朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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「忍び込むのは無理だな……」

 アドラーは天才的な閃きで戦うタイプではない。
 作戦を決めて自ら動くのに向いている、つまり堅実な町工場の親方タイプ。

 サイアミーズ軍を撤退させるとドワーフに大口を叩いたが、あれはその場の方便。
 軍事的な行動を止めるのが精一杯だろうと思っていた。

「だんちょー、やるか?」
「やれ、ブランカやってしまえ!」
 キャルルが勝手にけしかける。

「駄目だよ。まだ司令部が何処かも分からない」

 都市の地図を見て何処が市役所か探すような、それほどサイアミーズ軍の本陣は造り込まれていた。

「兵士だけではない。司令部、補助要員、調査探索の人員、二万近いか……?」

 一つの街に匹敵する人数が送り込まれている。
 視界の妨げや隠れて近づけるような木々は根こそぎ切り倒し、井戸を掘り食料倉庫に武器倉庫から厩舎まで、あらゆる物を揃えていた。

 山に囲まれた盆地は2キロ四方に渡って開拓され、周りには防御施設を巡らし、中央部には幾つかの丘があって守りは非常に堅い。

「全面を叩くには、ブランカが百人いるなあ」
「あたしが百人もいたら、だんちょーは食費で破産する」

 アドラーは、敵が狭いとこに固まっていればブランカ砲も考えていた。
 一番良いのは、出入り口になっている遺跡を吹き飛ばすこと。

 本国に通じる遺跡を壊せば、サイアミーズの遠征軍は完全に孤軍となり、一週間もせずに崩壊を始める。

 だがこれだけ広く駐屯地を作られ、地下にある遺跡の場所も分からないとなると手の出しようがない。
 忍び込んで軍団長を狙うというのも非現実的。

「兄ちゃん! 追い出されてる部隊がある!」
 キャルルが防御柵の外を指差す。

 一つの大隊が、柵の外で固まって寝ていた。
 中央の大隊旗に、アドラーは見覚えがあった。

「昨日、集落から追い返した部隊だ。懲罰だな。なるほど、総指揮官はそのタイプか」

 大隊長を殺され従軍聖職者を奪われ、なおかつ大隊の九割以上が逃げ帰った。
 総指揮官は、この大隊を駐屯地から追い出すことで罰を与えていた。

 ここから読み取れるのは、部下には厳しいがやり過ぎたりはしない。
 そしてこのタイプの指揮官は、負ける事を恥だと思っているので、敗戦を決してそのままにはしないだろう。

