朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 ブランカは困っていた。
 突然、だんちょーが小さくなったのだから。

 頭を近づけると生きてると分かったので、少しほっとしたが、今度は見慣れない自分の鼻が気にかかる。
 祖竜の口も鼻も、肉食獣のように前に長く視界に入る。

「兄ちゃん!?」とキャルルが倒れたアドラーの下から這いずり出てくる。
 ここで飛びついたら多分駄目だなとブランカは考え、何となく二人をべろんと舐めた。

「うわっ、なんだ? いや誰だお前、ってブランカか?」
「あい!」

 大きな声が、大気を揺さぶった。

「だんちょー、起きてー」と呼びかけるブランカの頭の中は、心配が八割に疑問符が二割。
 どうやら体が大きくなったと分かり、自慢の尻尾で団長とキャルルを囲って守る。
 今のところ、それだけで充分だった。

 既に竜の足元では、ダルタスが動いていた。
 まずは騎乗した一人に斧を投げつけて頭を潰した。

 現れた純白羽衣竜ホワイトフェザードラゴンには目もくれず、ダルタスは非常識に慣れてきていた、大股で走り寄っては周囲の敵を殴り倒していく。
 オークは素手でも強いのだ。

 その背中に続くようにリューリアも走る。
 驚きの声を上げる前に、ヒーラーの彼女にはやるべき事がある。

「ブランカ、通して!」
 リューリアが見上げて叫ぶと竜は素直に従う。
 ひょいっと上げられた尻尾をくぐって、アドラーの容態を確かめる。

 残った騎乗兵は二人。
 一人はミュスレアが飛び蹴りで叩き落とし、もう一人の顔には黒猫が張り付いてひっかき落とした。
 神様だって時には手を出すのだ。

 五人いた魔術師の二人は攻撃に転じようとするも、マレフィカが魔法の発動を妨害する。
 彼らは運が良かった。
 あと一人でも攻撃の準備をすれば、妨害でなく魔女の攻撃魔法が待っていた。

 残った者共が、ギヨームと馬から落とされた貴族の坊っちゃん達を引きずって逃げようとする。

「逃がすか!!」

 いまだ怒り収まらぬ白竜が、くわっと口を開いた。
 本能で攻撃態勢を取ったが、ぽんっと丸い煙が出ただけだった。

「なんで!?」
 また叫んだブランカの声に耳を塞いだ貴族連中は、隠しておいた馬まで走るが、そこで最大の不幸が待っていた。

 数匹のユニコーンが軍馬――質の良い軍馬は大柄な牝馬――を誘って逃がそうとしていた。
 必死で逃げてくるヒト族と、美しいユニコーンを見比べた牝馬達は、迷わず後者を選んだ。

「な、なんてことだ!」
「お父様に怒られる……」
「良いから逃げろ、走れ! 竜に食われるぞ!」

 生き残った十五名ほどの男たちは、全力で南へと遁走し始めた。

「誰が食うか!」
 止めを刺し損ねたブランカは、アドラーの側を動かない。

 あんな連中など、どうでも良いのだ。
 団長の具合を見るリューリアに大きな頭を寄せて、悲しそうに鳴く。
 ミュスレアとダルタス達もやって来て、静かにアドラーを見守る。

「……最初の一発だけね。次からはお姉ちゃんが防いだの?」
 妹の問いかけに、ミュスレアが頷く。
 彼女の絶対防壁ファランクスがぎりぎりで届いていた。

「それで、最初の一発だけど……頭に当たってる。けど流石はお兄ちゃんね、頭蓋骨は割れてないわ。大きなコブが出来てるだけ。頭の中が腫れたり出血しないように処置したわ!」

 ようやくリューリアが顔をあげて、団員たちは顔を見合わせて笑顔を浮かべた。

 まだ気絶したままのアドラーの頭の横にバスティが陣取り、黒猫ごとブランカが舐め回す。
 今の大きさでは飛びついて喜べない代わりに。

 リューリアは膝に置いていたアドラーの頭を姉に任せて、一番重傷な一頭のところへ向かった。

「心配しないで、弾を取り出して止血するから大人しくしてね?」

 次女の言葉に、ユニコーンのボスは静かに従う。
 ブランカにボスと名付けられた一角馬は、もう瀕死だった。

 マレフィカとダルタスもやって来て治療を手伝うが……回復の見込みは薄い。
 しかも、あと数時間もすればこの地は天敵ナフーヌの群れに覆われる。

「兄ちゃんが、目を覚ました!」
 リューリア達の後ろで、キャルルが叫んだが今は振り返って喜ぶ余裕はなかった。
 ボスの体内からやっと七つ目の弾丸を摘出したところ。

 目を開いたアドラーは、軽く頭を振って記憶を整理する。
 もう周りに敵はなく、ミュスレアとキャルルが自分に抱きついて喜んでいる。

 そして、頭の上には大きな竜の顔があった。
「ブランカ?」
「あい!」

 くしゃっと目を閉じて牙を見せての笑顔は、何時ものブランカのものだった。

「そうかー、竜に戻ったか。それにしても……」
 その先の一言をアドラーは飲み込む。

 ブランカの祖母、完成体の祖竜は、しなやかな体に長い顔、鷲の翼をさらに豪華にした羽を何枚も持つが、ブランカの場合はまた違う。
 短い手足にまだ丸みの残る顔、背中の羽は良くてにわとり。

