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1章
君への想い
しおりを挟む久々のお風呂に私は肩までゆっくりと浸かる。
今までタオルをお湯で浸して使ったり、水に近い温いお湯に入るだけのお風呂だったけど、薪のおかげで温かいお風呂。
しかも、贈り物の荷物の中に石けんとハーブの入った麻布が入っていて、入浴剤らしくて、疲れ切った体にじわりと染み込んでいくようだ。
「ふわぁ~メチャ気持ちいい~」
ヤバい。このお風呂の温かさを知ってしまったら、元の水風呂生活に戻れなくなってしまうかもしれない。
明日は薪を作るべきかもしれない。
薪の束は三つで一束ニ十本になっていて、これだけでは明らかに冬を越すには少ない。
「そういえば、武器の部屋に斧があったなぁ……」
私の知ってる斧とは違って、刃が両側に付いているから、気を付けないと手を切りそうで怖いけど、斧なんてアレぐらいしか心当たりはない。
軍手とか欲しいけど、贅沢は言えない。
あと、薪を触って気付いたんだけど、薪が乾燥していた気がする。
それでテレビで前に、アイドルグループが薪づくりをしていた放送を思い出した。
確か、乾燥させないと火が付きにくいし燃えにくいとか、言っていた気がする。
もう夏も終わりに近づいているから、薪を乾かすなら今のうちにやるしかないだろう。
明日は薪作りをする。予定はこれ一択かな?
ああ、今日は疲れた……
お風呂から上がって備蓄庫に食料を入れ込むと、床にまだそのままの荷物は明日でいいか……と、寝室に入るとベッドの上に倒れ込むと、気付けば眠りに落ちていた。
**********
「リヤカーの壊された様子は……無いな。無事に彼女の手に渡ったか」
暗闇の森の中を銀色の狼がシルバーアメジストの目を細めて、そう言い微かに香る匂いに鼻をヒクつかせて、踵を返して森の中を走って行く。
自分には立ち入る事がまだ出来ない障壁に閉ざされた聖域。
暗闇の森の中心に白い光オーロラの様な物が、空から筒状に聖域を包み込んでいる。
中がどうなっているかはお伽話でしか語られていない。
緑の森に囲まれた場所で、世界に溢れる魔獣の力を抑え込める能力を持った賢者が、その昔住んでいた小屋があるのだという。
そこへ行く為には、資格が必要なのだという。
賢者に認められる力と、心を示さなければいけないらしい。
自分にはその力がまだ足りないらしく、障壁が邪魔して入る事は出来ない。
しかし、この聖域から自分の『番』の匂いがしている。
絶対に、資格を手に入れて彼女に逢う。
諦めるわけにはいかない。自分の半身とも言える番が居る場所が分かっていて、尻尾を巻いて逃げる等、有り得ない事だ。
それに、可愛らしい声を聞いたのだから、俄然やる気が出てきた。
『わおぉぉーん!!』と、元気のいい若い声に、自分の番はまだ少女なのかと驚きもあった。
「君が、大人になる前に、迎えにいくからな」
最後に聖域のある方へ顔を向け、朝日が昇り始めた森の中を抜けていく。
森を抜けると、広がる赤い錆鉄の荒野を走り、ようやく白いテントと青い旗が見え始める。
青い旗には盾と狼の顔が描かれている。
狼は物陰に隠れると、人の形をとる。
白いシャツに群青色のズボンを穿き、三角の銀色の耳と尻尾に銀髪を青いリボンで一つに縛り、シルバーアメジストの瞳を何度か瞬きして、何食わぬ顔でテントの中へ入る。
「イクシオン、お前また魔窟の森に行ったのか?」
「いや。ただの朝の訓練をしていただけだ」
小麦色の髪に金の眼をした獅子の獣人が、半目で目の前の堂々と嘯く男を見る。
涼しい顔で銀髪の狼獣人_イクシオンは機嫌良さそうに、目を伏せる。
「あんな魔獣だらけの危険な場所に、リヤカーに色々物を詰めて出て行って、よく言う。でもまぁ、その顔だと目的は果たせたのか?」
「なんの事やら?」
あくまでしらを切るイクシオンに獅子の獣人は、溜め息を吐く。
「お前がこの隊の隊長じゃなかったら、説教詰めにしてやるのに」
「ガリュウ、うるさいぞ。オレは朝の訓練をしていただけだと言っただろう?」
「まぁ、ちゃんと戻ってきたから、これ以上は言わないが、大型魔獣の討伐を春までに終わらせる長期遠征なんだからな? 勝手にヒョイヒョイ出掛けないでくれ」
「心配症は禿げるぞ?」
「お前が俺に余計な心配をさせるからだろうが!?」
ガリュウの声がテント内に響き渡り、イクシオンは口元に笑みを浮かべて無視する。
遠征でここからまた移動になる為に、当分は彼女の近くには寄る事は出来なくなるが、リヤカーの中身を喜んでくれたら、嬉しい。
オレの番はどんな少女なのか逢える日が楽しみだ。そう思い目を閉じる。
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