朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 ミケドニア帝国新大陸派遣軍 公称五万実数ニ万七千 
 率いるのはバルハルト将軍

 サイアミーズ王国遠征第一軍 公称六万実数三万
 率いるのはバティスト・ロシャンボー上将

 お互いに相手をよく知る、名将との評価を固めた指揮官同士。
 二人が揃ってこの日に戦おうと思ったのは、偶然ではなかった。

 つい前日、現地民らしき家族連れが堂々と両軍の前を横切った。
「兵が家族と故郷のことを思い出す前に……」と、一戦交える気になったのだ。

 もちろん、バルハルトはその一団が誰か分かっている。
 自軍のところへ来てくれぬかと、大いに期待したのだが、アドラーは老将の熱い視線を無視して通り過ぎた。

「まあ仕方ない。わしの思い通りになる男でもあるまいて。既に二つも敵軍団を挫いてくれたでな」
 バルハルトは素早く切り替える。

 目前の敵将に小細工が通用しないと、バルハルトもロシャンボーも確信していた。
 小細工とは、それなりの別働隊を仕立てて敵を試すこと。

 だが両将ともに備えは怠らない。
 北方に向けて長い哨戒線だけは伸ばしていた。

 そのラインの北端で、ブランカは止まった。

「あれはなんだ?」
 二大国の兵士が、白い物体をじっと見つめる。

「トカゲ?」
「いや犬だろ……」

 ダックスフンドのような体型に、にわとりの羽、尻尾はワニ。
 羽毛と毛と鱗が混ざる、謎の生物がちょこんと座っていた。

「あたしはドラゴンなのだが……」
 風に乗って兵士の会話がブランカの鋭い耳に伝わる。

 舐めた人族にびしっと言ってやりたいが、今は団長から「待て」と言われていたので動かない。

 頭の上に登ったアドラーが、右手のサイアミーズ軍、左手のミケドニア軍を確認して、ずっと南の川岸を見つめる。

 両国の軍は、戦列を組んでの接近銃撃戦を望んでいた。
「うーん、やっぱりそれをやるのか。死傷者の数にびびるぞ……止めとけ……」

 この世界で、数万単位が向き合っての撃ち合いなど史上初。
 バルハルトもロシャンボーも、自軍の火力を最大限に生かす戦術を選んだのは流石だが、結果までは分かってない。

「兄ちゃん、どうなるの?」
 男の子らしく、わくわくした顔を隠さずにキャルルが聞く。

「今は互いに千五百歩ほどの距離、これが三百歩ほどになれば撃つ。相手が崩れなければ更に前進、倒れた兵士の穴は後ろから埋める。死傷者の数に耐えきれず、背中を向けた方が負けさ……」

「げぇ……先頭には立ちたくないね……」
 キャルルが当たり前の意見をいった。

 帝国の新大陸派遣軍と王国の遠征軍は、他のどの国を相手にしてもこの戦術なら必ず勝つ。
 練度も装備も指揮官も下士官も、頭三つは抜けて優秀なのだ。

 しかし力量がほぼ互角となると……。
「下手すりゃ弾が尽きるまで撃ち合って血の海だな」

 アドラーは、そこまでやって平和共存するしかないと理解するのもありだと思ったが、問題は迫りくるナフーヌの大集団。
 疲弊しきった両軍を食い破った後で、そのままドワーフ族やリザード族の住処まで侵攻しかねない。

「止めるぞ。ブランカ、行け」
「あい!」

 首をぴんと立てて短い角を誇らしげに見せつけ、長い尻尾を左右に揺らしながらブランカが歩き出した。

 アドラーの左手側、東には十数人が立てこもる小さな哨戒拠点が距離を置いて並んでいる。
 尻尾の先まで五十メートルはあるブランカに、驚いたが攻撃してはこない。

「あの旗は……」
 アドラーが見慣れた旗を見つける。
 宮殿と獅子の姿が描かれた隊旗は、”宮殿に住まう獅子”団、通称レオ・パレスのもの。

 軍の斥候や遊撃としてバルハルトに駆り出されたが、正面決戦となったので警戒部隊に回されていた。

「北から敵が来る 伝えろ 逃げろ 至急」
 アドラーは竜の頭の上から、冒険者の手信号を送った。

 直ぐに反応があった。
「お前は誰だ? それは何だ? 敵って何だ? 戦争中だぞ!」

「そんな一度に聞く奴があるかよ」
 アドラーも苦笑い。
 だが、冒険者同士の合図で緊張は一気に溶けた。

 アドラーは、荷物から自分達の旗を取り出して見せる。
 太陽を引き上げる漆黒の鷲の紋章は、冒険者の間では有名。

「太陽を掴む鷲!? あいつら、来てたのか……!」
「ってことは、あいつがアドラーか……」
 最近、悪名高いライデンの冒険者団に、兵士として雇われた冒険者達が気付く。

「北から敵 魔物 推定八十万」
 次に送った手信号で、レオ・パレスの面々が慌てだした。

 数人のグループが、たこ壺型の防御陣を飛び出して北へ向かう。
 他の味方へ伝えに走る者、意を決して向かい合うサイアミーズ軍に教えに行く者、そして本体へ連絡球で通信する者。
 冒険者の判断と行動は早い。

「あれ、あっさり信じてくれたな」
 アドラーも拍子抜け。

「兄ちゃんは、変な有名人だからね」
 キャルルが何故か自慢げに答え、ブランカの背の上をお尻の方まで歩いていった。

 そしてキャルルが木の棒を振り上げた。
「もう良いぞ! いけ、ブランカ!」

 馬と同じつもりで、竜にムチを入れる。
「ぴぎゃ!?」

 突然の衝撃に驚いたブランカが走り出す、しかも全速力で。
「お、おい待て! 待て!」とアドラーが叫んでも止まらない。

 女の子のお尻を叩いたキャルルは、後で長女から百倍にして叱られる事になるが。


 帝国派遣軍と王国派遣軍は、互いの顔が見える五百歩の距離まで近づいていた。
 あと百歩も進めば開戦となる。

 有効射程は三百歩と言われるが、実際に魔弾杖が効力が発揮するのは二百歩を切ってから。
 これまでにない戦争の形に、兵士達の緊張は高まり軽口も少ないが、鳴り響く軍楽隊の行進曲が足を止めることを許さない。

 あと数分で、一万人の戦列が攻撃を開始して、数時間後には一万以上の死者を生産する史上最大の会戦が始まる……とこであった。

「なんだあれは!?」
 ミケドニア軍の最右翼と、サイアミーズ軍の最左翼が、北方にうねる高台を白い物体が乗り越えるのを見た。

 短い足を高速回転させた白く巨大な一頭が、凄まじい速さで突っ込んでくる。
 両軍の兵士は、本能的に武器を構えた。

「とま、止まらないー!!」
 高台を駆け下りたブランカが、まるで閲兵式のように整然と並んだ兵士の中央へ飛び込む。
 そこはこれから弾丸が飛び交う場所。

 命令はなかったが、反射的なもので兵士達を責めることは出来ない。
 目の前を走る謎の怪物と、その上に立つ男に向けて、両軍は北から順番に撃ち始めた……。
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