黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

魔力水

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「製薬のマグノリアが無事にアシュレイから地図を受け取り、砂漠大陸ベルデラに着いたそうだ」

ルーファスが報告書を見ながら製薬の居残り組テッチとピルマーと朱里に告げる。

「良かったー。マグノリア室長、寄り道せずに行けてるんですね」
「砂漠大陸かー・・・あいつ等暑さにやられてないかな・・・」
「無事に着いて良かったね。二人共心配してたもんね」

3人がマグノリア達一行の動向に安堵しつつ、再びポーション瓶を手に製薬を始める。
朱里が魔力水を作り、薬草をピルマーが潰し、テッチが仕上げの魔法をかけるという流れ作業。

「アカリはポーション15本作ったら休むこと。いいな?」

ルーファスがテーブルに置いてある薬草茶を飲みながら朱里に言うと、朱里が少し目を逸らす。

「アカリ、2日前に20本作って魔力切れを起こしたばかりなのを忘れてるのか」
「ううっ・・・アルビーが居れば50本くらい軽いのに」
「アルビーは魔力調節を上手くコントロールしてくれるからな。アカリではまだ上手くできないのだから10本か多くて15本だ」
「アルビー早く引っ越し作業終わらないかな・・・」

アルビーに手を握ってもらい魔力量をコントロールしてもらえない為に魔法の扱いが上手くない朱里は魔力を勢いよく流しすぎて魔力切れをよく起こしている。
肝心のアルビーは引っ越し作業で【刻狼亭】に来てはいない。
というより、昔住んでいた物書きの残した書籍を読むのに夢中になっている為に引っ越し作業すら進んでいない。

「若女将、魔力切れ起こしても魔力ポーションあげますから大丈夫ですよ」
「そそ。味の保証は出来ないヤバいやつ」

テッチとピルマーがニッと笑うと朱里が眉間にしわを寄せる。

「味のヤバいのは嫌なので15本にします」

大きなポーション用のフラスコ瓶を水で満たしながら朱里は小さく溜め息を漏らす。

ルーファスとテッチが頷き、ピルマーは少し残念そうな顔をする。
ピルマーはマグノリアの次に効能1番、味は2番の製薬をする人だったりする。

ガラッと勢いよく製薬室の扉が引かれると銀色の髪に涼し気な目元をしたルーファスの叔父ギルが入ってくる。

「アカリ、今日は追い駆けるのと追い駆けられるのどっちがいいかな?」
「どっちも嫌です!ギルさんは苛めっ子か何かですか!来ないで!来ないで!」

朱里がルーファスの後ろにサッと隠れてギルに威嚇する。

朱里の体力をつけさせる為だとギルが度々現れては魔獣のクロを人質に朱里に追い駆けさせたり、朱里の嫌いな牛蝉うしぜみを持って追い駆けたりと精神的にも朱里が追い込まれてギルに脅えている。

「ギル叔父上、いい加減にしろ。アカリはギル叔父上に付き合うと熱を出すから駄目だと言ったはずだ」

ルーファスがギルを睨み付けると、ギルは朱里の顔を見ながら笑顔を向ける。

「ルーファスは過保護過ぎだよ。私だって相手の力量を見て手加減はしてるんだから。でもまぁ、アカリの反応が新鮮すぎて虐めたくはなるよね?」

朱里が首を振りながらルーファスの着物を握って泣きそうな顔をする。
ギルが小動物に手を差し伸べる様に朱里に手を差し出すと、ルーファスがその手を叩き落す。

「ギル叔父上は愛情が屈折し過ぎだ。アルビーに構ってもらえないからとアカリに構うのはやめろ。暇なら大橋で暴れている大陸側の奴等でも相手に暴れてくればいい」

「それならここに来る前にやってしまいましたよ。温泉大陸は難民避難所ではないと追い返しておきました。まったく、暑い中自分の国から逃げる体力があるなら自分の国で生きる方法でも見つければいいんですよ」

ギルがテーブルの上のポーション用フラスコ瓶に指をくるくると回しながら水をフラスコの中で渦を巻かせてテッチの方へ置く。

「まぁあの大陸の続き地は人族の国タンシムだから逃げたくなるのもわかるがな」
「ああ、あそこは魔法も薬草も資源も微々たるものしかない国でしたね。しかし、人が温泉大陸前に溢れすぎです。難民の小さなテントハウスが出来上がり始めていますよ」

ルーファスが眉間に指を押し当てながら肩を落とす。
最近の悩みの為の一つが壊した大橋の大陸側に難民が集まっている事。
温泉大陸側の出ていきたいと言う人間に大陸側の様子を見せるとすごすごと温泉大陸に居る事を選ぶぐらいには酷い集まり方をしている。

「あっ、純度の高い魔力水だ・・・」

テッチがフラスコの水を確かめながら言うと、朱里がふるふると震えてギルを見る。

「酷い!私のお仕事ギルさんが盗った!!!」

朱里にギルがニコッと笑顔を向けて両手を広げる。

「さぁ暇になったでしょう?私と遊びましょうか?」
「嫌です!」
「駄目だ!」

朱里が拒否しルーファスが却下するとギルが「つまらないなー」と言いながら子供の様に頬を膨らませると、製薬室の窓から黒いドラゴン姿のネルフィームが顔を出す。

「主、そろそろ昼食の時間です。アルビーがお腹を空かせて待っていますよ」
「ああ、それはいけない!早く帰らないとね!」

コロッと態度を変えてギルが上機嫌で窓から出ていく。

「それじゃ、私は帰るよ!新しい遊びを思いついたら来るよ!」

ネルフィームに乗って帰っていくギルを見ながらルーファスが頭痛を覚えていると、涙目の朱里と目が合う。

「ルーファス、離れないでね?」
「わかってる。なるべく守ってやるから泣くんじゃない」

ギル叔父上には困ったものだとルーファスはため息交じりに朱里を抱き上げて、朱里の気の済むまで耳を弄られることになった。
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