やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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1章 

怒り

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 今日はイクシオンが食材調達を一緒に行くと言っていたのに、私はお腹を抱えてテーブルに突っ伏していた。
生理痛が、重かった……

「リト、大丈夫か?」
「うーん……平気、心配ない……すぐ治る……」
「顔が青白い。キツいなら今日は寝て、体を休めておけ」

 ううっ、男の人に知られるのは嫌だけど、狼に変身出来るような人だし、匂いとかで分かってそう。
イクシオンに抱き上げられて、イクシオンは武器の部屋を開ける。
何しているんだろう? 顔を上げると、イクシオンはハッとしたような顔をする。

「リト、もしかして、この小屋の寝室は一つだけなのか!?」
「え、うん。そうだよ? それが、どうかした?」

 コツンとおでこにおでこを軽くぶつけられて「まったく」とイクシオンが眉を下げる。

「今まで、リトは何処で寝ていたんだ?」
「デンちゃんと暖炉の前だよ?」

 デンちゃんをベッド代わりに、お腹に顔を埋めて寝ていましたともさ。
それはパラダイスなモフモフ布団でしたよ。

「今日からオレがこっちで寝る。寝室はリトが使え」
「いえいえ、怪我人からベッドを奪うなんて、滅相も無い」
「駄目だ。女の子が床で寝る物じゃない」
「デンちゃんのお腹のフサフサだから、大丈夫だよ?」
「とにかく、駄目だ」

 いつもは微笑んで、幸せそうに笑っているのに何故ここでそんな真剣な顔で怒るのか!?
確かに、ベッドを占領して悪いと思っているのだろうけど、私も客人からベッドを奪うのは嫌だよ?

「私は、デンちゃんのモフモフな毛並みが気に入ってるから、良いの!」

 キィ―ッと私がジタバタすると、寝室のドアを開けてイクシオンにベッドに下ろされた。
真剣な目でめ付ける様に見つめられて、大人しくすると頭を撫でられた。
手が意外と大きい……。

「熱さましの薬はまだあるのか?」
「備蓄庫に……」
「取って来る」

 まぁ、腰がズキズキ痛いしお腹も痛いし、今日は無理かなー? とは自分でも思ったけど……
ゼキキノコの薬は苦いから好きじゃないんだよね。あれはもう本当にどうしようもない風邪の時に飲むぐらいで丁度いい。
 そういえば、備蓄庫あとどのくらい物があったかな……紳士さんに貰った物も少しに……って!?
ヤバい! 紳士さんに貰った物を盗んでたのバレちゃうッ!?
ガバッと起きると、丁度戻ってきたイクシオンに眉間にしわを寄せられて、私は再びベッドの上に寝かされた。

 ああ、この顔は怒ってる……
こんな事なら最初に謝っておけばよかった。
仲良くなってから、嫌われてサヨナラなんて、嫌だよ……
良心の呵責からなのか、胸はズキズキ痛いし、もうイクシオンは一緒に居てくれなくなるかもと思うと、気が付けば、涙はポロポロ溢れていて、でも私に泣く資格も無いから声を押し殺すと、イクシオンが小さく溜め息を吐く。

「いきなり立ち上がるからだぞ? 良くなるまでは大人しくしておけ。薬は飲めるか?」

 優しい声に顔を上げれば、私がいつも使っているコップを差し出される。
受け取って飲んでみれば、ゼキキノコの苦い味に「ゲフッ」とむせ返ると、大きくて温かい手が背中をさする。
怒ってたんじゃないのかな? それとも今更隠したところで気付かれてた?

「イク、シオン……ひっく、ごめんね? ひっく」
「謝ることはない。体調の悪い時は誰にでもある。無理はしないことだ」
「そうじゃなくて、リヤカーの、荷物……」
「あれは、もう少し考えるべきだったな」

 そうだよね……人に盗られてしまうし、熊にも壊されてたかもだしね……
チビチビとゼキキノコの熱冷まし兼腹痛止めを飲みながら、しゅんと項垂れているとイクシオンが、イチゴのキャンディー缶を差し出してくる。

「イチゴは嫌いだったか?」

 首を横に振ると、缶を開けてイクシオンが一粒口に入れてくれた。
甘くてイチゴの風味が口に広がる……『まだ見ぬ君』さんに、残しておいたんだけどなぁ。
でも、美味しい。

「流石にワインばかりでは、役には立たなかったな。寒いと酒で体を温める方にばかり頭がいっていた」

 眉を下げて笑うイクシオンに、怒ってないんだ……と、ホッとした。

「ワインで鳥を酔わせて、狩りが出来たから、助かったよ?」
「古典的な狩猟の仕方をしていたんだな……でも、リトの役に立ったのなら良かった」
「無断で、持って行っちゃって、ごめんなさい……」
「いいや、リトの為に初めから用意していた物だから、リトの物だ」
「うん?」
「ん?」

 私が首を傾げると、真似る様にイクシオンも「どうした?」という様に小さく首を傾げる。

「えと、イクシオンは『まだ見ぬ君』さんへ、贈り物したんだよね?」
「ああ、だから、リトに用意したんだ。手紙は読んだんだろう? 手紙束も開いてあったし」

 うぐっ、手紙読んだのもバレてる! いや、まぁ……封蝋って開けると砕けちゃうから戻しようもなかったんだけどね……
でも私の為に用意したとは、どういう事だろう?  
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