黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
75 / 960
5章

お子様なお客様

しおりを挟む
「お前遊んでやるぞ!おれについて来い」

朱里の背丈と同じくらいの少年に朱里は声を掛けられ首を振る。

「私、忙しいの!いい加減にして!」

朱里が少年に怒りながら歩き出すと、後ろを歩いていたアナグマ姿のハガネが「シッシッ」と声を出して少年を手で払う。

リネンワンピースに前掛けをして三角巾をした朱里はどう見ても【刻狼亭】の下っ端見習いの従業員にしか見えないが、子供にとっては遊び相手にしか見えていないらしく、しつこく遊びに誘ってくる。

褐色の肌をしていて、ひと縛りにされた長い金髪にサファイアブルーの瞳。
そして金髪の頭に白い丸い耳、尻尾は長く白に灰色の縞模様がある少年。

着ている服はシルクのブラウスに青いズボンに絹の赤い腰巻をつけている。
見るからに貴族かお金持ちの少年という風体。
おそらく背丈は一緒ぐらいだが、甲高い声から少年は朱里より年下だと思われる。

朱里の腕を強引に引っ張り、ハガネに飛び膝蹴りをくらわされたのだが・・・それでもしつこく追ってくる。
とても厄介で困った小さなお客さんなのだ。

「ここから先は従業員しか入れないから自分の部屋に戻りなさい!」

朱里が調理場の入り口で少年に声を大きめにして警告すると少年は目を輝かせて朱里と一緒に調理場に入ろうとしてきて、中に居た料理人が少年を摘まみ上げて料理場から追い出した。

「ありがとう。しつこくて困ってたの」

「いいんですよ。もう準備は出来てますから頑張って下さい」

「はい。頑張ります」

不愛想な料理人の目が優しく朱里に向けられ朱里が笑顔で答えて調理場の奥にある一角でミッカの箱とハーブの籠に囲まれたアルビーの元へ行く。

「アカリ遅いよー。私一人でやるのかと思ったよ」

「ごめんねアルビー、小さいお客さんに絡まれてたの」

手をサッと水で洗い流し、アルビーと朱里が作業を始めると、ハガネが人型に戻り朱里からミッカの皮が渡されるまで待つ。

ミッカを搾り機にセットすると搾り機がミッカを二手に割り、それを手で押して果汁を搾り取ると、皮を籠に入れ、その皮をハガネが細かく切る。

いつもの工程でもう手慣れた作業風景に3人は黙々とやっていく。

「そう言えば、療養に来てたお客さんが『復興祈願ジュース』飲んで体の悪い所が一気に無くなったとかで大量に買い占めたいって騒いでたらしいよ」

「そうなの?でもコレ日持ちする物じゃないから買い占めても駄目なのにね」

アルビーがハーブ水をかき混ぜながら言うと朱里がハーブ水に食花を付け足し苦笑いする。

「欲の皮が張った奴はいるよなぁ」

笑って言いつつハガネが鍋に刻んだ皮を入れて、蜂蜜を用意しつつジャム用の瓶に手を伸ばすと、瓶がハガネに手渡される。

「おぅ、ありがー・・・って、お前ココは立ち入り禁止だぜ」

いつの間に入り込んだのか先程の少年が調理場に入りハガネに瓶を手渡していた。
ハガネが少年を迷惑そうに見ると、少年は『復興祈願ジュース』のガラス瓶を見つけると朱里の方を見る。

「お前が【刻狼亭】の女将なのか?」

少年の言葉に朱里は一瞬作業の手が止まるが、直ぐに作業を続ける。

「違います。女将さんは本館の料亭です。わかったらココから出て行って下さい。ここは遊び場じゃないの」

朱里が少年にそう言い、少年にお帰りはあちらと指をさすと少年は朱里の指を手に取り、ズイッと顔を近づける。
マジマジと朱里の顔を見て少年が鼻をヒクつかせて朱里のニオイを嗅ぐ。

「黒目、黒髪に白い肌。『復興祈願ジュース』付け加え【刻狼亭】の旦那のニオイがしてる。言い逃れは出来ないぞ。お前が女将だ」

まるで小さな名探偵が犯人を追い詰める様な言い草に朱里は「はいそうです」とでも言うと思うのかしら?と思いながら少年の手を振り払うとミッカの皮を持ち、ミッカの皮を少年の鼻先で二つに折り曲げると少年が目と鼻を押さえて「うわーっ」と声を上げる。
皮の汁を飛ばすという目つぶし攻撃にハガネとアルビーが自分達の目を押さえて少年に憐れむような視線を向ける。

「ハガネ、お客さんを追い出して」

ハガネが少年を摘まみ上げ、調理場の外へ追い出すと褐色の肌をした男が2人廊下から走ってきて少年を1人が庇い、もう1人がハガネに飛び掛かると、ハガネが飛び掛かってきた男に足を引っ掛けてサッと避ける。

「危ねぇな。別に何もしてねぇーって、俺は」

男は直ぐに起き上がりハガネに襲い掛かるとハガネはうっすらと糸目を開けるが、直ぐにいつもの表情でのらりくらりと攻撃を避けていく。

「おいおい。お客さん人の話は聞こうぜー?」

「我が主に手を掛けた無礼者めがー!」

聞く耳無しの男にハガネがウンザリした顔で攻撃してくる男に足を何度も引っ掛けては転ばして避けていく。


「ダリドア!手を貸せ!」

男がもう一人の男に声を掛けるともう一人の男が腰に帯刀していた剣を引き抜く。

ハガネが片眉を上げて調理場の方向を見ると料理人達が長い麺棒を手にハガネの方へ頷きかける。奥では朱里がミッカ絞りをしていてまだ騒ぎに気づいていない様子で楽しそうにアルビーと作業をしている。

不愛想な料理人が長い麺棒を持ってハガネの横に立つとハガネが白い歯を見せて笑う。

「悪いな。アカリが気付く前に頼むわ」

「ああ。【刻狼亭】で武器を取り出した時点で殲滅対象だ」

剣を抜いた男に調理人が麺棒で応戦を始めると、少年が慌てて止めに掛かる。

「エスターク!ダリドア!やめろ!」

ガコンといい音がして剣がくるくると回りながら男の手から離れて天井に刺さると、調理人が麺棒で男の手を容赦なく叩きまわって、少年が必死に料理人に止めに掛かる事になった。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。