やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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1章 

魔法の武器

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 精神がすり減った解体作業も、ようやく終わりが見えてきた。
小屋でお肉から骨を取って、ガラス瓶に入れていく作業を繰り返し、気付いた時には、もうとっぷり日は暮れて夜になっていた。
朝早くに出掛けたのに、解体作業で丸一日って……お肉屋さんって大変そう。

「デンちゃん、ご飯だよー」
「アンッ!」

 デンちゃんのお肉も、生は少し怖かったから、茹でたウサギのお肉を冷ました物にした。
私の方も茹でたウサギ肉にビルズ芋の茹でた物を添えたんだけど……
久々のお肉だー! と、喜びたかったけど、ウサギ肉……何だか血生臭い感じで少し無理。
デンちゃんは喜んで食べているから、デンちゃんのご飯にしよう。
あんなに神経をすり減らして解体したのに、味が私には合わなかったのは残念。

 ビルズ芋が美味しいから、まぁ今日は我慢しよう。
お風呂に入ると、頭から指の先まで全身洗いまくった。もう血生臭い様な気がしてどうしようもなかったから。
石けんはいつも、勿体ないと思いながら使ってるけど、今日は遠慮しない。

「ハァー……生きるって大変……」

 多分これ、中学生の台詞じゃない気がする。
でも、お肉がいっぱい手に入ったのは良かった……まぁ、もう少し狩らないと冬用のデンちゃんと私の食糧難は解消しないだろうけど。
ワインパンでも狩りは出来る事が分かったから、もう危険な剣とか使うのは止めよう。

「でも、杖が一番魔法っぽかったのに使えないって、詐欺だよ……」

 おかげで要らない恥をかいてしまった。
誰も見てないから良かったけど、見られてたら軽く死ねる。
斧を持って行ったのは、いざという時は斧で鳥を狩ってしまおうかと思っていたからなんだけど、剣で充分ヤバいと判ったので、ああいった物に頼っちゃいけない。
でも、黒い大地の森にはああいう武器は必要そう。

「いざとなったら、紳士さんに武器をあげよう」

 リヤカーと荷物を盗んだお詫びになるかはわからないけど、面白い武器ではあるだろうから、売ったら、それなりになるんじゃないかな?
でも、魔法のガラス瓶とかがあるぐらいだし、魔法の武器も実はありふれてるのかもしれない。

 ここ以外の場所を知らないから、何とも言えないけど……
と、言うよりもだ。
ここを私は自分の家の様に扱っているけど、持ち主はどうしているんだろう? って、事が気になるよね。

 あっ、もしかして……『まだ見ぬ君』さんの小屋がこことか?
何か理由があって、ここを出て行って……その後に私がここに来て、紳士さんはそのことを知らないんじゃないかな?

「教えてあげたいな……」

 春になったら紳士さんがまた訪ねてくるのだし、その時に教えてあげられるようにしよう。
お尋ねの人は夏頃に私とすれ違いで、ここを出て行きましたよって、早く逢えると良いですねって言えたら良いなぁ。

 お風呂から上がって、ベッドの上で鶏肉をどう料理するか、長期保存をガラス瓶を使わずに出来る料理は無いかなー? と、料理の本をもってゴロゴロしていると、デンちゃんがベッドに潜り込んできた。
 ぐるぐると私の足の間を回って丸まると、直ぐに眠りに入ってしまう。
子犬の寝落ちの速さに脱帽である。

「ふぁ~っ、私も眠いし、寝よ……おやすみ。デンちゃん」

 料理の本をベッドサイドに置いて、今日は精神的に疲れたなぁと思っているうちに眠りに落ちて行った。



**********


 夜空の下で岩ばかりの斜面を登り、銀色の狼イクシオンはシルバーアメジストの目を光らせる。
この付近一帯で一番高い山の頂から、彼は東の方を見る。
東のはるか遠い場所で、夜空に伸びるように白いオーロラの筋が小さく見える。
ほとんど針穴に通す糸の様な細さにしか見えない。
それでも彼は目を凝らして、ただその糸の様なオーロラを愛おしそうに見つめて目を細める。

「もう眠ってしまっただろうか? おやすみ。オレの番」

 ただ、彼女の居る場所が見えるそれだけで、心の中が優しく満たされていく。
まだ会えないもどかしさもあるが、それでもこの世界の中心に自分の番が存在しているという事だけで、嬉しくて彼の尻尾は自然と左右に揺れてしまう。

「イクシオン! お前、本当にいい加減にしろよ!?」
「なんだ、付いてきたのか? お前はオレの保護者か何かか?」
「補佐官だよ! ったく、お前に何かあったら国王に何言われるか、考えただけで頭が痛い!」
「兄上か……まぁ、面倒くさいよな」

 イクシオンは肩をすくませて、小さく息を吐くと山を下り始める。
ガリュウはそんなイクシオンの後を追いながら下りていく。

 ヴインダム王国の王弟、それがイクシオンであり、ガリュウが補佐している相手でもある。
獣人族の多くは魔獣を討伐し、他の国々から報奨金を貰うことを生業としている。
大型魔獣の討伐などは国益になる為に、王弟であり、公爵の爵位を持つイクシオンに拒否権は無い。
 王に子供が生まれ王位争いを避ける為、城を出て王子の地位を捨て爵位を貰ったことで、王位争いから抜け出したはずが、王はイクシオンが牙を剥いて王位を簒奪しに来るのではないかと、要らぬ心配をし、討伐中にイクシオンが抜け出さないようにガリュウをお目付け役に付けたのだ。

「お前も難儀な奴だよな」
「そう思うなら、少しは勝手にフラフラ何処かに行くのを止めてくれ」

 ガリュウが頭を掻きながら溜め息を吐くが、イクシオンとしては溜め息をつきたいのはこちらの方だとも思ってる。
折角、ヴァンハロー領でのんびりと暮らしていたのに、兄にこき使われ、討伐で死を望まれているのだから堪ったものではない。

 今までは別にいつ殺されようが、何処で死のうが好きにしろと思っていた。
だが、今は自分の番の存在を感じ取ってしまった以上、番に逢うまでは死ねないし、殺されてもやれない。

「そういえば、王が今回の討伐の褒章に魔法の掛かった武器を授けてくれるそうだぞ」
「ほう。兄上にしては気前が良いな」
「それだけ、今回の大型魔獣はヤバいやつらしいぞ」
「まぁ、いつも通り倒すだけだ。魔法の武器なんて、お伽話とぎばなし代物しろものに興味はないな」

 魔法の掛かった物は数多くあれど、武器に関してはほぼ眉唾物だ。
あるかどうかも疑わしい物ばかり、武器と魔法は相性が悪く形を成さないと言われている。
現存している魔法の武器は、各国が一本所持していればいい方だ。

「オレは、そんな物より、兄上に干渉されない平和な暮らしが欲しい」
「それと、番との生活、だろ?」
「ああ。番が居れば、それだけで、充分かもな」

 伝説ような武器より、番がいい。
まぁ、伝説の土地に番が居る時点で、かなり厳しい現状ではある。
イクシオンが願うのは、平和で穏やかな番との日々、それだけだ。
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