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第七章
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しおりを挟む「厄介な物を作ってくれたな」
アドラーはもう返事をしないドラクロワ上将に一声かけて、小屋を出た。
ドラクロワ要塞は、南北に長い笹舟のような構造。
西側の長い防壁は兵士が二千もあれば守ることが出来て、南から東へかけては川が流れて大軍を寄せることが出来ない。
船首と船尾にあたる南北の端は、一際高く作られていて攻めるべき場所になってない。
南から撃ち込むドワーフの大砲は、北の端までは届かなかった。
ビガードが統率する残存部隊は、要塞の北部で再建を図る。
「攻撃開始から二十五分、そろそろだな」
アドラーは、一門あたりに百二十発の砲弾を用意出来た。
二万発の砲弾を、ドワーフ族とリザード族が人海戦術で山まで運び上げた。
砲弾を布にくるんで、ひたすら人力で山道を歩く。
中空で軽いとはいえ、重さは十キロを超えての重労働だったが、この苦労がサイアミーズ軍の裏をかいた。
大砲を素手で山へ運ぶなど、思い付いても普通は絶対にやらない。
相手に知れれば、ただ山頂に兵士と武器を捨てにいっただけになる。
アドラーは要塞の中央部、東寄りの丘を目指す。
そこには移転装置のある古代遺跡があった。
「おい待て、中の様子はどうだ? 援軍は?」
古代遺跡から出てきた兵士を見つけ、アドラーは声をかける。
兵士は、トマトまみれの男に一瞬怪訝な顔をしたが、階級章を見て敬礼して答えた。
「怪我人の移送は、残り百名ほどです。援軍は検討中とのことです!」
「ならば、もう直ぐ空になるか。それで、翼の生えた連中は?」
「最初に送りました! ところで、閣下はお怪我を……?」
「いやいや、これは味方の血だ! 北の部隊へ合流しろ、俺は南に残った部隊へ伝える!」
アドラーは焦った。
始末した首脳陣の一人から奪った階級章は、思いの他に高位だった。
サイアミーズ軍は、クリーム色に青という揃いの軍服を持っている。
野戦用で士官と兵の区別がほとんど無いので便利に利用していたが、そろそろ脱ぎ捨てるタイミングだった。
アドラーは兵士から逃げるように南へ走る。
砲撃の頻度は落ちていて、もう弾切れも近い。
舟形要塞の船首、要塞の南端ではまだ小隊が一つ頑張っている。
「貴様らも北へ行け! 集結しろ!」
なるべく偉そうに、アドラーは怒鳴る。
振り返ってアドラーを見た防衛指揮を執る小隊長は、笑顔で数歩近づいてから、問答無用で腰から剣を抜いて斬りつけた。
「何者だ!?」
「やはり気付かれたか……」
「当たり前だ! 上級将校の顔など全員知っておるわ!」
激怒した小隊長が、剣を振り回す。
腕に覚えがあるのだろう、自信のある剣さばきだなと、アドラーは感じた。
だが、二手三手と合わせてからアドラーの刀が小隊長の剣を絡め取る。
「よーし、お前ら全員降伏しろ」
アドラーは剣を突きつけてから、周りの部下に降伏を促す。
「誰がたった一人に降伏など! 貴様ら、俺ごと撃たぬか!」
サイアミーズ軍の士官や下士官は、揃いも揃って勇猛果敢で有能。
「育成の秘訣を教えて欲しいくらいだな。だが、俺は一人ではない」
アドラーは、冒険者七つ道具の一つ『煙玉』を取り出し、軽く服でこすってから要塞の外へ投げた。
この小隊が監視していたのは、要塞の南部へ流れる川と岸辺。
魔法による警戒装置が鳴り響く。
「て、敵襲!」
「リ、リザード族だっ!」
川から三千のリザード族が頭を出し、要塞南端へ侵攻を始めた。
「撃て!」と、刃を突きつけられたままの小隊長が命じ。
小隊が一斉に眼下へと弾を撃ち込む。
アドラーの耳にも、金属と金属がぶつかる高い音が聞こえた。
「こいつら、鉄盾を!」
兵士の一人が、悲鳴を上げた。
――リザード族は、ヒト族の仲間である。
ただ皮膚が固く厚くなっただけで、水中に十分以上も潜れて器用に移動する以外は特に違いはない。
「なら、その尻尾はなんだ?」と、アドラーがイグアサウリオに聞いたことがある。
「神からの贈り物さ」
今ではリザードの伝説人と呼ばれるプリーストは笑って答えた。
