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1章 

冬の決戦

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 ビュオオーっと、雪と風が吹きすさみ、外に出るのは難しそうな天気。
それなのに、外に出なきゃいけないっぽくて……私は非常に眠いッ! 寒いッ! 出来る事なら、小屋の中でぬくぬくしていたい!

 ……が、イクシオンが大型魔獣を討伐している最中に、寝ているわけにもいかないし、気になる事もあったんだよね。
 なので、実験の為に起きているんだけど、時計が無いから、いつが年の終わりなのか分らない。

「眠い~……魔獣まだなのー?」

 私は思いっきり着込んで腰には包丁ホルダー、足にはナイフをベルトに付けて、肩には矢弓と背中には矢筒、そして両手に斧。
イクシオンのくれた去年のファー付きケープを羽織り、戦闘準備万端だったりする。

「まだ、地図には表示されてないから、まだ、今年かぁ~……」

 リビングのテーブルに部屋から持ってきた地図を見ながら、考えていたんだよね。
 一体、倒せば消える大型魔獣……もしかして、賢者の武器って、ここに大型魔獣が現れる度に増えていったのかも? って……
 もちろん、ただの予想なんだけど、他の国に魔法の武器は一つぐらいしか無いなら、賢者がここで倒していたんじゃないかな? と、思ってしまったのだ。
でなきゃ、もっと他の国にも魔法の武器があるはずだしね。

 私が去年倒した氷の熊から、魔法の包丁が出た様に……

 イクシオンの元へ鞘が出た理由は分からないけど、今年も対決してみて、もし同じ現象が起きたら、大型魔獣の討伐は、この森でするのが一番なんじゃないかな? って、思ったわけですよ。

「大丈夫、大丈夫。魔法の武器もあるし、いざとなれば、逃げるのみ」

 私が倒さなくても、他の討伐隊のイクシオン達や他の国が倒してしまえば消滅するのだし、その間は逃げ回れば良い。

「ワフッ!」
「よしよし、デンちゃん。良い子だよ~」

 デンちゃんの背中にも乗り紐を付けて、魔法の杖も予備に差している。
何かあった時は、デンちゃんと共に逃げ回る予定。
逃げるが勝ちという言葉があるからね。先人の教えは守らねば……守って良いのかな? 多分、大丈夫かな?

 地図に一斉に魔獣のマークが出て、イクシオンの所にも出た。

「ゲキョー!」
「よし! 行くよ! ゲッちゃんは危ないから近付きすぎないでね!」
「ゲキョ!」

 ゲッちゃんが肩に乗り、玄関を開けてから、デンちゃんに乗って外に飛び出す。
視界は殆どゼロ状態。でも、ズシンと地面が大きく揺れた事から、大型魔獣はここに現れている。
屋根からドサドサと雪が落ち、デンちゃんが体を震わせる。

「氷柱は昼間のうちに処分したから、去年の様にはいかないぞー!!」

 去年は氷柱の落ちる音にビビらされたからね。
対策はちゃんとしてあるのだよ。玄関先のスロープと地面の板も去年失敗したのをリニューアルしたから、倒して春が来たら泥だらけにならずに済む。デンちゃんのお散歩通路だからね。

「うーっ! 寒いッ! デンちゃん行くよー!」
「ワオォーン!」

 雪は私の胸辺りまで降り積もっているけど、デンちゃんは雪の上を軽々と駆ける。
これは、デンちゃんの不思議なところでもあるけど、助かっているので気にせずに走ってもらう。
せめて大型魔獣の姿を遠目でも確認出来たら良いんだけど、視界が凄く悪いのは非常に厳しい。

 ズシンッ、ズッシン……
地面が大きく揺れ、魔獣が近くに居る事を教えてくれている。

「そうだ!」

 デンちゃんに備え付けていた予備のつもりの魔法の杖を引き抜いて、空に目掛けて魔法を放つ。

 「リ・オム!」

 空にまるで太陽が一つ出来た様な火の玉が上がり、辺りが明るくなると、大型魔獣の姿が見えた。
氷の色をした大きなツルンとしたトカゲ。

 弓を肩から下ろして手に持ち、矢筒から矢を取り出して、私の弓の努力を見よ! と、ばかりに矢を放つ。
ビュオオーと、雪と風で矢が雪の上に落ちる。

「あー……これ、魔法の弓なのに、シビア過ぎじゃない? やっぱりこの世界は私に優しくなーい!」

 魔法の弓矢だったから、練習して森を吹き飛ばしちゃいけないと、思っていたのに……これなら、練習しておけばよかったぁぁぁ!!!
作戦変更するしかない。弓は駄目だ! 接近あるのみ!

「デンちゃん、近付くよ! ゲッちゃん、デンちゃんの耳に当たらない様に、サポートお願いね!」
「ワオン!」
「ゲキョ!」

 やはり、斧でいくのが一番かな? オーソドックスなのが一番!
ゲッちゃんにデンちゃんの頭に乗ってもらって、羽で耳を押さえて貰う。これで斧を振ってもデンちゃんの可愛い三角耳が切れることは無い。

 丸い頭をスパッと切ってしまおう! そう思って丸い頭を目掛けて斧を横に振り、三日月型の魔法が放たれる。
ドコッと音がして、ツルンとした頭が綺麗に切り落とされた。
うんうん。やっぱり、オーソドックスな馴染んだ武器が一番だ。
頭を切り落としたから大丈夫だ_____そう私はこの時思っていて、自分が切り落としたのは、頭、そう思い込んでいた。

「ゲキョー!! ゲキョキョ!!」  

 ゲッちゃんの慌てる様な声に反応が遅れ、魔獣が一回転して方向を変えると、三角の棘が突き出ているトカゲの様な顔をした魔獣が、私達に向かって突進してきたのだった。
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