朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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「ブランカ、お疲れさま」
 アドラーは、大仕事を終えた団員をねぎらった。

 地下遺跡の丘を目指す前に、ブランカに質問していた。
「離れたところから、がおーって撃てないの?」

「無理かなあ」
「どうして?」

「あのね、口いっぱいに水を含んで吹き出す感じ。だから遠いと何処へいくか、あたしにも分からない!」

 なぜか得意げな顔をして答えたブランカを褒めながら、アドラーは作戦を一段積み重ねることにした。

 三千人のリザード族は、あくまでブランカをアドラーの元へ送り届ける役目で、その後は囮でしか使わない。

 誰もが目を離した隙に、ブランカは特大のドラゴンブレスを遺跡が埋もれる丘に叩き込んだ。

「……にしても、お前ちょっと強くなったか?」
「ぜっこうちょう!」

 ブランカは笑顔を見せる。
 この大陸に戻ってきてから、力は溢れんばかりだった。

「っと、溶けたガラスが降ってきた。ここは離れようか。まるでソドムとゴモラだ、あと何百年かしたら考古学者が頭を悩ますな」

 この辺りにも、数千発のガラス砲弾が打ち込まれていた。

 溶岩はもちろん、砂のガラス化など自然界では珍しくないが、一度作られた透明ガラスが再度融解して降り注ぐ。
 こんな現象はめったに無く、後の世代に世界七不思議を提供することになった。


 爆発の起きた反対側、西に寄っていたイグアサウリオの部隊でも、数十人が爆風で飛ばされて怪我をした。

「うむ、後で治してやるから今は引くぞ。戦略的転進というやつじゃな。みな走れ、怪我人は背負え」

 リザード族は一斉に退却していく。

 攻防共に堅固な魔弾杖の部隊にも、苦手な戦法がある。
 逃げる敵を追って突き崩しての追撃戦だが……。

「東に展開していた部隊に負傷多数!」
「しょ、食料庫が吹き飛びました!」
「敵が引いていきます!」

 想像していなかった事態に、追撃どころではない。

「ぬぬ……敵なんぞどうでも良い! 遺跡は、遺跡はどうなった!? 我々と本国を繋ぐ唯一の通路だぞ!」

 ビガードは、事の重大さを悟っていた。
 
 これまで受けたアドラー砲の攻撃は、飛び散るガラス片に転がる鉄球。
 広く浅く兵士を狙った攻撃で、負傷者が異常な程に増えた。

 それでも、通常の三倍以上の魔術支援部隊の付いた遠征軍ならば、立て直すことも可能であった。
 だがそれも、恒久的で守りの堅い駐屯地と、本国との連絡があってこそ。

「要塞中央を、空白にするための攻撃だったと? いやそんな馬鹿な。そもそも一体誰があんな事を出来ると言うのだ……」

 呟くビガードの元へ、大地を覆うガラス片を踏みながら魔術師が戻ってきて首を横に振る。

 第三軍団の軍団長ビガードは、友軍への合流を決めた。

 死者五百、負傷三千五百が損害の目算。
 これに加えて遺跡の喪失と駐屯地の放棄、失う物資は数知れず。

 無事に祖国に戻れても、ビガードの処刑は免れないが、生き延びた部下を救わねばならない。

 叩き上げの軍団長は、動揺の素振りなど羽ほども見せず、兵に命令する。

「食料を集めよ。使える井戸を探せ。武器は手放すな、残すな。負傷者の為に担架を作れ。四個軍団が待つ味方の陣地へ合流する! 戦友の仇は必ず取ってやるぞ!」

 人智を超えた存在の怒りを買ってしまったと、兵達は気づき怯えていたが、今は上官の命令に従って動き出す。
 動かなければ、見知らぬ大陸で飢えて弱り、魔物に食われる運命が待っているのだ。


 アドラーも、ブランカと一緒に退散していた。
 怒り狂って手当たり次第に攻撃するほどの馬鹿が相手なら、ここまで苦労はしない。

「今日か明日にも逃げ出すだろうな。そして、こちらから追撃だ」
「やっちまうのか? キャルルが出番がないって泣いてたよ」

「泣いてたのは嘘だろ?」
「うん、嘘! けどがっくりしてた」

 二人は壁も堀も飛び越えて、手近な森へと逃げる。
 この地の山も森も、アドラー達やドワーフ族の味方。
 万が一にも敵軍が居座れば、これからはゲリラ戦に悩むことになる。

