの。けど、ちょっと前に出てったきり戻って来ないの」

 それでシースが一番上のお姉ちゃんになったらしい。
 上の子達は、仕事――盗み――に出て捕まったか、最悪はモンスターの犠牲になったか……。

 十歳前後の子は7人居た。
 それがまだ幼い10人程の面倒を見ている。

『この状況で、何時までも上手く行くはずがない。地上で安全なとこを用意してやれないものか……』

 色々と考えてみたのだが、周りで眠る子供たちの体温は高く、その温もりに誘われるように俺は眠りに落ちた……。


「きゃー!」
 遠くからの子供の悲鳴で跳ね起きた。
 いや遠くない、壁を通して聞こえたくらいだから近くだ。

 食堂兼寝床から出ると、シース達”年長組”が手に手に棍棒や剣を持って集まってきた。

「水を汲みに行った子たちが!」
 シースが何か言いたげに俺を見た。

 その先は言わなくても大丈夫だ、おじさんに任せとけ。
 壁の穴から飛び出て広域で<<探索>>、子供の反応が4つに知らない反応が9つも!?

 加速に身体強化、戦闘用のレーダーみたいなスキル、どれもこれも発動させて一気に走る。

「待って! 武器!」と、後ろから声がかかる。
 そういった習慣がないから、素手で飛び出していた。

 ま、何とでもなるだろう。
 木々を挟んで150メートルほどの距離を5秒ほどで駆ける。
 酔った女神さまがくれた力は素晴らしい。

「なんだおめえ?」
 意外な事に、子供らを捉えていたのは人間だった。
 見た目、喋る言葉、装備……どれを見ても人にしか見えないが。

「あー、その子らを離してやってくれないか? 怪しい子たちではないんだ」
 魔物でなくて良かった、話が通じるだろうと思ったのが甘かった。

「寝ぼけてんのか? 獲物を譲るバカが何処にいる」
「こういうのは早いもの勝ちだぞ。素っ裸の兄ちゃんよ」

 失礼な、服は着ている……あ、装備がゼロだった。

「いやいや。その子らは、迷子でも誘拐されてここに居るわけでもない。なんと言うか、ここの住人みたいなものなので、手を離してくれませんか?」

 9人の男達は、互いに視線を合わせてから、バカを見る目つきで笑いだす。

「お花畑の兄ちゃんよ、んなことは知ってるよ」
「子供の奴隷はそこそこの値がつく、お前もその手合じゃないのか?」
「前に捕まえた五人はいい値になったからな。生き残りがいないか探しに来て良かったぜ」

 9人の男から口々に、散々にバカにされたが、俺は本当に平和ボケの馬鹿だなあ……。

『こいつらが……ここの兄や姉役として頑張ってた子供達を……!』
 適切な台詞が浮かばない、怒りに燃えるという言葉の意味を初めて理解した。
 体温ってのは感情で急上昇するものなんだな。

 半歩踏み出した時、後ろからシース達がやってきた。
 残りの年長組、5人全員で手には武器を持って。

 男どもがまた騒ぐ。
「見ろ、増えたぞ!」
「売春宿に売れる年齢だ、運が良い!」
「捕まえろ、大漁だ!」

 シース達が来て、俺はやっと冷静を取り戻した。
 子供の目の前で惨殺なんてしたら駄目だよなあ……女神さまの名前にも傷が付く。

 俺の左右を通り過ぎようとした4人、なるべく手加減して一番近い二人の膝を蹴る。
 たぶん砕けたと思うが、あとで治してやるよ。
 驚く一人を担ぎ上げもう一人に投げつけた、時速60キロくらいで。

「あと五人」
 残りの五人は剣やナイフを抜くが、そんなもので俺が止まるかよ。
 腕ごと叩き折ったのが二人、胸の真ん中を殴ったら鎧が陥没したのが一人。

「く、来るな! 刺すぞ!?」
 子供を人質にした糞野郎が一人……。

 ナイフを突きつけられた子と目が合う。
 強い子だなぁ、怯えていても目は力を失ってない、放っておくと『僕は良いからやって!』と言い出しそうだ。

「大丈夫、守りの魔法をかけた。もう傷一つ付かないよ」
 なるべく優しい顔を作って話しかけるが、実のとこ魔法ってのは嘘だ。
 人に力を分け与える能力は貰ってない、細工したのはナイフの方。

「てめえっ!」の掛け声と共に、人狩りがほっぺに刃を押し付けやがる。
 そんなものでは産毛の一本も切れないが、お前はちょっと許さない。

 ナイフを持った男の顔を、かなり強めに殴る。
 男は10メートルほど転がって、川に落ちた。

 最後に残った男は、武器を捨てて両手を上げた。
 全世界共通の降伏ポーズ。

「あの男、拾い上げてやれ。溺れて死ぬぞ」
 最後の男は、川へと飛び込んだ。

「おいで!」とシースが声をかけると、小さい二人がその腕にしがみつく。
 大きい二人の頭を頭を撫でながら、俺は人質になった子に声をかけた。

「よく頑張ったな、偉いぞ」と。
 嬉しそうに目をつむった男の子は、大きな声で礼をいってから続けた。

「ねえ、俺達に戦い方を教えてよ。強くなれば、こんな事も起きないからさ」

 よし、なら孤児を引き連れてダンジョンでのスローライフだ!
 といきたいところだが……そうもいかん。

「お前たちのことは、偉い人に頼んでみるから。もうちょっと待っててな?」
 今の俺には、それだけ答えるのが精一杯だった。
 
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