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1章
解体作業 ※グロ注意
しおりを挟む弓のハードルの高さに、もう一本の弓でも試したけど、結果は同じ。
弦がほとんど動いてくれない。何度か矢を持たずに引っ張ったんだけど、途中で指の皮がずる剥けた。
メッチャ痛い……でも、川の近くには薬草があるから、その場で石で叩いて指先に付けたんだけど、声にならない悲鳴が出たよ……染みる~っ。
よくデンちゃん「キャイン」のひと鳴きだけで我慢出来たなぁ……私は涙目だよ。
この世界に来てから、私の手は火傷したり針で刺したりと痛い目しか見てないかも?
ううっ、辛い。
まぁ、どちらも私がドジなだけなんだけどね。
人間、落ち着きを持って行動したいものだけど、私は落ち着きの無さには自信がある。
威張れることじゃないけどね。
「弓は追々頑張る事にしよう」
いきなり何でも出来る人なんて居ないのだから、練習しよう。
とりあえず、目標はお肉が無くなる前に形になれば良いかな? でも、早くしないとデンちゃんのご飯が無くなっちゃうから急がなきゃいけない。
「ファンタジー世界の王道と言えば、魔法! ゲッちゃん、デンちゃん、私の後ろに居るんだよ? 動いちゃ駄目だからね?」
私はリヤカーから杖を持って、川に向かって構える。
「ファイヤーボルトォ!!」
シーン……
あれー? 結構、気合入れて叫んだんだけど?
「ゲーキョ?」
「クゥー?」
「うぐっ、二人共、見ないで! 恥ずかしぃ~っ!!」
滅茶苦茶やる気満々で、ドヤ顔して杖を構えた数秒前の自分を殴りつけたい!
恥かしい~っ!! 誰も見てなくて良かった! もう、中二病な事は止めよう!!
私の黒歴史はここに置いて帰ろう!
「次は剣で頑張ってみよう!」
剣は私にも持てるサイズの物を持ってきた。
欲張って大きな剣を振り回しても、私の筋力では振り回せないからね。
形は少し蛇みたいな感じにうねってる剣で長さは持ち手も合わせて、五十センチくらい。
青い鉄の様な感じで、見た目が綺麗だったのと、軽かったからと言うのが理由。
あと、持ち手の柄の先が丸くて丸の中に魔法陣みたいな星が描いてあったから、魔法剣かな? って単純に思ったんだよね。
今回は叫んだりしないよ?
また恥ずかしい思いはしたくないからね。
剣を鞘から抜いて、この間の斧と同じ要領で少し力を入れて、縦に振ってみる。
シュンッと振った瞬間、青い光の三日月状の物が空を斬り、対面のジャングルでドサドサッと、なにかが落ちる音がした。
また、この間の斧と同じで木を切り倒したのかな?
鞘に剣をおさめて、対面側のジャングルに入ると、ちょっと思考回路が一時停止した。
首の無いニワトリサイズの鳥が数匹動き回り、頭は地面に転がっていた……
あと、お尻の切れたウサギと、頭と前足がスパンと切れたウサギも居た……
「ヒッ!」
歩き回る鳥の首から血がゆっくり流れているのを見て、呆けている場合じゃないと、急いで鳥を捕まえる。
温かいし動いてる。でも、解体は時間との勝負って本には書いてあったから、ビビってる場合じゃないし、首が無い分、鳥達も捕まえやすいから、一匹も逃がしちゃ駄目だ。
「ひぅ……気持ち悪い……ううっ」
手に伝わる温かさは命の温かさで、首が無いのに動いていて、気持ち悪さに自分の手は、力を入れているのか入れていないのかも解らない。
木にぶら下がっている蔦を鳥の両足に巻き付けて木にぶら下げ、また鳥を捕まえに走る。
何度か繰り返し、木が鳥の吊り下げ場と化した。
周りの木から枝を集めて、川の周りの石で丸く囲みカンテラのネジを捻ってロウソクを付けて火を点ける。お鍋に川の水を入れて、お湯が出来るまでにまだ回収出来ていないウサギを獲りに走る。
ウサギのさばき方は一応は目を通していたけど、あんまりやりたくなかった。
でも、ウサギは生きているうちじゃないといけない。
「ごめんなさい。ごめんなさい……っ」
お尻の切れているウサギを捕まえて、胸の方からお腹に掛けて両手で力を込めて押し出して、押し出して……
「キーッ」
ウサギの声に力を入れていた手が緩むと、ウサギが暴れ出して、手が動かなくなる。
こんな事したくない。でも、もうこのウサギは私が傷つけてしまったから生きられない。やらないと駄目、早くしないと鳥の解体もある。
「やらないと、私が、やらないと……」
本に書いてあったように、ちゃんとやらないといけない。でも、手が動かなくて、涙が溢れてウサギはお尻から血を流しながら、ドサッと地面に倒れて手足をバタつかせている。
「出来ないよ……私には、無理だよ……ううっ、ぐすっ」
「アンッ! アンッ!」
デンちゃんの声が聞こえて、私の中で、デンちゃんの生きる道も私が生きる道も、このウサギをお肉にして生き延びる方へ行くしかない。選ぶのは、デンちゃんと私の命。
もう一度、ウサギを手に取る。
躊躇ったら、余計にウサギが痛いだけ、もたついたら駄目だ。
ウサギの胸からお腹へ力を入れて上から下へ押し込む、切れたお尻の肉あたりから内臓が一気にぼたぼたと落ちた。
「うぇ……っ、うぐぅ……おぇっ」
嘔吐きながら、もう一羽のウサギも手に掛ける。
こっちは頭と前足が切れていたから、ナイフでお腹を刺して上から圧迫しながら内臓を出した。
川でウサギを洗って、蔦で二羽をくくり付けて川にある岩の上に置き、次は鳥の作業だった。
ぐつぐつ煮える鍋に鳥を入れて、三分ぐらいで引き上げて羽をむしり取る。
不思議なことに、羽をむしったら……あっ、美味しそうな鶏肉丸ごとだ……と、思えてしまうから見た目が変わるって不思議な感じ。
ピンク色のクリスマスに良くスーパーで見る丸ごとチキンの生肉としか思えない。
あとはひたすら無心で繰り返した。
鳥はお腹にナイフを入れて、内臓を取り出して、内臓はそこに捨てて、川でお肉を丸洗いして、リヤカーの上に置いていく。
「デンちゃん、食べちゃ駄目だからね?」
「アンッアンッ!」
犬に鳥の骨は刺さると危ないので取り除いてからあげなきゃいけないから、まだデンちゃんにはお預け状態だ。
最後は、ウサギの皮を剥いだ……もふもふ好きなのに、私は残酷な事をしてしまっている。
自分にこんな事が出来る神経があるのが、怖い。
鳥はまだ大丈夫だったけど、ウサギは肉色も赤みが生々しくて、精神がゴリゴリ削られている感じがした。
ようやく解体し終わった。
成果はウサギが二羽に、鳥が五羽。
火の後始末をして、鍋を回収してリヤカーを引きながら小屋に戻ったら、小屋の裏に仕掛けておいたワインパンに鳥が酔っぱらっているのか、ジグザグに歩き回って、地面でバタバタ羽を動かしていた。
「マジかー……」
嬉しい事なんだけど、素直に喜べない感じで、私は鳥を捕まえる為に再び走り回ることになったのだった。
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