朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 アドラーにはやることが沢山あった、というか増えた。

・明日にはやってくる王国軍を食い止める
・ドワーフの怪我人や女子供の避難
・同時に反撃用の武器作成
・大砲を据える陣地の選定と整備
・古い友人、イグアサウリオに手紙を書いて加勢してもらう
・捕虜から聞き出した情報の整理
・休養も栄養もしっかり取る

「ここで抵抗するのは無理でなかろうか?」と考え始めた。
 手一杯になると、急に弱気になるのがアドラーの悪い癖だった。

 アドラクティア大陸は広い、そして人口は少ない。
 天敵のナフーヌはまだまだ生息しているし、魔物も強い。

「一定の土地を譲り渡し、屈辱でも平和を買う」という手もある。

 アドラーだけが、二つの大陸を知っている。
 北の大陸の誰もが戦うべきだと叫んでも、それを止めるのが役目ではないかと思い始めていた……。


 崩れずに残った家で一番大きなものが、アドラー達に用意されていた。
 キャルルもブランカも寝静まり、アドラーが一人で考えていたところへ、やっとリューリアが戻ってきた。

「リュ、リュー、大丈夫かい? 顔色が酷いよ」
 アドラーは焦って立ち上がる。

「うん、平気、平気よ。わたしなんて全然平気」
 体力と気力の限界まで振り絞ったリューリアは、地獄を見てきた。

 治癒魔法があるといっても、まず傷口を洗って縫って包帯を当て、骨折には添え木をして、空いた穴から出る血は止めねばならない。

 リューリアは女達の手を借りて応急処置を済ませた後に、ひたすら回復魔法を歌に乗せて癒やしていた。
 傷が深い者には直接手を当てて魔法をかけながら、日が沈む前から日付が変わる今までずっと、怪我人に付き添っていた。

 アドラーの顔を見て緊張が解けたリューリアは、飛びついて泣き出す。
 ずっと我慢していた涙をアドラーの服に零しながら、リューリアは言う。

「せ、背中にね、金属の破片がめり込んだ子供がいたの、後ろから打たれてた。けどね、その子は助かるの。けどね、それはお母さんが庇ったからなの。お母さんは、胸に穴が空いて……もう死んでて……、その子が目を覚ましてもお母さんはいないの! わたしその子に、何て伝えれば良いの……?」

「リューリア……よく頑張ったね。えらいね、ありがとう」
 アドラーにも答えることが出来ない質問で、ただひたすら頭を撫でる。
 彼女が居なければ、死者はもっと増えていた。

 泣き疲れたリューリアの力が急に抜けて、アドラーが抱きかかえる。
 体力も精神力も使う魔法を使い続けて、限界を超えた次女は眠っていた。

 家の扉が開いて、ミュスレアとダルタスも戻ってくる。

「静かに。今、眠ったところだ」

 アドラーの言葉に、二人は黙って頷く。
 ミュスレアは、桶一杯の水と手ぬぐいを用意してから言った。

「ありがと、怪我人は酷いみたいね。わたしが運ぶわ、顔と手足だけでも拭いてあげないとね」
 長女は次女を軽々と抱っこする。
 これからしばらくは、悪い夢を見ないように妹に寄り添うつもり。

「うむ、では俺が話そう」
 捕虜の坊主から得た情報を、ダルタスが語る。

 有用なものから意味のないもの、敵将の名前から食事が少ないとの文句まで、あらゆる事を二人は聞き出した。

 最も重要なのは二つあった。

「敵は自給自足も含め、現地での食料の確保を始めた。転移装置が運べる人数と物資は、限界があったそうだ。そして、ここ以外にも小さな村を三つ襲ったらしい」

 ダルタスも苦々しげな表情になる。
 周囲一帯の安全確保と食料集めを、サイアミーズ軍は強引に行っていると分かった。

 この一ヶ月、大量の人員を毎日送っては帰還させていたサイアミーズは、遺跡が貯め込んでいたマナが急減してから事態に気付いた。

 今では、こちらに送った二万近い数が帰還するだけで精一杯。
 時間が経ってマナが回復するか、供給する方法を編み出さないと援軍は送れない。

「それであの陣地か。下手をすれば送ったきり冬の寒さにやられて全滅だ、それは避けたいものな」
 アドラーも敵軍の行動、堅い駐屯地の設営と、この集落を襲った理由が分かった。

