朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
158 / 214
第七章

158

しおりを挟む

「だんちょー、やっちまうか?」
 目立つ白銀の髪と白い尻尾を隠して、ブランカが物騒な言葉を吐く。

 アドラーとブランカは、山道を登ってくるサイアミーズ王国軍を監視していた。
 今回は大量の魔術師を連れて、さながら魔法化兵団とでも呼べる部隊。

「駄目だよー。関係ない人まで巻き込むからねー」

 アドラーの視線の先では、小型のゴーレムと一緒に捕まったドワーフ達が働かされていた。

 ドワーフの数は三十人ほどで多くないが、炎天下で足に鎖を付けられて山道の修復作業、その後方では魔弾杖を装備した兵士が厳しく警戒している。

「まあ、罠だなあ。助けに来たところにズドンか。それとも……だが、放ってもおけない。ブランカ付いといで、助け出すよ」

「はーい!」

 アドラーは、山の中に戻る。
 アドラーの立てる作戦は、他力本願なことが多い。
 一番大好きなのは、敵と魔物が出会って潰し合うというものだが、ほとんど成功した事がない。

 失敗した後で、仕方ない……と乗り出す事が多いが、今回も懲りずに山の”ぬし”を探す。

 話はもちろん、ドワーフ達から聞いていた。

 エルフは鹿に乗り、ヒトは馬に乗り、海のリザード族はイルカに乗るが、山のドワーフは野豚に乗る。

 びっしりと剛毛が生えて鋭い牙が生えたイノシシに騎乗する、有名なボーアライダーである。

「巨大化したイノシシの王様みたいなのが、山の中を走り回ってるらしいが……ブランカ分かるか?」

「分かんない。夏の山は生き物と臭いだらけだ」

 竜の娘はさじを放り投げる。

 アドラーとて、敵が油断してたり少数ならば単独でケリを付けるが、魔法使いのサポートを受けて魔法や動態探知の網を広げた軍隊には突っ込めない。

 三千人という兵力も絶妙。
 全軍の四分の一は遠征させるに多すぎず少なすぎず、山間部で機動を保てるギリギリの数で、アドラーが奇襲しても防御力が高くまず成功しない。


「一つ、かき乱す手段が要る」とのアドラーの判断は正統なもの。
 決して”山のぬし”としてドワーフが恐れ崇める怪物を見たくなった訳ではない。

 そして……運はアドラーに味方した。
 これまでにない大量のヒトと鉄の臭いが山に漂い、苛立った”山のぬし”は、近くまで出向いていた。

「だんちょー、くさい。こっち」
 ブランカが何かを嗅ぎ取った。

 臭いを辿ると、木々が避けて道になっている箇所がある。

「魔物……というより、土地神系かな? これは話が通じるかも知れないな」

 長く生きて力と凶暴性を増す獣もいれば、話が出来るほどの知恵を付ける獣もいる。
 後者かも知れぬと、アドラーは期待した。

 木が避けた道をブランカがぴょんぴょんと跳ねながら追い、アドラーは付いていく。
 そして、立ち止まったブランカが爆笑した。

「あはっ! あははははっ! ケツだ、でけーケツだっ!」
 すっかり冒険者に馴染んだ竜の子は、このところ言葉使いが汚い。

 尻肉の半分だけで牛一頭分はある巨大なお尻を向けた、イノシシの怪物がそこに居た。

「こらっ、何処でそんな言葉を覚えた……ってキャルルか。止めなさい、お話が出来るか試すから」

 アドラーは、山の主に失礼にならぬように姿勢を整えたが……その横を石が飛んでいく。

「おいケツ、こっち向け。ブランカ様だぞ、がおー!」

 大陸の頂点に立つはずの白竜は、まだ子供だった。

「こらっ! ブランカ、そんなことしては駄目です!」
 躾は大事とばかりに、アドラーは叱る。

 だが、竜の子が投げた石は時速180キロを超える。
 突然お尻に何発も投石を食らった”ぬし”は、ゆっくりと振り返った。

 大きな鼻から額までの毛は白く、牙は四本が上向きに伸び、重厚な肉体は十トンは超える山の主の両目は、怒りで赤く光っていた。

「あ、怒った!」
 どうしようかとブランカが団長を見上げ、アドラーは直ぐにブランカを担ぎ上げて走り出した。

 蹄で地面をかく音が二、三度して、山の主が走り出す。
 僅か五秒で時速六十キロを超えたイノシシは、猛然とアドラー達を追う。

 アドラーも必死。
 強化魔法を全開にして、目的の方角へイノシシを誘導する。

「あはははっ! 速い、速い! 頑張れだんちょー!」
 アドラーに抱えられたブランカは、このスリルを楽しんでいた。

