朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第五章

ギルドは毎年、悪魔に襲われる

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 アドラーが団長に就任してから、二ヶ月ほどが経った。

 ライデン市の冒険者の誰もが、『厳しいな……』と感じていた”太陽を掴む鷲”団は、健在だった。

 ただし。
『あそこは呪われている。太陽と鷲が首を突っ込むと大事になる』
『命が惜しい奴は、やめとけ』
『普通の奴は入れない。俺やお前みたいな、まともなヤツだ』

 当たらずも遠からずといった噂や笑い話が流れていた。
 冒険者は、噂やジンクスが大好きだ。

「もう、新人勧誘は諦めた」とばかりに、アドラーは庭のデッキチェアに寝転がっていた。

 そもそも、あくせく働く為に転生したのではない。
 女神の誘い文句は、「猫を救ったお礼です。わたしの世界でのんびり暮らしませんか?」だったはず。

 人類の滅亡をかけた戦いの真っ最中、だなんて聞いていない。

 それでも、こっちの大陸に来てからは――大怪我をしていたが――美人のエルフ姉妹とかわいい男の子に拾われて、何かとやる気もあったのだが……。


「当分は、スローライフでいいか……」

 ギムレットとのギルド会戦は、二ヶ月後。
 その間の生活費はあるし、エルフ王から貰った物を売っても良い。

 ブランカ、ダルタス、ミュスレア、マレフィカが負けるとは到底思えない。
 あとは2勝分の価値がある団長戦をアドラーが勝てば良い。

「これはもう、楽勝でしょう……」

 勝ったなと確信したアドラーは、洗濯物を干すミュスレアの足を、見つからぬように眺めていた。

 クォーターエルフの長女は、短パンから長い足を見せていそがしく動いている。
 本人は筋肉の付き過ぎが不満らしいが、歩くのが仕事の冒険者にとっては職業病。

「カモシカのような……とは、この事か……」

 絶対に聞こえぬように、アドラーがつぶやく。
 前世も含め、これほど穏やかで人が羨む状況を過ごすのは初めてである。

「どうしたの、アドラー?」
 洗濯かごを抱えて、見事な太ももが近づいてきた。

「いや……似合うね、家のことをやってるのも」
 素直に言う訳にもいかず、アドラーは適当に誤魔化した。 

 ――良いお嫁さんになれるね――と解釈した、ライデン市でも有数の女冒険者は、一気に照れた後で反撃した。

「もうっ! バカっ!」と言いながら、自由になる足でデッキチェアを蹴り上げる。

「ぎゃっ!」
 アドラーは椅子ごと吹き飛んだ。
 カモシカ以上の威力のある、見事な蹴りだった。

「あっ……ご、ごめん! 大丈夫?」
 カエルのように潰れたアドラーを、ミュスレアが覗き込む。

 まだ生きていると、アドラーは右手をあげてアピールした。

 初夏の港町の郊外、森の外れにある小さな家での、平和で微笑ましい出来事であったが……。

 そこへマレフィカがやって来た。

「なんだ? 地面に寝転んで。格闘訓練かな?」

「い、いえ、アドラーが椅子から落ちたのよ! わたし、お茶でも淹れるわね!」

 ミュスレアが家へと逃げ込んだ。

「で、何か用事があるの?」
 アドラーは、マレフィカが手に持った本を見ながら聞いた。

「この本にあった素材が欲しいんだよねー」
 マレフィカはエルフ王から貰った魔導書を広げながら説明する。

「どんな素材?」
「アオイロマンゲツソウって言う珍しい植物なんだけど、近くの湖沼地方にあるそうなんだ」

 植物の名前は知らないが、湖沼地方はアドラーも知っている。
 大山脈に降った雨が流れ込む、広大な湿地帯。

 ライデン市の北東にあり、行くだけなら四日ほど。
 ただし中央部へは何ヶ月かかるかも分からない、道がないのだ。

「何に使うの?」
「えっとねー、エルフの痩せ薬」

 マレフィカが答えると同時に、家の中からミュスレアとリューリアが飛び出して来る。

「行きましょう! 今すぐにっ!!」

 姉妹の声は、綺麗に揃っていた。


 一部の団員の強烈な賛同もあり、アドラーは自主クエストに出ることにした。

 依頼と違って報酬はないが、今は財布に余裕もある。

「それに、たまには平和な旅も良いじゃない?」
 ギルド本部の受付嬢テレーザに、アドラーは同意を求めた。

「まあ湖沼地方は奥に行かなければ、強い魔物もいませんからね」

 テレーザは、クエストの行程表を受理する。
 何か問題が起きた時は、行程表を元にギルド本部が助けを派遣してくれる。

「それでですね、アドラーさん」
「なんですか?」

 控えを返す前に、テレーザはアドラーの顔を真剣な瞳で見つめた。

「その……あの……や、痩せ薬が出来たら、わたしにも売ってくださいね?」

「そ、そんなことですか。一つ差し上げますよ、上手く出来ればですけど……」

 何かと気にかけてくれるテレーザに、それくらいお安い物。

「良いんですか? 来月は支払いですよ?」
「えっ?」

 アドラーは嫌な言葉に耳を疑う。
 行方不明のシャイロックへの支払いは、今は月に金貨一枚なのだが。

「ギルド登録料と税金ですよ。去年の実績で今年の額が決まりますから……ちょっと待って下さいね」

 アドラーはすっかり忘れていた。
 ギルドの一員であれば、税金のことなんて忘れてしまえるのが、この自由商業都市ライデンの良いところ。

 その代わりに、ギルドがまとめて払う。

 昨年までの”太陽を掴む鷲”は、市内のギルドランキングで16位。
 今は全182ギルド中で、99位まで落ち込んでいる。

「お、お幾らになるでしょうか……?」

 この時のアドラーは、団を受け継いだことを心から後悔していた。

「あー、去年は稼いでますからねえ……。今の人数と諸々の条件を当てはめても……合計で金貨128枚ですね!」

 オークにも打ち勝つ優れた戦士は、ギルド本部の受付の前で膝を付いた。

「え、えーっとですね。登録料の金貨20枚は待てますよ! けど去年の収入から割り出した税金は……頑張ってください!」

 アドラーの肩に、前世に置いてきたと思っていた、最凶にして最悪の悪魔がのしかかる。

「……キャルの剣、売るか……」
 キャルルが貰ったエルフの宝剣は、売れば借金の半分くらいは返せる超逸品。

「いや、キャルが泣くよなあ……」
 アドラーは、団員の笑顔を守るために立ち上がる。

 テレーザが、笑顔で教えてくれる。
「痩せ薬なら、幾らでも売れますよ? わたしも買います」と。


「と言う訳で、これから団の総力をあげてアオイロマンゲツソウを刈り取ります! 今回は全員強制参加! ドリーも連れていく! いいなみんな!」

「おっー!」と、女性陣が揃って威勢を上げる。

「……この団は、何時もこんな感じか?」
「まあね、基本的にその日暮らしだから」

 ダルタスとキャルルだけが、冷めた目で眺めていた。

 翌日、巨大な戦闘力を持つ冒険者ギルドは、痩せ薬の原料を求めて旅立った。

「まあ今回は、楽で安全な採取クエストだ。キャル、活躍して良いぞ!」

 危険なんて全くないはずのクエストに、アドラーの気分は軽かった。

 ライデン市から北東へ、整備された道をロバのドリーが引いた荷車と、七人と一匹が行く。

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