162 / 214
第七章
最初の冒険者ギルド
しおりを挟むアドラーが団長を務める”太陽を掴む鷲”は、ライデン市で最古の冒険者ギルド。
大陸を覆った戦乱が終わった六百年ほど前に、傭兵の太陽団と鷲団が合併して成立した。
”猫と冒険の神”一族のバスティも、この時に生まれてギルドに居着いた。
六百年前は、連絡球が生まれてメガラニカ大陸に通信革命が起きた時期。
軍制度の改革期に食料が行き渡るようになり、自然と戦争が下火となった。
「それが今では戦争の準備だにゃあ……」
バスティがちょっと悲しそうに鳴いた。
「仕方ないよ。兄ちゃんは守るって決めたら絶対に守るから」
キャルルが、ぼーっと空を見上げながら答えた。
「うん、ごめんよ。今だけなんだ、我慢してね」
何もない空に向かってキャルルが語りかけるが、少年はとても大事な仕事をアドラーから頼まれていた。
「キャル、頼まれてくれるかい?」
アドラーの指名に、キャルルは張り切ったものだった。
「この帆をここに張って、ここを精霊が通るから火が付かないように。それと風の精霊の相手をしてくれる?」
「兄ちゃん、もうちょっと分かりやすく」
「風の精霊に、製鉄所の煙を吹き飛ばして貰うから謝っておいて。たぶん臭いだの煙いだの文句が出るから」
風の精霊を呼ぶ帆を地上に張って、炭を作ったり鉄を溶かす煙を飛ばしてもらう。
真っ直ぐに黒煙が登れば、たちまち敵に見つかってしまうから。
雇った船に報酬として渡した帆だが、”猫と踊る男”が有名なアドラーだと知った船長は、喜んで貸してくれた。
もちろん終わればまた返す。
「それでボクはここで精霊の相手をしてるのさー。とほほ」
精霊と話せるキャルルが帆の見張り。
「そういうにゃ、他にキャルルに出来る事は何もないにゃ」
「お前、優しくない神さまだなあ」
キャルルがバスティの髭を引っ張る。
戦いは小康状態を迎えていた。
シャーン人を全滅させてから三日後、アドラーはディエンの集落を捨てた。
毎日三千人ずつ、地道に山を登ってきたサイアミーズ軍が接近してきたから。
山に篭もって戦おうにも、火力が違う。
アドラーは、捕虜にしていた聖職者に情報を与えてから敵に回収させた。
「いいか、この大地は球形だ」
アドラーはガラスの球を聖職者に投げて渡した。
長いこと捕虜になった坊主は、アドラーと世間話をするのに違和感がなくなっていた。
犯人と人質が仲良くなってしまう症候群だが、アドラーの方は馴染んだ振りをしているだけ。
「そういう学説が知っていますが、教会としては大地は平らなのですよ」
鎖もなく食事も与えられ、捕まってるだけの坊主はにこやかに答える。
「伝説の魔女イルル・バツータのほうきで世界一周、お前も聞いたことあるだろ?」
「あれは異端です! まあ無視してるだけですけど」
和やかな会話で、アドラーは坊主の知識を誘導した。
「あっ……!」と坊主がなにかに気付き、「どうした言え」とアドラーが促す。
「いやこれは、最高機密なんですが……ここだけの話ですよ?」
心理的にアドラーが味方だと思い始めていた坊主はペラペラ喋った。
「実はですね、友軍の位置を星や太陽から判断して、駐屯地からずっと南だと思ってたんです。ここが丸い大地で太陽の位置が反対ならひょっとして……?」
「おっ、良く気付いたな。流石は高位の聖職者」
アドラーは坊主を褒める。
現在、サイアミーズ軍本陣の南では、森と山に隠れて大量の兵器の製造中。
アドラーとしては、例え友軍と連絡が付いても、敵軍には北へ目を向けて欲しい。
「いやーそれほどでも」
アドラーに褒められて照れた坊主は、この翌日には味方に救出される。
手には丸いガラス球と、自分が気付いたと思わされた情報を持って……。
ドラクロワ上将は、茶色い髪の男を探すのを止めた。
喫緊の目的は、何を置いても別の四個軍団との連絡線の確保。
駐屯地の防衛を固めて、ただちに大規模な部隊を北へ送った。
渓谷地帯を出ると広く乾いた大地となり、更に人口密度が減る。
人探しには好都合だったが、アドラーはまたも他力本願な作戦を仕掛けていた。
「渓谷地帯を抜けるとさ、ナフーヌの住処なんだ。やりあってくれないかなあ……」と。
侵略軍と天敵の魔物ナフーヌがぶつかるなど、この上ない展開であるが。
「アドラーのそういうの、全然上手くいかないわよね」
「そうそう、大体だんちょーが自分でやっつける」
ミュスレアとブランカでさえ否定的。
「だ、駄目かなあ……?」
アドラーは助けを求めるようにイグアサウリオを見た。
「我らの天敵は、激減した。まだ一千万体以上はいるだろうがな。だが、この広い大地に僅か一千万だ、不慮の遭遇もこの二年は大きく減った」
「期待しては駄目だな……」
アドラーは諦めた。
自分の幸運は、瀕死の状態でキャルルに見つけてもらった時に尽きたのではと、アドラーは疑っていた。
ライデンの冒険者の間でも「あいつが首を突っ込むと酷い騒ぎになる」と有名である。
だが『運がない指揮官』というのは部下に一番嫌われるもの。
アドラーは浮かんだ疑念を心の奥底にそっと隠した。
そしてもちろん、アドラーの仲間達は、常に厄介事へと首を突っ込む団長が大好きだった。
アドラーの指示で、ドワーフ達は鉄を溶かす。
鍋釜に農具に斧、日用品を使うことになるが仕方がない。
女子供は、イグアサウリオが海辺の村々へと避難させてくれた。
シャーン人達は数十人の見張りを付けて、闇の森と死霊の主リヴァンナの所へ送る。
アドラーとイグアサウリオが、ダークエルフの面倒と食料の支援を頼む手紙を書いた。
「それはまあ、お前が頼めばリヴァンナも応じてくれるが。良いのか、飛んでくるかも知れんぞ?」
イグアサウリオがそっとアドラーに聞く。
「何でだ、そこまで頼んでないぞ。もう人手は足りてる」
心底疑問という顔でアドラーが答えた。
「いやいや、リヴァンナはお前が死んだと思っている。あの塔での戦い以来、ずっと喪服を着ている。それが生きてたと知れば……」
「ふーん、喜んでくれるかな?」
リザードの首領は、古い友人をバカにする目つきで見た。
「お前なあ……。まあ良い、南北のエルフ女同士の戦いと言うのも見てみたい」
「んなっ!? 何を恐ろしい事を……そんな事になったら、俺は三番目の大陸に逃げるからな!」
イグアサウリオは、目を細めてひょひょひょと笑いながらミュスレアを見ながら言った。
「その三番目とやらで、最初の入植家族になる気かな?」
迫る危険にアドラーは気付いていないが、直近の戦いには十分に備える。
北の大陸で、最初の大砲が完成した。
砲弾となる鉄の球、ガラスの球も次々と完成する。
口径と弾のサイズがさっぱり合っていなかったが、ここからアドラーとマレフィカで改造を加えなければならない。
射程と火力に優る軍隊を相手に、アドラーはその上をいくつもりだった。
0
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる