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繭の恋
乕松と佐平
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茶屋ではしんみりと茶を啜る乕松に対し、女性陣はやきもきしていた。
特に小梅と小松は、さっさと繭の所へ行けばいいのにと、蜂が飛び回るように乕松の周りを歩き回ってせわしない。
見かねて佐平が咳払いして注意を促すぐらいには、二人は物言いたげにしていた。
「小梅、小松ちゃん、【久世楼】に三色団子を持ってとくれ」
竹を薄く伸ばした巻紙に、土産用の三色団子を入れて風呂敷へ包み、佐平が二人に用事を言いつける。
いつもならば、『なんであたしが一緒に!』と騒ぐ二人だが、今日ばかりは繭の見合いが気になるのか、一もニもなく、風呂敷を手に掴むと店を出て行ってしまう。
「そのくらいなら、オレが持ち帰ったのに……」
乕松が力なくそう言い、佐平は肩をすくませた。
「乕松の若旦那。自分がどれだけ、今、情けねぇ面してるか分かってないですねぇ」
「俺はいつも通りよ」
「いいえ。しょげくり返して、折角のご面相も、土砂降りの中の幽霊みてぇですよ」
そりゃあ、どんな面なんだい? と、乕松は思うものの、気分的には幽霊の恨めしい気持ちのような感じだ。
たった一人の妹分が、見合いをして将来が決まるって時に、情けない……そう思って立ち上がる。
「乕松の若旦那。男は好いた女にゃ、なりふり構わずみっともねぇぐらいに、夫婦になろうって必死に言わなきゃ通じねぇ時があるんですよ。黙ってちゃあ、何も掴めませんよ」
「オレは、そういうんじゃねぇよ。妹分の幸せを見届けなきゃいけねぇ、そう思っただけだ」
佐平は莫迦だねぇと、乕松を見る。
「なら、おいらの経験から言わせてもらいますよ。『あの時こうすりゃ良かった』ってぇ、必ず思う時が来ます。きっと、乕松の若旦那の『あの時』は今ですよ。女一人幸せにする気概もない男にゃ、誰一人幸せには出来ませんぜ」
「だから、オレはそういうんじゃねぇよ」
「お繭は乕松の若旦那が迎えに行ってやらなきゃ、自分から恩のある女将さん達に見合いなんて断れやしねぇでしょうよ。そんぐらい、いつもの乕松の若旦那なら分かっているでしょうよ」
佐平の言葉に、ようやく乕松もそれはそうだと重い気分を引き上げる。
繭が幸せになるならと思っていたが、それは乕松の両親が良い事だと決めただけで、繭本人の口からは聞いていない。
そこへ行き当たった乕松は、ようやく走り出した。
「やれやれ。最近、うちのもそうだが、皆色恋に忙しいねぇ」
佐平だけが、そういうものには縁がないと、「若いねぇ」とぼやいて、店の客達に肩を叩かれる始末だ。
特に小梅と小松は、さっさと繭の所へ行けばいいのにと、蜂が飛び回るように乕松の周りを歩き回ってせわしない。
見かねて佐平が咳払いして注意を促すぐらいには、二人は物言いたげにしていた。
「小梅、小松ちゃん、【久世楼】に三色団子を持ってとくれ」
竹を薄く伸ばした巻紙に、土産用の三色団子を入れて風呂敷へ包み、佐平が二人に用事を言いつける。
いつもならば、『なんであたしが一緒に!』と騒ぐ二人だが、今日ばかりは繭の見合いが気になるのか、一もニもなく、風呂敷を手に掴むと店を出て行ってしまう。
「そのくらいなら、オレが持ち帰ったのに……」
乕松が力なくそう言い、佐平は肩をすくませた。
「乕松の若旦那。自分がどれだけ、今、情けねぇ面してるか分かってないですねぇ」
「俺はいつも通りよ」
「いいえ。しょげくり返して、折角のご面相も、土砂降りの中の幽霊みてぇですよ」
そりゃあ、どんな面なんだい? と、乕松は思うものの、気分的には幽霊の恨めしい気持ちのような感じだ。
たった一人の妹分が、見合いをして将来が決まるって時に、情けない……そう思って立ち上がる。
「乕松の若旦那。男は好いた女にゃ、なりふり構わずみっともねぇぐらいに、夫婦になろうって必死に言わなきゃ通じねぇ時があるんですよ。黙ってちゃあ、何も掴めませんよ」
「オレは、そういうんじゃねぇよ。妹分の幸せを見届けなきゃいけねぇ、そう思っただけだ」
佐平は莫迦だねぇと、乕松を見る。
「なら、おいらの経験から言わせてもらいますよ。『あの時こうすりゃ良かった』ってぇ、必ず思う時が来ます。きっと、乕松の若旦那の『あの時』は今ですよ。女一人幸せにする気概もない男にゃ、誰一人幸せには出来ませんぜ」
「だから、オレはそういうんじゃねぇよ」
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