黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

兄と姉妹

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銀色の毛並みの狐は夜の森の狩りに不向きだ。
そう言われて一族からつま弾きにされたのが銀狐獣人のシュテンだった。
一族の長の息子でありながら一人で一族の隠れ里より離れた場所で暮らしていた。
ある日彼が自分の寝床に戻ると山吹色の子狐が2匹捨てられていた。

シュテンの腹違いの妹達。
タマホメとメビナ。
何年経っても2人は成長せず、幼子のまま時を止めている。
そのせいで不気味がられて一族から捨てられた。

甘える2人の異母妹達が可愛くて、手放せずに3人で暮らしていた。
2人は長の娘だけあって戦闘能力が高く、術者よりのシュテンと武闘派の双子は上手くコンビネーションの取れた戦闘で少しずつ名が知れ渡り始めていた。

一族から2人を戻せと言われ、2人を連れて東国を出奔しゅっぽんし、流れ着いたのが温泉大陸だった。
自分達が一族から逃げ去った後で故郷の隠れ里が襲われ炎に包まれたのを知ったのは後の事だが、心当たりが一つだけあった。
東国に居た時に愛想よく近付いて自分達から隠れ里の場所を聞いてきたハガネに喋ってしまった事だ。
ハガネはその頃、主君に従い主君に従わない種族の隠れ里を襲っていた時期がある。
おそらく、そういう事なのだろう。


温泉大陸で住むところも寝る場所もない3人に手を差し伸べた子供がいた。
少しあどけなさの残る少年が自分の受け継ぐ料亭に暮らすと良いと言い、寝床と居場所をくれた。
その少年が後に【刻狼亭】の当主になったルーファス・トリニア。


ルーファスを主君にし、いつも彼の為に動いてきた。

しかし、今、心がグラついている。

【病魔】を調べに砂漠大陸ベルデラに渡ったマグノリア達と一緒に行ったはずのタマホメから連絡が途絶えた。

連絡が途絶えて3日。

優先すべきは主君のルーファスに仕える事だと判ってはいるが、タマホメを心配する気持ちが大きすぎて今すぐにでも飛び出してしまいたい衝動に駆られている。

自分以上に不安を抱えているのはメビナだという事も理解している。
双子の特殊能力、魔法通信が途絶えた事を気にしているのはメビナだからだ。


ルーファスに報告に行くと、黒い耳がピクっと動いて眉をひそめられる。


「何故早く言わない!直ぐに今までの情報をまとめて連絡が途絶えた場所と動ける人員をかき集めるぞ!」

今まで渡した砂漠大陸の報告書を手にルーファスが必要な情報を上げていく。

「あの若・・・いいのですか?」

「何を言っているんだ?家族が困っているかもしれないのに、何もしないなんて出来るわけがないだろう?ああ、アカリに特性ポーションを作る様に言っておかないとな。聖水が必要だとすると・・・アルビーか?」

ルーファスが紙に必要事項を書き記し、シュテンが自分が主君にしたルーファスの魅かれるところはこういう家族思いがあるところだと改めて気づく。

「私も同行に加わらせて下さい」

「んっ?お前が行くとなるとオレが居残り組だな。メビナは連絡用員だから残ってもらうと思うが構わんか?」

「若はこちらに居て下さい。むしろ何故率先して行こうとしているんですか!タマホメの状態次第ですが、メビナと連絡が取れる方が良いでしょうからね」

「とりあえず、オレは先にアカリに特殊ポーションを依頼してくる。一番必要そうだからな」

そう言ってルーファスが足早に部屋を出て行ってしまう。
朱里の【聖域】ポーションが必要なのは確実で量を作るとなると早めの依頼は必要な事だろう。
ほんの少しルーファスが嬉しそうなのは気のせいにしておこう。



昼食と同時に大広間に集まった従業員に状況を伝え、ルーファスが動ける戦闘要員の要請をする。

メビナが自分も行くと言って聞かず、少しルーファスが悩んだが、シュテンが言って聞かせた。
製薬部隊からはテッチが行くことになり、そこでもピルマーと揉めていた。
ハガネは青白い顔で壁にもたれかかっている朱里を世話しながら「俺はアカリがココに居る以上は動かねぇ」と拒否姿勢で朱里が「私も手伝う」と騒いでハガネにガッツリ怒られ、ルーファスからも怒られていた。


「面白そうな事をするみたいだね?アルビーから聞いたよ。私はアルビーを行かせることには反対だからね。代わりに私が行ってあげましょう」

ギルが小脇に抱えられるサイズのアルビーを抱えながら大広間に入ってくる。

「ギル!私が任されたんだけど?余計なお世話だよ!」
「アルビー、私はこれでも一級冒険者ですよ?戦闘の出来ないアルビーより戦闘はできるし、何より【聖】属性持ちの私は聖水も回復魔法も使える万能ぶりだというのを忘れたのかい?」

アルビーがジタバタと手足を振りながらギルに文句を言うが言いくるめられて言葉を詰まらせる。

「ギル叔父上が行くなら、人員はそんなに要らないな」

ルーファスが少しのため息と共に、ギルに総指揮を一任する。

「流石、私の甥っ子は解っていますね。ネルフィームが居ますから砂漠大陸までの移動も短縮出来ますし、私は戦闘員であり、回復補助持ち、この【刻狼亭】で私以上に腕の立つ者も居ませんから、必要なのは道案内と特殊回復ポーションくらいですね」

チラリとギルが朱里を見るとハガネが朱里を庇う様に前に出る。

特殊ポーションを効率よく作るために血液を使ったポーションを作成した朱里は貧血気味になっている。
ハガネとルーファスにやり過ぎだと怒られても、戦友であり仕事仲間のマグノリア達を助けたい一心で自分のギリギリまで絞りとった結果である。


「アカリを連れて行けたら早いですけど、その様子では無理の様ですから出来上がったポーションだけで何とかしましょう。まぁ、頑張ったご褒美にアルビーで回復しなさい」

朱里にアルビーを押し付けると、ギルはシュテンとピルマーを指名する。

「案内役にシュテン。製薬補助にピルマーこの人員だけでなんとかなるね」

「待ってくれ!製薬に関してはおれの方が知識も経験もある!」

テッチがギルに異議を唱えると、ギルは片眉を上げて笑う。

「だからですよ?【刻狼亭】にちゃんとした製薬師が居なくなるのは危険すぎる。【病魔】が完全に危険がないとはこの大陸だって言えないのですから、そのぐらい頭を使いなさい」

そう言われテッチが下唇を噛む。
ギルの言っている事は確かにその通りではあるし、マグノリアがあちらに居る以上、製薬の知識や腕はマグノリアさえ無事なら事足りるからだ。

「わかりました・・・ピルマーをお願いします」

テッチの中に重い物を残したままギルが出発の準備をする為にシュテンとピルマーを連れて出ていく。


「テッチ、心配なのは判るがギル叔父上はアレでもキレ者なんだ。安心してくれ」

ルーファスの言葉にテッチが頷き、大人しく席に座る。

「テッチ、大丈夫。私達は製薬部隊の居残り組として帰ってくる皆の為にここを守ろう?」

朱里がテッチに笑ってみせると、テッチが少し笑う。

「若女将はおれの事より自分の体を気にしてください」
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