「間違いなく、夜が明けたら攻めてくるな。それも大人数で。出迎えの準備をするか」

 アドラーは「戻るよ」と二人に告げた。
 今の内にやっておく事がアドラーには増えた。


「おい、起きろ」
 ダルタスが捕虜にした聖職者を蹴り起こす。
 上手く操れば、新鮮で重要な情報を吐き出すはず。

「あら駄目よ、そんな乱暴にしては。お水とお食事がありますわよ」

 尋問役のミュスレアが、飛び切り優しい笑顔を聖職者に向けた。
 目の奥は全く笑っていないのだが、捕虜になって半日も飲まず食わずの坊主にそんな事は分からない。

「食い物なんてもったいない! さっさと殴り殺してしまいましょうぜ!」
 巨大なオークが下手な演技をする。

「おやめなさい、非戦闘員をほいほい殺す訳にもいかないわ。ねえ、そうでしょ?」

 飛び切りの美人エルフの問いかけに、坊主は何度も大きく頷いた。

「生かしておいてあげたいのだけど、せめて協力的ならねぇ」
「は、話します! 何でも話します! い、命ばかりは!」

 聖職者は、神の下へ行くよりも裏切ることをあっさり選んだ。
 尋問はミュスレアとダルタスに任せ、アドラーにはする事がある。

 マレフィカとドワーフを集め、簡単な設計図を書いて見せる。

「どうだ、作れるか?」
 アドラー以外の全員が設計図を覗き込む。

「そりゃ私には楽なもんだ」
 筒に入れた玉を加速して飛び出すだけで、マレフィカにとっては朝飯前。

 ドワーフ技師や鍛冶師も顔を見合わせる。
「一つで良いなら直ぐにでも出来ますが」

「一つでは足りない。十や二十でも脅しにはなるが、意味がある物にするには二百門は欲しい」

 ドワーフ達がざわつき、一人が代表して答える。
「三ヶ月もこれに専念すればあるいは……。ですが他の全てを投げ出す事になります」

「それでは遅いな。出来れば十日で揃えたい、しかもその後にこれを盆地を見下ろす山の上まで運ぶ」

 ドワーフから悲鳴混じりの声があがるが、まだ彼らは「出来ない」とは言っていない。

「ところで、これ何ですか?」
 アドラーの事を知っていた若いドワーフが尋ねた。

 なるべく平然とアドラーは答える。
「ああこれはね、大砲といって鉄の玉を撃ち出すんだ。平地で2キロも飛べば十分。石を打ち出しても良いし、あとはコレとかね」

 アドラーは、窓にはめてあるガラスを指で叩いた。
 火薬によるガスの衝撃がない魔法大砲なら、割れ物を撃ち出す事も可能。

 地面に落ちて砕けたガラスの破片は、周りを巻き込み負傷者を生み出す。
 硝石の結晶が確認出来ないこの世界では、火薬の反応に頼ることが出来ない。

「うえー、恐ろしい事を考えつくなあ……団長はひょっとして悪魔か?」
 マレフィカが信じられないといった顔で見る。

「ふっ、子供達を守る為なら悪魔にもなってみせよう」
「……そーいうのは余り似合わない。やめてくれ」

「はい」
 アドラーは精一杯格好つけたが、魔女には不評だった。
 唯一喜んでくれそうなミュスレアは聖職者の尋問中。

 サイアミーズ軍は、山に囲まれた盆地に陣取る。
 周囲の山々は、彼らにとって今は防壁の代わりになっている。

 山頂を取られても、弓も石も届く距離ではないのだ、本来ならば。
 しかし射程が2キロから3キロある新兵器があれば、彼らの作った駐屯地は絶好の的になる。

 かつての地球で、囲まれるはずがないと盆地に陣取り、人海戦術で野戦砲を山に運ばれ惨敗した間抜けな軍隊があった。

 アドラーは、まず砲を作ることから始める。
 爆発の圧力に耐える必要がないので鋳造でよく、魔法はマレフィカが担当してくれるので、あとは人数の問題であったが……。

「近くの集落全てを駆り出しても今の十倍が良いところだ」
「大きな街はさらに遠いぞ?」

 ドワーフ達も結論が出ないが、若いドワーフが提案した。

「南の海辺に、リザード族が沢山住んでます。手を貸してもらいましょうよ?」

 だが大人のドワーフは半信半疑。
「そりゃ頼めば百や二百は出してくれるが、欲しいのは千人や二千人だ。この山地まで来てもらうには……」

 若いドワーフが続けて言った。

「そんなの、アドラーさんから頼んで貰えれば一発ですよ。だって今のリザード族の総首領は、あのイグアサウリオさんですよ!」

「えっ! あいつ生きてるの!!?」
 アドラーが大声を出した。

 三年前の戦いの最中に別れたきり、リザード族を代表して共に戦った七人の英雄の一人、イグアサウリオはてっきり死んだと思っていた。

「なら頼んでみるかな。あいつ力持ちだし魔法も使えるし、丁度いいや」
 思わぬとこで懐かしい名前を聞いたアドラーは、即決した。

 何時の間にか古い友人が総首領に出世してたのには驚いたが、使えるモノは何でも使う。
 それがこの一年足らずの間、貧乏ギルドを率いたアドラーが得た教訓だった。

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