悪役令嬢ポジションが俺で、回復魔法がキスな件!?

ろいず

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二章 学園生活

三兄弟

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「ミカ……ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい、イチヒロくん、ごめんなさい」
「え……イチヒロ、くん?」

 脅えて頭を抱えるように謝罪を繰り返す少女に、また懐かしい名前を聞いた。
 イチヒロとは、俺と二葉の兄。
 『一廣』の事では無いだろうか? なら、このフタバという少女は、姉の二葉ちゃんだったり?
 でも、一廣くんは二葉ちゃんと俺には、歳が離れていたせいか、兄弟喧嘩一つしたことはなかったはずで、謝るような事も無いと思う。

「二葉ちゃん……なの?」

 脅えた目が俺を見返し、小さく歯が鳴っていた。
 落ち着かせようと手を伸ばすと、俺より先にルカリオンが前に出て、少女に自分の上着を掛けた。
 
「大丈夫ですか? 怖がることはありませんよ。ミナさんはこう見えて、優しいですから」
「ルカリオン! 失礼なんだけど!?」

 酷い! 俺が怖がらせたみたいじゃないか。
 しかし、周りの小さな子供たちは笑い、少女に「フタバ、大丈夫だって」と声を掛けて落ち着かせてくれる。
 教会の責任者でもある神父に、少しだけ少女と話がしたいと言い、ルカリオンに子供たちを相手にしながら炊き出しの準備を始めておいてもらった。
 俺は少女と二人で、教会の礼拝堂で長椅子に並んで座る。
 
久世くぜ二葉、だよね?」

 少女はゆっくりと頷いた。
 やっぱり姉の二葉ちゃんで、やせ細った姿は痛ましいが、どこか自分の姉の面影もある気がする。

「俺、弟の三香みよしだよ」
「……ミカ」
「うん。二葉ちゃんは『妹が良かった』ってソレ譲らないよね」
「ミカ、ごめん、ごめんねミカ」

 大きな涙の粒が二葉ちゃんの目から溢れては流れ、俺は二葉ちゃんを抱きしめて「久しぶりだね。二葉ちゃん」と、十数年ぶりの再会の挨拶をした。
 すんっと鼻をすすり、二葉ちゃんが顔を上げる。
 目の下のくまに、カサカサの唇、服から覗く両腕は今にも折れてしまいそうな程細く頼りない。

「二葉ちゃん、いったい二葉ちゃんに何があったのさ?」

 二葉ちゃんの真っ白な髪を撫でると、二葉ちゃんは俯いて震えていた。
 俺の知っている二葉ちゃんは、勝ち気で暴君。こんな風に脅えるような女性ではない。

「……一廣くんに、殺された……」
「ハァ!? 一廣くんに!? なんで!」
「ミカが、死んだのは……私のせい、だから……」
「えー……、俺が死んだのは、よく覚えてないけど、事故じゃんか?」

 実のところ、俺は自分が何で死んだのか覚えてない。
 何か光が見えた気がしたから、車かオートバイに撥ねられたのかとは思っているけど。
 二葉ちゃんは少し顔を上げて、言いにくそうな顔つきで「ごめんね」とかすれた声を出す。

「もう終わった事だし、転生も楽しいし……まぁ、悪役令息はどうかなー? とは思うけどさ」
「え? ミカ、あんたヒロインじゃ……」
「いやいや、って、あっ、そっか」

 俺は桜色のカツラと目の色を変えているメガネを外した。
 ミナのままで接触したら、二葉ちゃんだって混乱するはずだよね。

「え……フェルミナ?」
「そっ。なんでか、男なんだけど、名前はそのままフェルミナ・ドロッセルだよ。ちなみに、俺、ヒロインは二葉ちゃんの方だと思っているんだけど。髪、どうしたのさ?」
「そっか……やっぱり私がヒロインなんだ……」

 深い溜め息を吐く二葉ちゃんに、転生前は『転生で乙女ゲーとか、萌えるし、絶対逆ハーエンド目指すし!』とか豪語していた気がする。逆ハーは、女の子ヒロイン一人に対し、ヒーローが全員好感度マックスというエンディングだ。
 俺は狙ってないけど、今のところ逆ハールートでルカリオンエンドかな? とか思っている。

「私がこの世界で転生者だって、気付いたのは2年前。ミカを殺して、一廣くんに殺された事を思い出したら、こんな風になっちゃった……仕方ないけど、ね」
「別に俺の事は気にしなくていいよ。転生後も悪役だけど、まぁ楽しくやっているしね。それよりも、どうして一廣くんが二葉ちゃんを殺すのさ? あんなに優しい一廣くんだよ?」

 そう、一廣くんはとても優しい兄なのだ。
 二葉ちゃんと俺の面倒をみたくなくて、忙しくしていたけれど、二葉ちゃんとお留守番を言いつけられていたのに、二葉ちゃんが勝手に友達と遊びに行ってしまった時は、自分の予定をキャンセルして俺と一緒に家で過ごしてくれたり、三人で一緒に映画や買い物に行ってくれたりと、思い出は優しい兄のままだ。
 
「ミカが死んだ後、一廣くんは『三香を返せ!』って、毎日言ってた。昔からミカはお人好しで、誰からも好かれていたから、一廣くんもミカの事、大好きだったんだよ。……私が悪いのは分かるけどね」
「うーん。でも、二葉ちゃんを殺すとか、ありえなくない? だって、一廣くんだよ?」
「ミカ。人は死んだら元に戻らないし、殺してしまったら、憎しみは計り知れないんだよ。私は、今もミカに罪悪感がある。許してもらえないの。お父さんにもお母さんにも、一廣くんにも」

 俺、事故……だったと思うんだけど、そこまで二葉ちゃんを家族が責めるだろうかと思う。
 自分自身の事ながら、本当に気にしていないんだけどな。

「あのさ、なんで事故で死んだ俺が、二葉ちゃんのせいになるの?」
「……本当に覚えてないの?」
「全然」

 二葉ちゃんは指を少し弄りながら、申し訳なさそうな顔で俺を見る。
 重い口を開いたのは、お昼の鐘が鳴った頃だった。
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