「それで、敵の目的はもう一つあるのだ」
 ダルタスが深刻な声を出した。

「なんだ?」
「友軍との合流、連絡の確保だ。そちらは四個軍団が送り込まれたと」

 驚きの大軍である。
「合計で六個軍団、付属の兵科を含めれば四万にはなるな。地理が分かり兵站が続けば、大陸を統一出来る」

「団長は、敵の位置が予測出来るだろう。合流させるかね?」

 バルハルトから貰った情報で、アドラーには敵が何処に出るか予想は付く。
 教えてやればこの渓谷地帯を離れ移動する可能性もあるが……。

「いや、無理だな。正門と搦め手をこじ開けたんだ、一つを捨てる訳がない」

 こうなるとアドラーに残された選択肢は二つ。
 周辺の集落部族を全て避難させて土地を明け渡すか、戦闘不能に追い込んで叩き返すかだ。

 面倒事が増えて弱気になっていた団長の腹が決まる。

「あいつら、リューリアを泣かせやがった」

 オークがにやっと笑う。
「お嬢を泣かせるとは、百回殺しても足りんな」

「他でも死者が出てるだろう。ドワーフも他の種族も、いずれ我慢の限界を超える。俺たちが居る内に叩き出す」

「うむ、承知した」

 アドラーは、古い仲間に手紙を書いた。
 挨拶もそこそこに、こっちへ来てくれ、ありったけの戦力を連れて、武器も食料も自分持ちで、最低でも二千は必要だと。
 そして「大至急だ。頼む、アドラーより」と手紙を締めた。


 翌朝、マレフィカとバスティに手紙を託した。
 マレフィカは飛べるし、バスティはこちらの二足種族とも話が通じる。
 神さまのテレパシーのようなもの。

 だが、事前に手紙を一読した魔女が首を傾けた。

「なあ、こんな手紙で来るのか? と言うかアドラー団長だと気付くか?」
「うっ、イグアサウリオとは長い付き合いだ。たぶん大丈夫……」

「多分では困るなー。英雄を騙った魔女だ、捕らえて火炙りだ! では困るんだよ」

「そ、そんな事はしないよ。たぶん、いやきっと!」

 普通に考えたら、三年前に死んだはずの奴からの手紙など夏のホラー。
 証明する方法を考えていたアドラーの肩に、黒猫が飛び乗った。

「何を悩んでるにゃ。これを使えばいいにゃ!」
 バスティは、首輪に付けた水晶球をアドラーの頬に押し付ける。

 写真の水晶球、今では音と映像も撮れるようになった魔法道具に、アドラーは伝言を吹き込む。

 姉を押すようにして、リューリアも写りに入ってくる。
 一晩寝たリューリアは、少し元気を取り戻していた。

「お姉ちゃん、ここで隠れてちゃ駄目よ。イグアナドンとやらが女だったらどうするの?」

「な、何の話だよ、イグアサウリオは男だよ!」
 それも最上級のプリーストで頑丈な力持ち、今一番欲しい人材だった。

 結局、団員が一塊になったところで、アドラーは付け加えた。
「これが今の仲間だ。俺は元気にやってるよ」と。

 ブランカも自分の紅い宝玉、同じく映像を残せる魔法球を取り出して撮影をせがむ。
 ほんのしばらくの間、アドラー達は戦いを忘れて記念撮影をした。

 マレフィカとバスティが飛び立つ。
 山を二日かけて下って、さらに二日程歩いた距離、空飛ぶほうきなら直ぐに着く。

「さてと、ではこっちはかき回してやりますか」
 アドラーはしっかり寝て休んで、朝飯も食った。

 その代わりにドワーフの男達が徹夜で山道崩し、木を倒し、溜池から水を引いて通行不能にしていた。

 新たに三千の部隊が、攻撃を仕掛けに山に入ったが……アドラーは徹底的にやると決めていた。
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