「リュックを背負ったダックスフンドだな、まるで」
「なにそれ? かっこいい?」

 くいっと顔を傾けて白竜が聞き返す。
「あー……そうだなあ。どちらかと言えばかわいい、かな」

「短足の竜だし」
 キャルルが竜を馬鹿にし、ブランカは鼻先を少年に着けて地面に押し倒す。

「やめろ、バカ!」
「短足って言ったキャルルが悪い!」

 エルフとドラゴンのじゃれ合いといった、滅多に見られぬものを見ながらアドラーは立ち上がる。
 ミュスレアが腕を取って介添えしたが「もう大丈夫」と伝えて、アドラーはユニコーンの元へ歩いた。

「どうだい?」と聞くと、リューリアは黙ったままで、マレフィカが代わって首を横に振る。
 周りには他のユニコーンや、逃げた牝馬達も集まってきていた。

「……馬は、寝た体制で長く体を支えることが出来ない。血や内臓が偏って苦しむ事になる。みんな下がって、なるべく見ないように」

 アドラーも、何とかしてやりたい。
 ボスには世話になったどころか、キャルルとブランカの為に戦ってくれた。
 だが今は、時間がない。

 見える範囲で数十万の魔物が、更に加速しながら迫っていた。

「いやだ! だめだ! ボスはわたしの下僕にする! この大陸でケツの次の下僕だ、勝手に死ぬなんて絶対だめ!!」

 祖竜が吠えて、剣を抜こうとしたアドラーを止めるように顔を割り込ませた。
 大きな金色の瞳が、一つはアドラーに助けてと訴え、もう一つがボスを見下ろす。

「ブランカ……しかし、いやギリギリまで頑張るか」
 アドラーも簡単な治癒魔法なら使える、最期まで諦めずにと決断したところで、ボスの容態が急変した。

「嘘……た、立てるの?」
 ずっと手当てをしていたリューリアが、翠の目を丸くした。

「だ、団長!」
 マレフィカが、ボスを見てからアドラーを見て、それからブランカを見た。
 アドラーにも視線の意味するところは伝わった。

 名前を付けた相手は、ヒト同士でも特別な関係になる。
 代父母として、その子供を自らの子と同じく面倒をみると誓っての行為であるから。

 これが神や竜になれば、もっと重い。
 アドラーとバスティやブランカは特別な関係にあった。

 ブランカが竜体になったのは、怒りで覚醒したという単純なものではない。

「お前ら覚えとけ、これ以上傷つけたら国ごと焼き尽くしてやる」と、口に出した言葉が呪文として自らにかかり、特別なアドラーを傷つけられた時に竜の言霊が発動した。

 祖母のかけた人型化の魔法を破り、現在の最強の姿へと強制的に戻ったのだった。

 ブランカに名付けられたボスは「まだ死なせない」と言われたことで、祖竜の力が流れ込む。
 ゆっくりだが確実に、ユニコーンは四つの蹄を大地につけた。

「さすがはあたしの下僕!」

 ブランカは素直に喜んだが、アドラーとマレフィカは改めて竜の力を思い知った。
 これからは言動に注意させなければならない。

「さてと。俺たちも逃げるか」
 アドラー達も退散する。

 しばらくすれば、ここはナフーヌの群れが通過する。
 推定百万近い群生する天敵の大群は、そのまま南の両大国の陣営に突き進むだろう。

「せめて教えてやろう。もう戦争どころじゃないってな」


 アドラー達が出発する前に、記念撮影を行った。
 バスティの首輪に付けた水晶と、ブランカが何時も首に下げている紅玉の魔法写真機で。

 不思議なことに、紅玉は何時の間にかブランカの右手の人差指にあった。

「これがなくなったら泣くとこだった。あたしの初めての勇姿も残せないし」

 巨大な白いダックスフンドと、その前に並ぶ冒険者ギルドとユニコーンという、不思議な映像が世に残った。

 ”太陽を掴む鷲”は、全員が白竜の背に乗った。
「飛べる!」と豪語したブランカだったが、試してみると手足を広げて地面に落ちただけだった。

 ここから走って戻る。
 ユニコーン達は、ナフーヌを避ける為に東へ逃げた。
 ブランカが守護竜として君臨する時、ボスはケツと共に姿を見せるだろう。

 ほんの数分走っただけで、大地を歩く貴族の子弟どもを見つける。
 馬を失って歩く哀れな姿に、アドラーは一つ忠告した。

「西へ行け。南に進むと追いつかれて死ぬぞ。全力で走れば生き延びる機会はある」

 彼らが、アドラーの言ったことに従えば、生存のチャンスが生まれる。
 従わなければ幾十万のナフーヌに轢かれて死ぬだけだが、そこまで面倒を見る気はアドラーにはない。

 短い手足で故郷の大地を疾走するブランカはそれは楽しそう。
「がおーがおー。ブランカ様だぞー」と鼻歌を響かせながら駆ける。

 アドラー達は、あっという間にミケドニアとサイアミーズが睨み合う地点へと戻ってきたのだが……。

「あっ、この馬鹿ども。おっ始めてやがる」
 両軍が陣営から出て、会戦を始める直前だった。
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