朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第四章

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 アドラー達の帰りの船も、『樹冠を舞う四つ羽の黄金鳥』号だった。

「王家所有の船だったのか。そりゃ良い性能のはずだ」

 緑地に黄金鳥、スヴァルト王家の紋章にちなんだ名を持つ高速貨客船。
 船長のドゥルシアンが、直々に桟橋まで一行を出迎えた。

「みんな元気そうでなによりだ! 色々と世話になったようだな!」
 船長が、がちりとアドラーの腕を握る。

「帰りもお世話になります」
「ああ、任せてくれ。おい荷物を運べ、一等船室に丁寧にな!」

 全員が無事どころか、ダルタスが増えた”太陽が掴む鷲”団を、船長が案内する。

「演習を見ていくかい?」
 ドゥルシアンがアドラーに聞いた。

 結果的にスヴァルトを救うことになった、二大国の海軍演習。
 どんなものかアドラーも興味が湧いた。

「ええ、見れるものなら」
「この港の僅か六十海里ほど沖合だ。大艦隊だぞ!」

 他国のことながら、何故か楽しそうにドゥルシアンは語る。


 ミケドニア帝国とアビニシア連邦の集結海域を、かすめるように黄金鳥号は進む。

「これは、凄いな!」

 ドゥルシアンがわくわくしていた理由が、アドラーにも分かる。
 蒼い海の上に木製の長城と、さらに白い葉を付けたマストが林立していた。

「軍艦だけで110隻、支援艦を含めて150を超えるそうだ」
 海の男である船長は自慢気。

「あの船は大きいな」

 アドラーが八本マストの大型船を指す。

「あれか。あれこそがミケドニア海軍の総旗艦で、海の女王の別名があるシグルドリーヴァ号だぞ。三千人もの歩兵が乗り込めるそうだ」

 ドゥルシアンが語った全長を地球の尺に直すと、二百メートル近かった。
 大航海時代のサンタ・マリア号の八倍以上ある。

「そりゃスヴァルト侵攻どころではなくなるな……」
「ああ、運が良かった。もちろん、アドラー殿の助力あってこそだが……」

 船の片側に鈴なりの乗客に混じり、アドラーとドゥルシアンは艦隊を見つめていた。

「くそっ! 見えない! ダルタス、抱っこしてくれ!」

 アドラーの後ろでは、キャルルがさっそくオークと仲良くなっていた。

「うむ。肩に乗るがよい」
 オークは女子供に優しい。

「へへっ、あんがと!」
「あっ、あたしも!」

 ブランカまで飛び乗るが、ダルタスは子猫でも担ぐかのように立ち上がる。

「すげー!」
「たかいー!」

 二人は大喜びで、百を超える艦船を眺め始める。
 艦隊と最も接近した頃、ブランカが大きく口を開いてアドラーに聞いた。

「だんちょー、あれに撃ってもいいか?」
「駄目です! 絶対にダメ!」

 怒られるのを待っていたかのように、ブランカは楽しそうに笑う。


 これからの三百年ほど、スヴァルト国に戦争はなかった。
 ただし、戦いがなかった訳ではない。

 地を這う魔物の大集団が現れた時には、エルフとオークの同盟軍は二足種族の主力として活躍した。

 もう一つ、スヴァルトの歴史を変えることがあった。

 今より百年ほど経った頃、一冊の書物が出た。
 王家の血を引くハーフエルフの冒険者が、祖国に請われ『王子』の身代わりとしてオークと戦う物語。

 オークと友情を築いた冒険者は、白き竜と黒き虎――どちらも雄――を従え大陸を放浪する、男の友情を濃く描いた貴種流離浪漫冒険譚。

 これが世界中の女子と貴婦人の心を鷲掴みして、大ベストセラーになる。
 以後、スヴァルトは聖地として観光客が押し寄せる……。

 作者は何処かの森に住む魔女だと言われるが、不明。
 なお、主人公であるキャルルマーニの師匠として、異界の剣士がいるが、名前は一行も書かれていない。


 背中に剣を縛り付けたキャルルが、ダルタスから飛び降りる。

「兄ちゃん、ダルタス、飯にしよう!」
 姉ばかりの少年にとって、強い二人は憧れの存在だった。

