朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 プリーストとは、神に仕える司祭である。
 イグアサウリオは、医術系の神に仕えて長い。

 杖で殴ってそのまま治癒出来るという荒業を持ち、回復役だけでなく新兵の戦技教官もやっていたが、すこぶる評判が悪かった。

「だって教官は、本気で殴って怪我してから治すので……」
 新兵たちはこぞって不満を訴えた。

 という訳で、昔のアドラーが自分の隊に引き抜いた。
 戦いながら治癒出来るという特技は、指揮下全員の防御を底上げ出来るアドラーと噛み合った。

 ヒーラーとしての能力は最上級、しかも前線でも戦えるリザード族は、何時しかアドラー隊に欠かせぬ人材になった……。

「腕は、落ちてないな」
 アドラーはイグアサウリオにも特殊強化をかける。

「当たり前だ! 俺は行方不明になどなってない!」
 力を増したイグアサウリオの杖がシャーン人の頭蓋を砕いたが、死ぬ前に最低限の手当をした。

 神に仕えるイグアサウリオは、殺しを好まない。

「そろそろ諦めないか?」
 アドラーは誰ともなく尋ねてみた。

 アドラー一人ならともかく、強化魔法を受けたイグアサウリオとドワーフ達とで、既に人数も逆転していた。

 そしてついに、ミュスレアとダルタスが率いる、二百人のドワーフまで戦場に到着する。

「二手に別れて囲め」との命令が伝わっていて、シャーン人部隊の命運は尽きた。

 だが降伏する気配が全くないシャーン人に、気絶した指揮官の女に剣を突きつけたアドラーが脅しをかける。

「降伏しろ、さもなければこの女を殺す」

「……やるがいい。生きて帰っても同じこと」
 一人のシャーン人が答えた。

「あっそ。ふーん……」
 アドラーは、気絶した女の口に指を突っ込んでかき混ぜた。

「んなっ!?」
 見ていたミュスレアが大きな声を出す。

「やっぱりか。お前らみたいなのは好きだな、自決用の毒とか」
 口の中から小さなガラス球を取り出したアドラーが、もう一度脅す。

「いい加減にしろ。お前らはエルフ族だろう、サイアミーズとどんな契約があるか知らんが、もう無理だ。さもないとこいつを死ぬより酷い目に合わせるぞ?」

 アドラーはなるべくゲスな顔をする。
 族長の娘ファエリルは、肌は褐色でぞっとする程の美人だった。

「卑劣な……!」
「お前らが言う台詞かよ、おっと!」

 口に指を突っ込まれ意識を取り戻したファエリルが、隠し持っていた短剣でアドラーを狙ったが、あっさりと避けられて羽交い締めになる。

「分かったろ? お前らに俺は殺せん。戦いが終われば解放してやる、降伏すると言え」

 アドラーはファエリルをきつく締め上げた。

「くっ……殺せ。我等は最後のダークエルフ、血脈を保つ土地との代償は任務の成功のみ。この状況で帰れば、どうせ始末される他ない……」
 ファエリルが声を絞り出す。

 アドラーは、超大国の王家や軍部がそんな無意味な事をするはずがないと思ったが、あえて乗ってみた。

「処分されるくらいなら、逃げたらどうだ?」
「逃げたと知れれば、一族皆殺しだ。後生だ、せめて殺してくれ」

「いやいや、こんな別大陸なら見つかりゃしないって」
「……? 何を言っている、サイアミーズの諜報網は大陸全てに行き届いている。大陸に残ったダークエルフは、数十家族の我が一族だけだ。何処にも逃げ場など……ない!」

