悪役令息に転生したビッチは戦場の天使と呼ばれています。

赤牙

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番外編:忘却の病③

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 それから、俺は先王の介護をしながら従者や衛兵たちに先王との接し方や対応について指導していく。
 先王に急に声をかけない、行動や発言を否定しないなど教えていくと、俺がいなくても先王は穏やかな表情を見せることが多くなる。
 だが、一つ困ったことが起きる。
 それは、先王が時折、俺を前王妃のオリビア様と呼ぶことがあるのだ。
 背格好も顔も似ていないのに……と、困惑しているとジェス王子は「雰囲気がお祖母様によく似ているからな」と、納得した様子だった。
 そして、王都に来て一週間ほど経ち、状態も落ち着いてきたためジェス王子に前線へ戻ると伝えると、王子は笑顔のまま首を横にふる。

「やはりアンジェロ殿にはお祖父様直属の治癒士になっていただきたい」

 断ることなど許さないと言いたげな笑顔だが、王宮に残るなんてごめんだ。

「王子の申し出はとてもありがたいのですが、従者や衛兵の方々には、私が持つ全てをお伝えしました。もう私ができることは何もありません」

 ニッコリ笑顔で「早く帰らせろ」を丁寧に伝えるが、ジェス王子はそれでも首を縦にはふらない。
 真剣な顔で懇願してくる。

「お祖父様の世話をするだけならば王宮の者たちでとうにかなるだろう。だが、心まで癒すことができるのはアンジェロ殿だけだ」
「そう言われましても……私は前線の治癒士です。前線の仲間を守り、そしてこの国を守るためにも私はここにとどまることはできません」

 その言葉にジェス王子は捨てられた子犬(大型犬)のようなしょげた顔を見せる。
 
「そう、だな。アンジェロ殿は前線にとって必要不可欠な存在だ。それは分かっている。だが、お祖父様にとって心から安心できる存在はアンジェロ殿なのだ、身内である私ではなくな……。アンジェロ殿にはお祖父様の心のよりどころになっていただきたいんだ。少しの時間でもいい」
「ジェス王子……」

 先王はジェス王子のことを自分の孫だということを忘れている。そんな状態でも、ジェス王子は嫌な顔一つもせずに先王の世話をしている。
 それがどれだけ辛いことかは、よく分かる。だが、このままここに残ることはやはり出来ない。

「……王子、また先王に会いにまいります。そんなに頻回には来れませんが、それでよろしければ」
「ありがとうアンジェロ殿。私の我儘を聞いてくれ感謝する」

 満面の笑みを浮かべるジェス王子。
 最後は俺が折れる形でようやく解放される。
 ジェス王子が用意してくれた馬車に乗り込むとドッと疲れが押し寄せてくる。
 隣に座るノルンの方に頭を寄せて大きくため息を吐くと、頭を優しく撫でてくれなぐさめてくれる。

「アンジェロ様、お疲れ様でした」
「いえ、ノルンさんこそ大変でしたよね。慣れもしない人のお世話をして……しかも、それが先王だなんて、お疲れマックスですよねぇ」
「お疲れ……マックス? か、どうかは分かりませんが以前の先王を知っている側からすると混乱と不安が大きかったですね。ですが、ジェス王子は想像よりも策士な方ですね」
「へ? 策士、ですか?」
「はい。上手くアンジェロ様との約束を結んだなと思いました。前線を離れる際に、先王の治療をするのは『一度だけ』だと言っていたではないですか」
「……あ」

 そういえば、前線を出る前は『一度だけだから!』と何度も念押しして出てきたのを思い出す。
 今思えば、上手いこと約束を塗り替えられた気がする。断られるであろう大きな要求をして、本命の要求を通したんだ。
 大胆でまっすぐな性格だと思っていたが、こんな小技も使えるなんて、あのクソ第一王子なんかよりもよっぽど頭がいいと言うべきか……
 ジェス王子にしてやられたと少々怒りも感じたが、先王とのことを考えるとその怒りはおさまっていく。
 大切な家族のことを忘れた先王と、そんな先王のことを支え続けるジェス王子。
 二人がこれから進んでいく先のことを考えると不安なことばかりが浮かんでいった。


 それから数ヶ月に一度、王都へ戻っては先王の世話をして過ごす日々が始まる。
 王宮に行けば様々な視線が向けられて嫌な感じもあったが、そんな気持ちを癒してくれる先王の笑顔。
 楽しそうに昔話をする先王は、こんなことら言ったら怒られるけれど本当に可愛いおじいちゃんだ。
 話の内容は主に前王妃オリビア様の惚気話がメインで時折、息子の現国王や現王妃にういても話をしてくれる。
 だが、孫の話はいっさい出てこない。
 ジェス王子のことは相変わらず衛兵の一人だと思っているため、会話をすることもほとんどない。
 寂しそうな表情を浮かべることもあるが、先王の笑顔を見るとジェス王子も共に微笑んだ。
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