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第七章
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しおりを挟む「な、なぜだ? どうしてあたしが勝てない……」
ブランカは苦戦していた。
きちんと武器を持っての戦いとはいえ、剣を何度叩きつけても当たらない。
相手の攻撃は、はっきりと見えるのに避ける度に嫌な方向へ追い込まれる。
「がおっ!」
頭に血が登ったブランカは、剣を捨てて目の前の男に飛びかかった。
「はい、捕まえた」
「……くっ、ころせ」
「何処で覚えた?」
「エスネが、良い女は捕まった時にそう言うって」
エスネとは、アドラー達”太陽を掴む鷲”団が本拠地にしている、自由都市ライデンのトップギルドの副団長。
見た目と言動は貴族の娘だが、実は漁師の娘である。
「あいつめ。そんな台詞、もう使ったら駄目だよ?」
アドラーがブランカを解放して訓練が終わった。
ブランカは、周りで見ていたミュスレアとダルタスに聞いた。
「ねえ、何でだんちょーに勝てないの?」
今では、瞬発的な速さも目の良さもブランカに軍配があがる。
そろそろ団長から一本取れると、野生の勘は告げていたのだが。
「そうねえ、アドラーは相手の動きを読むのが上手いから。それで攻撃を出し難い方向に回り込まれるでしょ?」
「竜の子も戦い方を覚えたが、団長はその上をいく。それだけのこと。まあ、団長も強くなっているがな」
昔のアドラーは、実戦経験が少なかった。
敵が天敵のナフーヌ、陸生の蜂を大型化した集団モンスターとしか戦っていなかったから。
南の大陸メガラニカに飛ばされて、多種多様な魔物や、同サイズのヒト族との戦いを覚えた。
良いことかは分からないが、武器を持つ者同士の戦いに慣れて一皮剥けたのは事実。
「ふーん。あたしが巨大な竜で、だんちょーが勇者で倒しに来てたらまずかったな!」
物騒なことを言いながら、ブランカがアドラーの肩に飛び乗る。
「ぐおっ!?」
突然の荷重に、アドラーは密かに強化魔法を使った。
人型の竜は、驚くほど密度が高い。
見た目の倍以上の体重があるが、アドラーは少女の竜に「重い」と言うほど非道ではなかった。
「おいブランカ、降りてこい。今度はボクが相手だ!」
今度はキャルルが挑む。
何と言っても、この1年で一番強くなったのはクォーターエルフの少年。
上限を突き抜けたような仲間の中で、めきめきと成長していたがまったく目立つ事が出来ない。
ランク1からランク40くらいにはなったが、周りがランク200超えばかりではどうしようもない。
「ふふーん、相手してやろうか?」
肩車されたブランカが、上から目線で挑発する。
「いいから降りてこい!」
速さや重さはともかく、剣の技に限ればキャルルもブランカよりはできる。
「やれやれ、仕方ないなあ……」と、飛び降りようとしたブランカが気付いた。
北の地平線を見ながら、アドラーの髪の毛を引っ張る。
「だんちょー、何か来る。大きいぞ」
「ダルタス、ボクも!」
キャルルも、オークの肩によじ登る。
「すっげぇ、トカゲだ。太いしデカイ、真っ直ぐこっち来るよ!」
舌先が二つに割れ、手足は短いが丸々と太ったトカゲが一匹、アドラー達の方へのそのそ歩いて来ていた。
「あー、南の風か。これは臭いをたどって来たかな? 西に見える森まで逃げようか」
アドラーの一行は動き出す。
今は渓谷地帯を抜け、乾いた草原をのんびりと北上していた。
敗走したサイアミーズ軍を追いつかぬ程度に追尾しながら、もう一つの古代遺跡まで案内させる。
そして、多くの負傷者を連れたビガードの軍勢は、この辺りの魔物を引き寄せていた。
樹高が百五十メートルを超えるメガセコイアの一番下の枝まで登る。
軽く三十メートルはあったが、マレフィカがほうきで飛んで縄をかければ、軽々と上がることが出来る。
二股の舌で空気中の臭いを辿り、巨大トカゲが木の下までやってくる。
「おでぶちゃんね。なんかかわいいわ」
ミュスレアが槍を持ち直しながら言った。
叩き込めるけどと、聞きたい様子。