 そしてアドラーは、敵部隊を見下ろす位置に来た。
 働くゴーレムとドワーフの後ろで、魔弾杖を向けて見張っている。

「まだ付いて来てるな?」
「うん!」

 返事を聞くまでもなく、四つの蹄を持つ怪物はアドラーめがけて突進中。

 魔法で警戒網を広げていたサイアミーズ軍が異常に気付く。
 百人ほどがアドラーの方向に杖を向けて……号令一下、一斉に発射した。

「飛ぶぞ」
 ブランカに一声かけたアドラーは、弾幕をかわしながら跳ねた。

 木の上に飛び乗ったアドラーは、イノシシが新たな敵を見つけたのを確認する。

 再び前掻きを行った山の主が、サイアミーズ軍の目前に飛び出し、山道に沿って走り出す。

 アドラーは、この隙にドワーフ達に呼びかけた、こちらの言語で。
「今だ、逃げろ!」と。

 魔弾杖の威力は凄まじいが、”ぬし”の額の骨を貫ける程ではない。
 突進した猪の怪物は、一気に十数人を谷底へと弾き飛ばす。

 撃ってくる次の隊列に向けて再突撃し、次々と負傷者が増える。

「この大陸の魔物を舐めるなよ」
 ヒト族や二足種族が少ない分、魔物や獣も強大で、アドラーも同情する気は起きない。

「あっ! ケツが落ちる!」
 ブランカは、山の主に酷い名前を付けていた。

 三列目を弾き弾き飛ばした”ぬし”の足元に、魔法の炎が生まれ巨体を煽る。
 バランスを崩し、兵士もろとも谷底へ落ちそうになった”ぬし”は、対岸へ向かって飛んだ。

「すげえ、空飛ぶ豚だ」
 アドラーも驚くほど見事なジャンプ。

「ぬしが、落っこち……ない!」
 ケツの飛躍にブランカも喜ぶ。

 谷の反対側に蹄をかけた巨大なイノシシは、そのまま山を駆け上がって森に消える。

 アドラーも、ほっと一安心。
 利用するだけしておいて死なれたら、可哀想では済まないところだった。

「ブランカ、あんな勝手な事したら次は怒るよ」と言いながら、拳骨を一つ落とす。

「いてっ。けどすげー奴だ。あたしがこっちに居着いたら側近にしてやる」
 ブランカは、まったく反省していなかった。

 この後、白竜の住む大陸の最高峰に巨大なイノシシが居たかは……記録には残っていない。

 三十名のドワーフを、アドラーは無事に回収した。
 突然の怪物に百名以上の死傷者を出した部隊は、全く追ってこなかった。

「諦めが良すぎるな。まあ、理由は分かるけど」
 こんな手に引っかかるつもりは、アドラーにはない。

「これで全員か?」と、アドラーは助けたドワーフに尋ねた。

「全員です」とドワーフが答えたところで、アドラーは確信した。

 足の鎖を断ち、詳細に調べても何も仕掛けられてない。

「眠らされた者はいるか?」との質問に、五人ほどが手を上げる。

 呼び寄せて体を調べたアドラーは、あっさり見つける。
 魔法のシグナルを定期的に発する、発信機のような物が埋め込まれていた。

 しかもご丁寧にも、糸を使った縫合でなく治癒魔法による癒着で、この場で切って取り出すのは危ない。

「マレフィカが居ないと無理だな……。一度集落に戻ろう」

 敵軍は、アドラー達の事を知りたがっている。
 本拠地はあるのか、人数はどれくらいか、何よりも一体何者なのか。

 現地で捕まえた標本、実験体を手放しても情報集めを優先していた。

「だんちょー、どゆこと?」
 ブランカが、アドラーに聞く。

「最初から、助けに来れば逃がすつもりだったのさ。そのまま拠点や隠れ家へ戻れば、埋め込んだ発信機で後を追える。つまり、敵には山をかき分けてやって来れる部隊がある。今晩、もう一戦あるかもね」

 山岳戦部隊があるとは、バルハルトの情報にもなかった。
 だが少数で潜入工作が出来る連中を、サイアミーズ王国が飼っていることは知っている。

 かつて、エルフの国スヴァルトの首都タリスで、アドラーは手練の暗殺集団に襲われた。
 毒を使う素早い暗殺者である。

 あの連中ならば、密かに後を追って忍び込むなど朝飯前。

「バルハルトが、冒険者を使ってやろうとした役割だな……。これを潰せば、奴らは目を失う。ちょっと勝機が出てきたかな?」

 サイアミーズ軍は、敵が誰か知らない。
 ミケドニア所属の可能性は疑っているが、北と南の大陸を渡り歩き、情報戦の重要性まで知る、二つの大陸でも最高の冒険者だとは夢にも思っていない……。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...