 どうやら、ファエリルの一族は詳細まで知らされていないようだった。

「いやだから、ここ別の大陸なんだ。こっちにはダークエルフなんて五十万人はいるぞ?」

「う、嘘だ! 我が一族以外に、見たことも聞いたことないぞ!」

 アドラーも記憶を辿る。
 南の大陸では、日焼けしたミュスレア以外に褐色のエルフを見たことがない。

 だが、北の大陸ではどちらの部族も普通にあちこちで暮らしている。
 しかも混血が進んだ今では、まとめてエルフ族とだけ呼ばれる。

 森エルフとも呼ばれる長身の白エルフに比べて、小柄で胸も大きなダークエルフ系は、北の大陸の女では一番モテると言っていいくらい。

「本当だって、俺の知り合いにも居るし……。会えるように頼んでやるから、降伏しないか?」

「滅びに瀕していると思っていたダークエルフが、数十万人も……? そんな、いやまさか……」

 押さえつけていたファエリルの体から力が抜け、アドラーはそれを降伏の合図だと判断した。
 もう十人も立っていないシャーン人に、大声で伝えた。

「戦いは終わりだ。お前達の一族には、いずれ会えるようにしてやる。望むならこちらの大地で暮らせ、誰もダークエルフだからと蔑む者は居ない。土地は幾らでも空いている、森でも畑でも好きなだけくれてやる。アドラー・エイベルデインの名に賭けてな」

 甘い判断と条件だったが、アドラーは後悔していない。
 ヒト族が支配的なメガラニカ大陸で、僅かに残ったダークエルフが生き延びるには、優れた戦闘技術を売るしかなかった。
 例えどんなに不平等な契約だったとしても、ファエリルの一族はそれを守って血脈を繋いだ。

 もう自由になって良い頃だった。

 四十人の内で死者は十六、動けぬ者が十五人もいたが、残りは意外な程に大人しく捕まった。

「なんだ、もう終わりか? せっかく来たのに」
 最後に、広場へ続く山道を吹き飛ばしたブランカがやって来た。

 万が一にも、アドラー達の情報を持ち帰られては困るので、ブランカに命じておいたのだ。

「ほほう、これは珍しい! まさか真なる竜と生きてる間にお会いできるとは!」
 イグアサウリオが祖竜の正体に気付く。

「誰だ、おっちゃん?」
「イグアサウリオと申します」

「えっ、お前もう言葉が分かるのか?」
 アドラーが驚いて尋ねた。

「かなり発音と語形が変化してるが、基本的な語彙は共通してるのではないか? 先程の貴様らの会話で気付いたぞ」

 イグアサウリオは、個体差のあるリザード族の中でもかなり爬虫類っぽい姿をしているが、頭脳は素晴らしく明晰。
 アドラーの軍師役という名の話し相手だったほど。

「さ、流石だな……。まあ俺も直ぐに気付いたけどな、ねえミュスレアさん? うおっ!?」

 アドラーが振り返ると、すぐ後ろにミュスレアとリューリアが立っていた。

「ねえアドラー、知り合いのダークエルフって女の子?」
 穏やかな表情でミュスレアが尋ね、隣のリューリアが遠慮なしに下から睨む。

 ごくり、とアドラーは唾を飲む。
 エルフ族を代表してアドラーと共に戦った七人の一人、闇の森と死霊の主リヴァンナは、自称ハイエルフのはちきれんばかりの体と魔力を持つ美少女だった。

「い、いや、どうだったかなー? ほら、僕、記憶の一部が曖昧で……ね?」

「カワイイ、オンナ、オッパイ大きい」
 基本的な単語だけを使い、イグアサウリオが伝えてしまった。

「アドラー!」
「お兄ちゃん!?」
 姉妹は噴火したが、イグアサウリオは満足そうだった。

「ふむふむ。この三年の間、どうやら楽しくやっていたようだな」と。


 これより僅か二日後、リザード族から千五百の男が到着する。
 ディエン村の周囲、集めるだけの男衆を集めても千三百で、アドラーの戦力は一気に倍増する。

 さらに三日後には、二千五百のリザード族が到着する。

「出し惜しみはしない。戦える男は、全て呼んだ。必要だろ?」
「ああ、助かる。これは何とかなるな」

 旧友イグアサウリオの助けを得て、アドラーは反撃の時を待つ……!
 
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