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第七章
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しおりを挟む「なんだお前らもか」
アドラーは、巨体を揺らして駆けつけたダルタスとイグアサウリオをちらっと見ていった。
二人は、特に言うべきこともなく、椅子に腰掛けた。
アドラーの肩の上にはブランカが乗っている。
右手はキャルルがしっかりと掴まえて、後ろではリューリアが服の裾をしっかりと握っていた。
「あー君たち、勝手に突撃したりしないから離してくれない?」
「ほんとかにゃー?」
アドラーの頭上で黒猫が信じれないといった顔で瞳孔を細め、肩車状態のブランカはこの体勢が気に入った。
「だんちょー、このまま突撃したらどうだ? だんちょーが走ってあたしが上でブレスを撃つぞ?」
実現すれば、この世界で初の自走式竜砲として歴史に残るであろう。
「ほらほら、あんた達離れなさい。これから作戦会議よ」
ミュスレアは冷静に子供達を散らす。
その態度は、如何にもアドラーのことを心から信頼してる風。
「あ、ミュスレはやっぱり信用してくれるんだ」
アドラーが嬉しそうに顔をあげる。
「当たり前でしょ、そんな無茶ばかりするとは思ってないわよ。だから私に剣を預けておいてね?」
ミュスレアは、問答無用でアドラーから剣を預かると弟に渡す。
「わたしの許可があるまで、絶対に返しちゃ駄目よ」と強く言いつけて。
「ぜんぜん信用してないじゃん……」
がっくり肩を落とした団長からみんなが離れて行く。
流石のアドラーも愛用の竜牙刀もなしに突撃は出来ない。
ただ、ミュスレアは優しく笑う。
「信用してるわよ。絶対に助けだすんでしょ? だから、みんなで出来ることを考えましょう」
ミュスレアが丸いテーブルの座席を順番に決めた。
アドラーの左右には、マレフィカとイグアサウリオを座らせる。
この三人が事実上の頭脳。
その次には、ドワーフ族とリザード族の作業を統率する二人、それからミュスレアとダルタスが座って残った席に子供達。
円卓のちょうどアドラーの対面に、竜牙刀を握りしめたキャルルが座る。
相手が相手、最強陸軍国家の精鋭軍団で、指揮官には一分の隙もないとあって、出来ることは少ない。
「まず、正面切っての攻撃は無理だ」
アドラーの言葉に全員が頷く。
こちらにはブランカとマレフィカがいるが、敵にも百近い魔術師がいる。
そもそも一撃食らわせたとこで、慌ても乱れもしない。
巨大なイノシシの魔物、落っこちたヌシの出現により、さらに掘の幅を広げて陣地には盛り土をして周囲を見下ろす要塞となっている。
弓と槍の兵士なら、十万で攻めても勝ち目がない。
「潜入も厳しかろう。じっくりと見たが、魔法が張り巡らされてある」
イグアサウリオの言葉に、アドラーとマレフィカが同意する。
侵入者警報から、要塞周辺の動態魔力検知まで、警戒網が一気に厳しくなった。
セキュリティシステムのスイッチを入れたようなもので、昨日までとは様相が違う。
無理攻めをするなら、ブランカが土壁ごと一部分を吹き飛ばし、ゴーレムを先頭になだれ込むだが……。
「まあ、ないな」と、アドラーは却下。
敵もゴーレムを出せるし、駐屯地の内部は焼きレンガと木板で足元を補強し、兵の移動もスムーズ。
長居することが決まり、病気の蔓延を恐れたドラクロワが水はけの良さと居住性を考えて整備させた要塞である。
盆地に位置するが、水攻めももちろん無理。
「穴を掘ればいけるかも知れないが……」
一応マレフィカも提案する。
「そんな時間はないな」
「ですよねー」
実のところ要塞指揮官だったドラクロワには、坑道戦の対抗策など幾らでもあり準備もしていた。
会議が始まった時から、アドラーには決めていた事がある。
「捕まった有翼族も大事だが、それよりも恐れていることがある」
アドラーが口を開くと、全員の注目が集まる。
「敵軍の将はドラクロワというらしい。サイアミーズ国内でも、攻勢も防衛も十全にこなせる名将として名高いそうだ。官僚のように兵士の損害を厭わないが、一方で部下を見捨てない男だと。俺たちの位置を知ったからには、最短で明日にも攻撃されると予想している」
アドラーは、今の人質騒ぎが囮ではないかと思っていた。
脅しに対応する為に時間を潰してくれれば、成否など問題ではないと。
これは半分当たっていた。
ドラクロワ上将は、南の大陸メガラニカの典型的なヒト族である。
亜人種をいたぶったりはしないが、ヒト族の部下とは明確に区別する。
『死者四十二人』に、全滅したと思われるダークエルフのシャーン人四十名は含まれていない。
「敵の指揮官は茶髪のヒト族。冷静になれば鳥混じりの亜人種を助けに出てくるはずがない」
ドラクロワはそう評価していた。
ただし二日後にはこちらから総攻撃をかけるとも。
「だが、俺は姿を見せることにする。そこで交渉するつもりだ。そして同時に明朝、総攻撃をしかける。まだ完成してない砲は放棄する、弾は完成した砲台へ運べ。合図があり次第、一斉砲撃を開始する」
ドワーフ族とリザード族の代表が立ち上がって、アドラーに退出の許可を求めた。
軽く頷きを返すと、二人は走って出ていく。
夜明けまではあと十二時間もない、寝ずの作業が始まるのだ。
「それで、団長はどうするつもりだ? 捕まっては意味がないぞ」
ダルタスが聞いた。
「あー、それはね。ミュスレア、危険なんだけど一緒に来てくれる?」
「良いわよ。で、何をするの?」
最初に承諾してからミュスレアは聞き返した。
ついでに右手で弟からアドラーの剣も取り返す。
「俺と一緒に来い」と言われた時点で、ミュスレアは満足だった。
アドラーは、団の仲間とイグアサウリオに作戦を説明する。
「捕まえた兵がいるだろ、こいつを裸にして……。そう危険なのはその後だ。だが有翼族が移送させられるまで、距離を保つ事が出来る……」
聞き終えたキャルルが「ちょっと待ってて!」と小屋を飛び出した。
少年は全力で走った。
周りでは、ドワーフとリザードが最後の追い込みにかかっている。
自分の寝床に飛び込んだキャルルは、小さな革袋を取り出してまた走り出す。
「兄ちゃん! ボク、こんなこともあろうかと貯めておいたんだ!」
嬉しそうにキャルルが差し出した革袋を覗き込んだアドラーが眉をひそめる。
訝しげに袋の中を見たリューリアは、手を拳にして弟の頭に振り下ろした。
「このバカっ! あんた何やってんの!?」
「ううーごめんなさい、けど役に立つでしょ?」
「立つわけないでしょ、こんなの!」
末の弟のしつけ係を自認するリューリアはまだ怒っていた。
「まあ使えなくもないかな……?」
アドラーも苦笑いするしかない。
ディエンの戦い――後に、最も被害の大きかった集落から名前を取った史上初の包囲砲撃戦まで半日を残すのみとなった――。
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