「しばらく放っておけば、別の獲物ところへ行くよ。あれはコドモオオトカゲって種類でね。手足が短く目はくりっとして、子供に見えるんだが……なんにせよでかい」
尻尾の先まで二十メートルはあるコドモオオトカゲは、名残惜しそうに木の周りを一周してから、ずんぐりとした体を引きずって去っていく。
「キャル、おいで。こっちへ」
「なあに、兄ちゃん」
アドラーは、キャルルを本格的に育てることに決めた。
冒険心とやる気に溢れる少年は、何時かアドラーと姉たちの懐から飛び出す。
その時までに、一人前の兵士でなく冒険者にしてやりたいと思った。
きっとキャルルの世代は、二つの大陸を行き来しながら探検する時代になると信じて。
「コドモオオトカゲが、新しい獲物を見つけた。行く先の砂地に、うっすらと円があるのが分かるか?」
「うん、分かる。真ん中に変な棒が立ってる。あ、動いた!」
アドラーの指差す方角で、砂地の真ん中に立った茶色い棒が誘うように揺れた。
「あれはサバクサソイアンコウの罠だ。大きな口を開いて、疑似餌だけを出してじっと待つ。とある街のすぐ外で、三年間も待ち続けた記録がある。出入り口の一つが使えなくなった住人は、仕方なく家畜を与えたそうだ。同じ場所では餌を取らない習性があるからな」
砂漠に住む誘いアンコウの大型個体、口を広げて十メートルに、全長二十メートルの子供オオトカゲが目を付けた。
「あっ、迷わず罠に突っ込んだ!」
キャルルがアドラーを見て、直ぐに視線を戻す。
サバクサソイアンコウは、コドモオオトカゲの前足に食いついたが、トカゲはびくともしない。
「見ててごらん、よだれを垂らすよ。だから赤ん坊みたいでコドモトカゲって呼ばれてるんだ」
アドラーの解説付きで、七人と一匹の冒険者ギルドは二大怪獣の決戦を見つめる。
トカゲは、開いた口から大量の唾液をアンコウの口へ流し込む。
「うわー、汚い」
キャルルから素直な感想が出た。
「あんなキスはごめんだわ……」
リューリアが衝撃発言をした。
「えっ?」
「んにゃ!?」
「姉ちゃん!?」
「妹!?」
六人と一匹が驚いて次女を見た。
「ん? ち、違うわよ! 友達から聞いたのよ! 私の友人はみんな、リューリアにはまだ早いって男の子からかばってくれるし!」
リューリアはヒト族の年齢にすればまだ14か15歳、周りの友人が悪い虫から遠ざけるのは当然だった。
もちろん、クォーターエルフの美少女が恋愛戦線に出てくれば、大変なことになるとの打算込みではあったが。
「よだれをかけられたアンコウの動きがおかしいにゃ」
バスティが肉球で指差した。
サバクサソイアンコウが、陸にあがった魚のように暴れ始めた。
「コドモトカゲの唾液には毒がある。強くはないって言われてるけど、あの巨体だからね」
大量の毒をかけられ弱ったアンコウに、トカゲが食らいついて地面に引きずり出す。
怪獣決戦はトカゲの大勝利だった。
「さあもう安全だ。コドモトカゲは餌を食い終わるまで動かない。ちなみに食べた後も全然動かないぞ」
アドラーの合図で木を降りる。
アドラクティア大陸は、二足種族が少ないぶん魔物が強い。
博物学者になりたいアドラーは、この大陸の動植物に詳しい。
ただし、天敵ナフーヌとの戦いに明け暮れたこの地では、文系の学者どころか冒険者すらいない。
これまでは全種族が協力して生き延びるのに精一杯。
「あ、羊!」と、ブランカが新しい魔物を見つけた。
「みんな静かに。後ろにそっと下がって」
アドラーの態度に何人かが首をかしげる。
「羊なのに?」
「あれはキバノアル羊といって、立派な肉食。しかも獰猛だ」
「き、気づかれたにゃ……」
猫のバスティが、真っ先に獲物として認識されたことに気付いた。
「逃げろー!」
アドラー達は一斉に走り出す。
同じ道を先に行ったサイアミーズ軍は、負傷者連れでもあり、大量の魔物に苦戦していた。
”太陽を掴む鷲”は、アドラーのガイドもあって安全に進む。
新しい大地を七人と一匹は冒険しながら歩く。
そして、四日も前方に居たはずのビガードの軍に追いついた。
それは、新大陸の試練を受けたボロボロの敗残兵の集団だった。
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