リザードの海賊湖賊や上陸強襲戦は、他の種族からは神話的な恐怖となっているが、リザード族は好戦的ではない。
ただしこのアドラクティア大陸では、他の種族と合同し勇敢に戦う。
ドワーフ族の女子供を殺した連中は、明確に敵であった。
食い物も分けるし復讐にも協力もする、乞われれば戦うことに迷いは一切ない。
そして率いるのは、リザードの伝説人イグアサウリオと”人族のアドラー”。
「進め、孫のその孫まで自慢できるぞ!」
水中での長時間待機も何のその、リザード族の士気は高い。
鉄の盾で最初の攻撃を防いだとしても、盾を持っているのは先頭の十人ほど。
次々に撃ち下ろせる小隊百人ならば、槍を持った三千のリザード族を押し返すなど容易い。
しかし上にはアドラーがいる。
「諦めて逃げろ。北へ行け、北の仲間の所へ」
アドラーは、小隊長を防壁の下へ投げ飛ばした。
「ああっ! 隊長が!」
部下の兵士が、悲しそうな声を出した。
要塞の直ぐ下は、土がむき出しの地面である。
小隊長は、見事に受け身を取って着地した。
「お前らも続け」
アドラーは、続けて二、三人を蹴り落とした。
魔弾杖に装填させなければ、アドラーの敵ではない。
高い防壁と、迫る三千のリザード族に挟まれた小隊長は、壁に沿って後退を始める。
要塞の上の兵士も、追いかけるように付いていく。
「一回撃たれたぞ?」
「一回で済んだろ?」
イグアサウリオの文句を流したアドラーの元へ、三千の味方がよじ登ってくる。
この三千人の目的はただ一つ。
「だんちょー! あたしが来たぞ!!」
白い尻尾を振りながら、ブランカが飛び上がってきた。
「締めにかかるか。イグアサウリオ、そこらへんの武器を拾って適当に睨み合ってくれ。この要塞の西側に沿ってな。東側には近づくなよ」
第三軍団の軍団長ビガードは、頃合いを読んでいた。
砲撃が弱まり、兵士の動揺は収まり、戦力として期待出来る状況になった。
まだ手元には、完全装備の精鋭が六千もおり、半個軍団の味方が向かってきている。
そしてそこへ、南端に敵が現れたと小隊が告げに戻って来た。
つまり、砲撃が終わる合図である。
「前進せよ。要塞を取り戻す。食料庫、武器庫、遺跡に司令部、何一つ敵に渡すな」
ビガードは、倉庫群に火を付けられるのを恐れた。
サンドゴーレムが自動で消化するが、油や炭を撒かれたら手の打ちようがない。
長さ一キロ半の要塞の、半分まで進むと敵が待っていた。
「やはり我らの武器を知っておる。厳重なことだ」
木材や丸太にレンガの上に、土を被せた防御陣を見たビガードは、部隊を止めて命令を出す。
短く低い土壁だけで、魔弾杖の攻撃を防ぐのは不可能。
要塞の外を回って東側から二個大隊、さらには付近の丘も押さえる。
側面と上から撃てば、隠れるところもない。
リザード族と思われるおよそ三千は、ビガードの目の前で動かなかった。
まるで、何かを待っているかのように。
「軍団長どの!」
魔術師の一人が、注意を引く大声を出した。
「なんだ!?」
ビガードは、敵から目を離さずに聞く。
「おかしい、こんな事が!」
「ありえません!」
魔術師達が、次々に異常を訴える。
「分かるように話せ!」
常にまどろっこしい説明口調の魔術師を、ビガードは嫌っていた。
「急激な魔力上昇、敵陣のもっと左……東からです! こんなの、駐屯地ごと消えてしまう!」
「なんだとっ!?」
ビガードが敵から目を離し、魔術師へと振り向いた瞬間に”それ”は起きた。
転移装置のある遺跡の丘が、光に包まれて土砂を巻き上げながら大爆発を起こした。
遺跡の貯め込んだマナが逃げ場を失い、上空へと殺到して赤と黄色に輝く柱を作る。
この光の柱は、アドラクティア大陸の南部一帯から見えた。
サイアミーズ軍の遠征第一軍、バルハルト率いるミケドニア帝国軍、あらゆる魔物に二足種族、そして天敵ナフーヌの群生体からも。
力に自信がない者は、光の柱から逃げるように遠ざかり、少しでも力を持つ者は、吸い寄せられるように集まってくる。
終わりの始まり、いや新しい時代の幕開けとなる、祖竜の一撃だった。
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