朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

最初の冒険者ギルド

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 アドラーが団長を務める”太陽を掴む鷲”は、ライデン市で最古の冒険者ギルド。
 大陸を覆った戦乱が終わった六百年ほど前に、傭兵の太陽団と鷲団が合併して成立した。

 ”猫と冒険の神”一族のバスティも、この時に生まれてギルドに居着いた。
 六百年前は、連絡球が生まれてメガラニカ大陸に通信革命が起きた時期。

 軍制度の改革期に食料が行き渡るようになり、自然と戦争が下火となった。

「それが今では戦争の準備だにゃあ……」
 バスティがちょっと悲しそうに鳴いた。

「仕方ないよ。兄ちゃんは守るって決めたら絶対に守るから」
 キャルルが、ぼーっと空を見上げながら答えた。

「うん、ごめんよ。今だけなんだ、我慢してね」
 何もない空に向かってキャルルが語りかけるが、少年はとても大事な仕事をアドラーから頼まれていた。

「キャル、頼まれてくれるかい?」
 アドラーの指名に、キャルルは張り切ったものだった。

「この帆をここに張って、ここを精霊が通るから火が付かないように。それと風の精霊の相手をしてくれる?」
「兄ちゃん、もうちょっと分かりやすく」

「風の精霊に、製鉄所の煙を吹き飛ばして貰うから謝っておいて。たぶん臭いだの煙いだの文句が出るから」

 風の精霊を呼ぶ帆を地上に張って、炭を作ったり鉄を溶かす煙を飛ばしてもらう。
 真っ直ぐに黒煙が登れば、たちまち敵に見つかってしまうから。

 雇った船に報酬として渡した帆だが、”猫と踊る男”が有名なアドラーだと知った船長は、喜んで貸してくれた。
 もちろん終わればまた返す。

「それでボクはここで精霊の相手をしてるのさー。とほほ」
 精霊と話せるキャルルが帆の見張り。

「そういうにゃ、他にキャルルに出来る事は何もないにゃ」
「お前、優しくない神さまだなあ」

 キャルルがバスティの髭を引っ張る。
 戦いは小康状態を迎えていた。


 シャーン人を全滅させてから三日後、アドラーはディエンの集落を捨てた。
 毎日三千人ずつ、地道に山を登ってきたサイアミーズ軍が接近してきたから。

 山に篭もって戦おうにも、火力が違う。
 アドラーは、捕虜にしていた聖職者に情報を与えてから敵に回収させた。

「いいか、この大地は球形だ」
 アドラーはガラスの球を聖職者に投げて渡した。

 長いこと捕虜になった坊主は、アドラーと世間話をするのに違和感がなくなっていた。
 犯人と人質が仲良くなってしまう症候群だが、アドラーの方は馴染んだ振りをしているだけ。

「そういう学説が知っていますが、教会としては大地は平らなのですよ」
 鎖もなく食事も与えられ、捕まってるだけの坊主はにこやかに答える。

「伝説の魔女イルル・バツータのほうきで世界一周、お前も聞いたことあるだろ?」
「あれは異端です! まあ無視してるだけですけど」

 和やかな会話で、アドラーは坊主の知識を誘導した。

「あっ……!」と坊主がなにかに気付き、「どうした言え」とアドラーが促す。

「いやこれは、最高機密なんですが……ここだけの話ですよ?」
 心理的にアドラーが味方だと思い始めていた坊主はペラペラ喋った。

「実はですね、友軍の位置を星や太陽から判断して、駐屯地からずっと南だと思ってたんです。ここが丸い大地で太陽の位置が反対ならひょっとして……?」

「おっ、良く気付いたな。流石は高位の聖職者」
 アドラーは坊主を褒める。

 現在、サイアミーズ軍本陣の南では、森と山に隠れて大量の兵器の製造中。
 アドラーとしては、例え友軍と連絡が付いても、敵軍には北へ目を向けて欲しい。

「いやーそれほどでも」
 アドラーに褒められて照れた坊主は、この翌日には味方に救出される。
 手には丸いガラス球と、自分が気付いたと思わされた情報を持って……。


 ドラクロワ上将は、茶色い髪の男を探すのを止めた。
 喫緊の目的は、何を置いても別の四個軍団との連絡線の確保。

 駐屯地の防衛を固めて、ただちに大規模な部隊を北へ送った。
 渓谷地帯を出ると広く乾いた大地となり、更に人口密度が減る。

 人探しには好都合だったが、アドラーはまたも他力本願な作戦を仕掛けていた。

「渓谷地帯を抜けるとさ、ナフーヌの住処なんだ。やりあってくれないかなあ……」と。

 侵略軍と天敵の魔物ナフーヌがぶつかるなど、この上ない展開であるが。

「アドラーのそういうの、全然上手くいかないわよね」
「そうそう、大体だんちょーが自分でやっつける」

 ミュスレアとブランカでさえ否定的。

「だ、駄目かなあ……?」
 アドラーは助けを求めるようにイグアサウリオを見た。

「我らの天敵は、激減した。まだ一千万体以上はいるだろうがな。だが、この広い大地に僅か一千万だ、不慮の遭遇もこの二年は大きく減った」

「期待しては駄目だな……」
 アドラーは諦めた。

 自分の幸運は、瀕死の状態でキャルルに見つけてもらった時に尽きたのではと、アドラーは疑っていた。
 ライデンの冒険者の間でも「あいつが首を突っ込むと酷い騒ぎになる」と有名である。

 だが『運がない指揮官』というのは部下に一番嫌われるもの。
 アドラーは浮かんだ疑念を心の奥底にそっと隠した。

 そしてもちろん、アドラーの仲間達は、常に厄介事へと首を突っ込む団長が大好きだった。


 アドラーの指示で、ドワーフ達は鉄を溶かす。
 鍋釜に農具に斧、日用品を使うことになるが仕方がない。

 女子供は、イグアサウリオが海辺の村々へと避難させてくれた。

 シャーン人達は数十人の見張りを付けて、闇の森と死霊の主リヴァンナの所へ送る。

 アドラーとイグアサウリオが、ダークエルフの面倒と食料の支援を頼む手紙を書いた。

「それはまあ、お前が頼めばリヴァンナも応じてくれるが。良いのか、飛んでくるかも知れんぞ?」

 イグアサウリオがそっとアドラーに聞く。

「何でだ、そこまで頼んでないぞ。もう人手は足りてる」
 心底疑問という顔でアドラーが答えた。

「いやいや、リヴァンナはお前が死んだと思っている。あの塔での戦い以来、ずっと喪服を着ている。それが生きてたと知れば……」

「ふーん、喜んでくれるかな?」

 リザードの首領は、古い友人をバカにする目つきで見た。
「お前なあ……。まあ良い、南北のエルフ女同士の戦いと言うのも見てみたい」

「んなっ!? 何を恐ろしい事を……そんな事になったら、俺は三番目の大陸に逃げるからな!」

 イグアサウリオは、目を細めてひょひょひょと笑いながらミュスレアを見ながら言った。

「その三番目とやらで、最初の入植家族になる気かな?」

 迫る危険にアドラーは気付いていないが、直近の戦いには十分に備える。

 北の大陸で、最初の大砲が完成した。
 砲弾となる鉄の球、ガラスの球も次々と完成する。

 口径と弾のサイズがさっぱり合っていなかったが、ここからアドラーとマレフィカで改造を加えなければならない。

 射程と火力に優る軍隊を相手に、アドラーはその上をいくつもりだった。
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