「ああそうだな……。おい、キャル、剣はしまっておきなさい」

「ええー! せっかく貰ったのに?」

「それでもだ。少しお前には大きいか?」
「そんなことない! 直ぐに体が追いつくよ!」

 エルフ王は、本当にキャルルに剣をくれた。
 
 ひと目見たアドラーが、思わずため息を付いたほどの素晴らしく美しい剣だった。
 キャルルを説得して、細工は全て隠すほどの剣である。

「まあ良いか……。使いこなすには十年以上かかるかな」

 アドラーがみんなを連れて船室へ戻る。
 船室には、エルフの王からの贈り物が山積み。

「金はあまりないが、物は沢山ある。どれでも持ってくが良いぞ」

 そう言ったエルフ王は、宝物庫を開いて好きなものを選ばせる。
 アドラーは遠慮なく漁るというわけでなかったが、一つのタリスマンの前で足を止めた。

「ほう、その護符の力がわかるかね?」
「強い魔法は分かりますが……強すぎますね」

 数千年は経た秘宝で、市販されている魔法を封じた護符とは桁が違う。

「うむ、そうじゃ。下手に身につけると、魔力どころか生命まで吸い取られかねん。だが、それが分かるなら良いじゃろう、持ってけ」

 エルフ王はブローチ型の護符を投げた。
 アドラーが慌てて受け止めると、ずしりと重い。

「黄金製じゃ、売っても良いぞ?」
「売れませんよ! こんな危ないもの……」

 エルフ王は優雅に笑う。
「ほほほっ、そなたが無理なら誰も使えぬ。墓まで持ってくが良い」

 アドラーは、エルフ創世記より伝来のタリスマンを手に入れた。

 それ以外にも色々と貰った。
 女性陣が特に喜んだのが、エルフ特産の絹地。

 ミュスレアもリューリアも、さっそく船の中で服に仕立て始めた。

「へぇー。ミュスレアって、裁縫は出来るんだ」
 無礼な一言を口にした団長をじろりと睨み、長女は針を動かす。

「姉ちゃん、他は全滅だけど縫い物だけは出来るよ。ボクの服は、姉ちゃんらの古着を直したものだし」
 弟がフォローした。

「そうね、家事の中でもこれだけはね。まあ花嫁になるには、最低限ってとこ?」
 次女が追い打ちをかけた。

「このっ! あんたらねぇー!」

 生意気盛りの妹弟をミュスレアが睨むが、本気でないので二人とも怖がったりしない。

「ふんっ! もういいわ、ちょっとお酒もらってくる!」
 拗ねた長女は、食料庫に酒樽を分捕りに出ていった。

 ミュスレアの縫いかけの服を手に取ったリューリアが、アドラーを見ながら言った。

「本当に良い生地よねぇ、これ……。花嫁衣装に、ぴったりだと思わない?」

 良くない雰囲気を嗅ぎ取ったアドラーが、視線を泳がしながら答える。

「ははっ……どうかなー。さすがはエルフ産だよねえ……」

「……ふーん、まあ良いけど。わたしの方がお姉ちゃんより先に着るかもしれないものね。だって、時間はわたしの味方だもの。ね、アドラー?」

「えっ!? うっそだろリューねえ……」
 キャルルが絶句した。

 アドラーがちらりと見たリューリアは、人でいえばまだ十四、五歳。

 しかし、数年後からライデン市の女冒険者美女ランキング――冒険者酒場調べ――で前人未到の10連覇を果たし、殿堂入りする面影が既にあった。

「の、喉が乾いた! み、水は何処かなー?」
 アドラーは逃げ出した。

「ま、どっちにしろ兄ちゃんが義兄(にい)ちゃんか」

 キャルルが意味不明なことを言っていたが、アドラーは聞かなかったことにした。


 船は大運河を何事もなく抜け、ライデン市へ入港する。

 総日数は二十九日

 ・約束の金貨三十枚
 ・大量に貰った王家のお土産
 ・三姉弟の市民権
 
 さらにアドラーには、王国での冒険者ギルドの許可状と、エルフとオークを繋ぐ騎士の称号がこっそりと与えられていた。

 この称号は王家の家臣を意味するものではないが、スヴァルト国の騎士名簿の筆頭に永代に渡って残る。

 そして新しい団員の獲得と、苦労した甲斐がある冒険となった。
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