「キャルルにも、ちゃんと役割はあったのになあ」
 アドラーは、どうしても活躍したいと機会を伺う少年を思った。

 キャルルの役割は、ダルタスと共に鉄盾を持って待機。
 もし作戦が失敗すれば、ミュスレアとアドラーを助け出すという重要なもの。
 その時には、キャルルの持つ”二人を強化”魔法をダルタスにかける予定だった。

「あいつに戦いはまだ早いのだ……!」
 絶好調の白竜娘が、上から目線でエルフの少年を評価した。


 アドラーが要塞の目前に姿を見せてから、一時間足らずである。
 攻撃側は全て撤退し、要塞は存在価値がなくなった。

 ビガードは昼を待たずに移動を始め、アドラー達は後を追う。
 とは言え、追撃は無理だった。

「天井が崩れ落ちるような敗走なら、手の出しようもあるのだがな」

 アドラーは、敵の行く先を確認する。
 途中で引き返して反撃など、幾らでも事例がある。

 翌日の昼まで、アドラーとキャルルと十数人のドワーフ族が、逃げ去るビガードの軍を渓谷地方から出るまで監視し続けた。

「もう大丈夫だ。戻ろうか?」
「うん!」

 アドラーは、キャルルの頭にぽんっと手を乗せる。
 出会ってからの三年間で、成長が遅いエルフと言えども、キャルルは頭一つ大きくなっていた。

 思ったよりも高かった手の位置に驚きながら、アドラーは引き上げの合図を出す。
 山の中から二日間も敵を見張り続ける厳しい任務を、志願したキャルルは立派にこなした。


「こいつら……もう飲んでやがる……」
 山の中では、ささやかながら勝利の宴会。

 ドワーフ秘蔵の山の酒、リザードが運んだ海の酒と、どちらもある。

「いやー連絡球ってのは便利だな。これは世界が変わるぞ?」
 アドラーから通信を受けた時点で、酒宴の準備を始めたとイグアサウリオは言った。

「飲み会の待ち合わせに最適だよ」
 アドラーは適当に返事をしてから一杯貰う。

「で、どうする? 付いていこうか?」
 イグアサウリオが、これからについて聞いた。

「……ここで、ドワーフを頼む。生活が再建されねば意味がない」
「分かった。……うん、これは美味いな」

 ドワーフの酒を飲んだリザードの伝説人サーガ・オブ・リザードが請け負った。
 この英雄は、周辺の部族や種族にも顔が利く。
 居るだけでも揉め事が減り、大きな被害を受けたドワーフ達の助けになるはずだった。

「それで、追うのか?」
「ああもちろん。いい機会だ、アドラクティアで狼藉を働けばどうなるか、知っておいて貰わないとな」

 アドラーの目的は、平和的な交流の開始である。
 落ち延びたビガード軍と残った四個軍団が、また暴れては困る。

「またお別れだな」
 イグアサウリオが、酒坏を上げた。

「今度は短い、たぶん」
 アドラーが軽く杯をぶつける。

「……昔の連中もだが、それに俺はまだ種族連合軍を呼べるが?」

「やめておけ。まともにぶつかれば、勝てない」

 アドラーだけが、二つの大陸のことをよく知っている。
 勝勢に浮かれて全面対決をすればどうなるか分かっていたし、また止める事が出来る立場にあった。

「最悪の場合、もう一つの出入り口を吹き飛ばす。上手くいけば、新しい時代が始まるぞ。楽しみにしておけよ」

 アドラーは、リザード族の友人に未来を告げた。
 その直ぐ後に、キャルルとリューリアがやってきて、アドラーをドワーフ族の踊りに誘う。

 エルフの姉弟に手を引かれた人族の男の背に、イグアサウリオは聞こえぬように返答をした。

「今更だな。新しい時代は、お前が十三で軍に入った時に始まっていたのだ、我が友アドラーよ」


 そして戦いは、大陸中央の平原地帯へ移る――。
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