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第七章
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しおりを挟むサイアミーズ軍に捕まった者達を確認する為に、アドラーは駐屯地が良く見える場所まで動く。
味方を点呼した結果、集まったドワーフ族やリザード族ではないのは判明していた。
アドラーの右にダルタス、左にイグアサウリオと、三人が並んで木陰から見下ろす。
「有翼族か」
アドラーは目立つ特徴をはっきり捉えた。
「見たことないな、翼がある種族とは」とダルタス。
充分に距離があり、普通に喋っても問題はない。
「おうおう、アモールの奴らか。交易にでも出たとこを捕まったかのう」
こちらはイグアサウリオ。
有翼族またはアモール族、自らは天使とも主張するが、どの神さまも肯定したことがない。
獣人族の一種だが、背中に翼がある以外は人族とほぼ同じ。
アドラクティア大陸でも少数の種族で、南の大陸には生息していない。
翼が邪魔で力仕事に向かず、旅が好きで歌が上手いので、吟遊詩人や交易商人、魔力も強い種族で魔法使いを目指す者が多い。
「まいったな……子供連れだ……」
捕らわれた有翼族は、十五人か十六人。
戦いが苦手な種族なので抵抗はせずに怪我もなく捕まっていたが、中央に二人の子供と赤子を抱えた女性までいる。
アドラーには、彼らごと攻撃するのは無理だった。
全員が男ならば決断する可能性もあったが、アドラーにとって子供達を守るというのは、この異世界に生まれた存在意義に等しい。
ダルタスもイグアサウリオも、指揮官が漏らした弱気を責めたりはしない。
二人共、アドラーがどういう人物かよく知っている。
少し前になるが、オークの大男は、突然やってきて団長の右腕気取りのトカゲ野郎が気に食わず、手合わせを挑んだ。
「本気で来い!」と吠えるオークに、「腕を見てやろう」と余裕を見せるイグアサウリオ。
アドラー以外にもドワーフとリザード族の全員が集まり、5千人が見守る一大興行になった。
純粋な戦士であるダルタスが終始優勢だったが、イグアサウリオは攻撃のほとんどを受けきって魔法は使わなかった。
「や、やりおるわっ!」
イグアサウリオも思わず褒める。
「き、貴様もな。それで回復担当とは、信じられぬ!」
ダルタスも肩で息をするほど。
「これまで見てきたオークの中でも二番目を争うな。アドラーが選んだだけの事はある」
二番目と言われてもダルタスは怒らずに聞いた。
「その一番は、オルタスの名を継ぐオークか?」
南北のオーク族に共通する古代の伝説的英雄オルタス、その名を継いだオークがかつてアドラーの仲間にいた。
「うむ、知っておるのか?」
「おう、団長から聞いた。そいつはどれ程のものだ?」
「どうかの、今のお主よりは強かったな」
「それは是非とも戦いたいものだ」
ダルタスにすれば心からの願望。
「まあ、死んだがの。残念なことにな」
北のオルタスは戦死していた。
イグアサウリオが、死体まで確かめた。
その時のアドラーを含む七人の突入部隊は、七つの種族から構成されていた。
当時のアドラー指揮下には十以上の種族がいて、たまたま近くに居たのがオルタスとイグアサウリオ、エルフのリヴァンナ、他にはゴブリン族とホビット族を代表する戦士、そして有翼族のバシウム。
「バシウムは居ないな、良かった」
知り合いが捕まってないのを確認したアドラーは、少し胸を撫で下ろす。
「あの娘がいれば、そう簡単には捕まったりせんわい」
「そりゃまあそうか」
アドラーも苦笑い。
イグアサウリオの言葉の通り、有翼族のバシウムは恐ろしく過激。
筋骨隆々の巨体を想像させる名前だが、バシウムは白に緑が混じった美しい羽を持つ少女で、攻撃魔法の専門家。
前線に出る魔法使いというのも珍しいのだが、飛び抜けた才能が全て破壊に使われる。
一日で五万もの天敵ナフーヌを破壊して、その後の一週間は無茶と魔力切れが祟って熱を出して寝込んでも、「ちょうど体重が気になってた」と言う力と性格の持ち主。
この北の大陸で、一個軍団を相手に出来るかも知れない数少ない人物。
ただし手厚いサポートが要る。
「団長、どうするね?」
ダルタスが、兵士達から珍しそうに囲まれている有翼族を見ながらいった。
「救出したい。作戦を立てる。一旦引くぞ」
アドラー達は、そっと頭を下げて来た道を戻る。
この十日間ほど、アドラーは一切姿を見せていない。
そろそろ敵軍も油断をしているはずだった。
闇に紛れて忍び込み、有翼族を助け出す事も出来ると、アドラーは考えていた。
だが、不運というものは続く。
またもドワーフが転がり込んでくる。
「アドラーさん! 見つかった、砲台の一つが敵に!」
大砲本体を見られなかったのは幸いだが、山中を整備していたのが敵に知れた。
狩りの最中、逃げる鹿を深追いした兵士の一団が、山に沿って南側まで迷い込んできたのだ。
しかも主だった面々が作戦会議中で、兵士の大半を取り逃がす。
そして味方の不幸は、敵の幸運となる。
「ドラクロワ閣下! 敵の基地を発見しましたぞ。直ちに攻撃命令を!」
第三軍団の軍団長が、勇んでドラクロワの元へやってくる。
「やはりまだ居座っていたか」
一度たりとも警戒を解かせていないドラクロワ上将は、当然の表情。
アドラーとサイアミーズ軍がぶつかってから十五日目。
この日は、ドラクロワの元へ朗報が相次いだ。
最も重要なのは、友軍四個軍団の所在が知れたこと。
次に、見たこともない羽を持つ種族を戻って来た部隊が囚えた。
これを王陛下へ献上すれば、大層喜ばれるに間違いない。
そして、潜んでいた敵の存在が明らかになった。
「攻めますか!?」
第三軍団の軍団長が、もう一度尋ねる。
また少し考えたドラクロワが命令を出す。
「二日後に、探索に出していた第四軍団の半分が戻る。仕掛けるのはそれからだ。先鋒は第三に任せる、準備を整えよ。ああそれから、捕らえた翼の種族から、大人を選んで引き出しておけ」
ドラクロワは、山を登って攻めろなどと命じたくない。
しかし敵が何かを目的に拠点を作っているとあって、見過ごす無能とはかけ離れている。
その上で茶髪の男の実力を、高く評価していた。
「今まで一兵も姿を見せぬほど統率するなど、凡百の将では不可能なこと。さりとて、奴には弱点がある。引き出した者どもを柱にくくり、出て来なければ処刑すると山に向かって叫ばせろ」
最初の戦いで、集落を見捨てる事が出来ずに一人で飛び出したアドラーの性分を、弱点であると看破していた。
「明朝までに姿を見せろ! さもなくば、この者どもを処刑する! まずは男、次に女だ!」
魔法で拡大された兵士達の声が、南の山々へとこだまする。
「これはまずい」
「うむ、止めねば」
イグアサウリオとダルタスは、頷きあって共闘することにした。
二人には、アドラーが出ていくと言い出すと分かっていた……。
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◇
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