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2章

蒸籠

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 じっとしている事が昔から苦手だった気がする。
イクシオンが森の小屋に帰ってくるまでは大人しく過ごしていようと、思っていたんだけど……
道具の手入れを始めて、研ぎ石でシャリシャリいわせては、他の武器なんかも手入れをしていって、気付けば足元のデンちゃんとボン助は遊び疲れて寝てるし、ゲッちゃんも籠編みの中で寝ていた。

「ハッ! 今何時!?」

 自分の腕時計を見て十三時を過ぎた頃だと知る。
完全にお昼ご飯を抜かしている。慌てて武器を倉庫に戻して、備蓄庫で大量に余っている私の冬越えの食料がギッシリと詰まっている。

「んーっ、折角だし、デンちゃんが大きくなってもいっぱい食べれるぐらい鳥を茹でちゃおうか」

 ガラス瓶に入っている物は腐ることは無いというけど、少し心配だし、干物に関しても三ヶ月以上経っているから、尻尾の先にカビが生えているのもあるから、これは勿体ないけど魔獣に投げつけよう。
ジャーキーは少しカラカラだけど、ジャーキーはこうなっても、歯が丈夫な子になるだけだし、大丈夫だろう。

「小麦粉があるから、小籠包しょうろんぽうでもやっちゃおうかな……あっ、蒸籠せいろ欲しいよねー……作っちゃおうかな? 美味しい物を食べるには努力と時間も必要だね」

 ぐぅ―……お腹の音が切なく鳴ってるけど、私は小籠包が食べたいっ!
自分の部屋に戻って缶に入ったキャンディーを取り出すと、少しべたついていた。
流石に三ヶ月以上放置していたから、溶けてくっついてしまったみたいだ。口に放り込んで、倉庫から、ノコギリとカナヅチと釘を持って、斧を片手に森に走る。
適当な木を切り倒し、この三年でつちかった大工仕事の腕前を見せる時である。

 蒸籠を作るには竹と木どちらで作るかだけど、竹は無いから木の蒸籠を作る。
竹ならば、円状に作るけど、木で作るのは四角い物でいい。
四角い箱枠を二つ作って、一つは『身』という物。
二本の板を打ち付けて、上にスノコを乗せ、その上にお饅頭とか小籠包を置く大事なところ。
もう一つの四角い枠組みには、蒸気穴が出る丸い穴を開けた板を打ち付ける。
蒸気穴は普通は鉄の物を付けるけど、そんな物は作れないから、穴の周りに穴を開けて、そこへ針金で網目を作るように交互に重ねていく。

 あと大事なのは蒸籠の蓋! 蓋は取っ手付きの物を簡単に作ればオッケー。

 ぐううぅぅ~……うん。お腹も鳴いているけど、ここは我慢の子。

「よし、終わり! あとは小籠包を作るぞー!」

 私が両手を広げて伸びをすると、夕焼けで空は染まっていた。
熱中しすぎて腕時計を見れば、十七時になっていた。お腹が大合唱する訳だ。
作った蒸籠の上に道具をのせて小屋に帰り、お腹を空かせたボン助たちに先にジャーキーをあげて、その間に鳥を大量に茹であげていく。

「鳥のゼラチンが欲しいのよ~フンフンフーン」

 鼻歌交じりに歌って、蒸しあげた鶏肉を鍋から出し、鍋の煮汁にブイヨンを入れて、そのまま放置、今のうちに鶏肉を叩いてミンチにしてしまう。
鶏肉ミンチは本当は包丁二本でダンダンと叩きたいけど、包丁は一本なので一本でダンダンと叩くように切っていくしかない。

 ミンチ肉にしたら塩コショウとオリーブオイルでコネコネとこね回し、次は皮を作る。
皮は本当は強力粉と薄力粉の二つでやりたいけど、無いので、仕方がない。
小麦粉に少しお砂糖を入れてお塩も少し、水を加えてこねて丸めて麺棒で伸ばして手の平より小さめに作って皮をジャンジャン作っていく。

 皮の中に、ゼラチン状になった鳥の煮汁とミンチ肉を入れて、包んでしまえばオッケー。
出来上がった物を、水を入れたお鍋の上に蒸籠を置いて、蒸籠に小籠包を入れて、蓋をして、後はかまどに火を入れれば、完成。

「醤油があればもっと美味しいんだけどなー……大豆ってこの世界にあるようなら、作っても良いんだよねー。味噌もねー。ウィリアムさんに今度聞いてみよっ」

 ガッタンと音がして、寝室の方を覗けばイクシオンが黄金の本を片手に持って姿を現した。

「お帰りなさい! 少し、夕飯が手間取ってて、まだ時間が掛かるから、待ってねー」
「ただいま。リトに土産がある」
「そうなの? なにかな?」

 イクシオンの所に行くと、茶色い紙袋を渡されて、中身を見れば薄いパン生地に野菜とお肉が詰まったブリトのような物が入っていた。

「美味しそうだね。ありがとう。夕飯にこれも食べちゃおうか」
「王都でこういう物が流行っているらしくてな。買ってみたんだ」
「なら、海外から伝わった物かもね。王都は港も近いんでしょ?」
「ああ。おそらく南部の国からの物だと思う」
「王宮はどうだった?」
「リトに会いたいばかりだった」
「なにそれ? ……んっ」

 イクシオンを見上げていたら、キスをされて唇を塞がれていた。
続きは帰ってからとか言ってたけど、どうしよう……外で蒸籠づくりに夢中になってて、お風呂入る暇無かった。
いやいや、別にそういう事かはわかんないし、でも、出来れば化粧直しもしてからの方が良かった。
絶対、外の陽気は良かったから汗とかかいてるだろうし、ファンデーション落ちてるかもしれない。
あわあわと、色々考えがぐるぐる回っていると、唇が離れて、イクシオンが「夕飯まで風呂に入ってくる」と、寝室に入って着替えを用意するとお風呂に行ってしまった。
私もそれ先に言いたかったッ!
まぁ、小籠包が出来るまでは動けないんだけどね。
夕飯終わったら、私もお風呂絶対に入ろう……
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