やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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2章

鮭とリト

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 今年の秋はゼキキノコを干したままの状態で、各領地で保管してもらい、必要に応じて使う様にしてもらった。
お祖父ちゃんの『ハンショクキノコ』の繁殖のせいで、ゼキキノコは山ほどあったし、王様も『神子』探しに躍起やっきになってて、ゼキキノコを取り立てる使者も来なかったのもある。

 私はイクシオンが長期遠征に行ってしまったので、お屋敷で大人しくしているかというと……そうでもなく、本日はウィリアムさんとビブロースさんとメイミーさんとデンちゃんと一緒に、ヴァンハロー領のずーっと上、王都から三つ目のサイの獣人、カンファルさんが領主を務めているサクリス領へ来ていた。

「リト様、いらっしゃいませ」
「お久しぶりです。カンファルさん。お招きありがとうございます!」
「いらっしゃいませ。昨年は大変お世話になりました。カンファルの妻のリプルスです」

 カンファルさんもどっしりと大きいけど、奥さんのリプルスさんもどっしりした感じで小さくて可愛らしい耳がみえる。耳の皮膚感からしてサイに近いカバ辺りだろうか? ただ、少し体が小さいからコビトカバとかかもしれない。

「リプルスさん、ヴァンハロー領のイクシオン公爵家のリトです。よろしくお願いいたします」

 私達は一通り挨拶をしたところで、カンファルさん達の案内で、川に向かっている。
なぜ川なのか? それは、そこに鮭が帰ってきているからです!!
そう『鮭の遡上』だね!
海から戻って川で産卵して一生を終える為の旅の事だよ。
王都の海からサクリス領より奥に産卵の為に戻っている鮭達は、丁度、サクリス領の手前で卵をお腹に作って、サクリス領より下の領で産卵する。
卵を持っている状態の鮭を狙うのが、私達……と、いうわけです!

 美味しい鮭のスモークを作りたい! 鮭をそのまま塩焼きにするのもいい! イクラのプチプチも堪らない!
実は、大豆で醤油を作ろうと思ってたんだけど、まだ作れていなくて……迷っていたら、お母さんが醤油は持ってきていたので、もう、絶対イクラ丼がしたい!
 そんな時に、カンファルさんの領地が丁度、その時期に当たる為に、ご招待されたので遠慮せずに来てみた。

 川は結構急な流れで、鮭が卵を産み落とす前に狙わないと卵は獲れない。

「リト様、落ちないように気を付けてくださいね?」
「はぁーい。イクラ~鮭、鮭とば~ふんふふーん」

 網を張って鮭を捕獲する方法が一番簡単らしいけど、これ、鮭が暴れて卵をお腹から出しちゃう場合もあるから、一匹ずつタモ網っていう、丈夫で細かな編み目の魚獲り網を使うんだって。

 ちなみに、冬が深まると鮭が川で氷漬けになっているのを見て、ここら辺の人は「冬だなぁ」って感じるそうです。

 タモ網を構えて、「チェスト―!」と掛け声を上げて鮭の群れに飛び掛かると、重さにタモ網が持ちあがらずにヨロヨロして、ビブロースさんが後ろから手を貸してくれて楽々と持ち上げてくれた。
おぉ~っ、ビブロースさん凄い。

「ビブロースさん、ありがとうございます!」
「イクシオン殿下に、リト様の事を頼まれていますから」

 言葉だけだとそっけないけど、ビブロースさんはとても妹思いで、私も妹枠として可愛がってもらっている。
イクシオンも、ビブロースさんはとても信頼していて、私の事を長期遠征の前にくれぐれも頼んだと言って、出ていった。


 ◇◇◇◇◇


 __遡る事、二週間前。

 エルファーレン王太子が馬車で帰って行き、イクシオンは黄金の本『移転の書』と玉を持って出かけることに、玉はガリュウさんに持たせて、本はイクシオンがお屋敷に定期的に帰って来ることに使うことになった。
一先ず、ガリュウさん達を先に出発させて、イクシオンはヴァンハロー領に残って、信用の置ける人達へ書簡を作成する為に書斎でアンゾロさんと話し合いをしていた。

「王宮の騒動に関して、宰相と連絡が付きやすい様にしておいてくれ」
「では、アーデルカの娘と息子が王城に居ますので、王都に居るアーデルカに話を持ってこれるように指示を出しておきましょう」
「ああ、頼む。『聖鳥』と『神子』の捜索の情報を集めておくように」
「ええ、畏まりました」

 ゲッちゃんと私の事がどうも王様にバレたようで、王様は『神子』探しに必死なのだとか……
でも、私は『神子』と言われても、特に何か出来るわけじゃないから、 御伽噺おとぎばなしが伝説化されて尾ひれとかついてないかな? と、思うんだよね。
この世界の安寧なんて私は知らない。私には自分の生活の安寧だけで精一杯だ。

「リト、先程はあまり庇ってやれなくて、すまないな」
「ううん。流石にもう人妻な事はバラしてるし、王太子も無茶は言ってこないでしょ?」
「おそらくな……でも、安心は出来ない。リトの事を公表するには、まだリトを守れるだけの安全が確保できていないからな」
「別に公表はしなくて良いよ? 王様に命狙われたら怖いし。でも安全の確保って?」
「獅子族が軍部の中枢を握っているんだが、それを切り崩さなければ、昔の様に軍部が国民を重圧しかねない。その中枢を崩す作業を延々としていてな……不正の証拠も握っているが、国の裁判では王が出てくる。王こそが親族の獅子族を庇う厄介な立場だ。エルファーレンが王になればそれは無くなる。そこまで耐え忍ぶしかない」
「ふぅーん。あの王太子、そこまで凄いの?」

 私が見た限り、世間知らずの高慢ちきなお貴族様って感じなんだけどなぁ?
イクシオンは苦笑いして「初恋を前に感情がおかしな方向に行っているだけだろう」と、私の前髪を掻き分けて額にキスをする。

 うーん。あの王太子、私に惚れてしまったのか……
残念、私はイクシオンに惚れているから、応えはノーである。やはり、旦那様はこのモフモフしたサラッと綺麗な毛並みでなくてはいけない。
あの王太子も成長すれば たてがみもモッサリ生えそろうだろうけど、でも毛並みで言うなら、やっぱりイクシオンが一番~ッ!!

 スリスリとイクシオンに抱きついて頬ずりしていると、お屋敷の人達が書斎に呼ばれて、そこで私には護衛としてビブロースさんが常に就くことになり、女性しか入室出来ない様な場所はメイミーさんが専属メイドとして就くことになった。

 外出に関しては、この二人と一緒ならばオッケー。
ただし、行く先は事前にアンゾロさんが安全と確認した所だけである。

 イクシオンは、待機日数がある場所や、移動の無い時に黄金の本を使って帰って来ると言い残して、長期遠征に旅立った。本で一瞬で行ってしまったけど、無事に合流出来たようで、夜帰ってきて報告を受けた。
割りと夜は頻繁に帰って来るから、離れているという寂しさは今のところないかな?
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