黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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5章

脱兎 ※無理やり表現多少 

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 温泉卵の獲れる間欠泉の森。
足を滑らせない様に必死で走る朱里に易々と追いつこうとする足音。


 「たす・・・、けて、ハァハァ」

走りながら叫ぶとか無理だと朱里は諦めて生唾を飲み込み、歯を食いしばって走る。
後ろから伸びる手が朱里をからかう様にかすめて、朱里は必死になる。

肌けたブラウスの前を片手で握りしめながら、捕まったら嫌な事をされる。
それだけは本能で解っているから、泣いても足だけは止めない。


 「兎狩りだ!追えー!」


揶揄う様な声が森にこだまして、木々の中に消えていった。

朱里を追い駆けているのは【刻狼亭】ではない別の宿の貴族の子供達。
子供といっても中学生くらいの生意気盛りの子供達。
【刻狼亭】の旅館の子供達の方がまだマシな部類だとは朱里も思っていなかった。





温泉卵をお昼ご飯に食べようとハガネと話をして、2人で温泉卵を取りに来たら、子供が数人この間欠泉の森で遊んでいた。
そして子供を取り囲むように温泉鳥が随分と集まっていた。

「アカリ、何かおかしい。温泉鳥が威嚇音出してるから気を付けろ」

温泉卵を産む温泉鳥は普段は夜明けに卵を産みに来る鳥で、昼間は滅多に見ることが出来ない。
その温泉鳥がくちばしをカチカチ音を立てて集団で集まるのは異常とも言えた。

ハガネの後ろに隠れるように朱里が移動して様子をうかがう。

「ハガネ、温泉鳥どうしたんだろう?」

「アレだ。ガキ共の足元に温泉鳥の卵が落ちてやがる。あいつ等なんて事しやがったんだ」

ハガネの言葉に朱里も子供達の足元を見ると、黒い殻の卵が割れて中身のヒナが地面で無残な姿を晒していた。
温泉鳥の採っていい卵は白い色の卵だけ。
黒い卵は温泉鳥のヒナがいるので温泉大陸の人間は絶対に採ったりはしない。

「ひどい・・・」

「ガキ共のした事は許せねぇが、あのままじゃガキ共がやられるな」

ハガネが朱里に温泉卵を入れる籠を渡して「行ってくる」と、飛び出していった。

「お前等なにやってんだ!ここは温泉街住民以外立ち入り禁止区域だぞ!」

ハガネが怒鳴り、子供達が一瞬怯むが、すぐさま態度を変えてハガネに向かって温泉卵を投げつけ始める。
ハガネが避けると、子供達は笑いながらさらに投げつけ周りの温泉鳥の数が増えて行っていた。

「お前等何考えてんだ!やめろ!周りを見ろ!」

子供達は周りの温泉鳥を見ると、温泉鳥にも温泉卵を投げ始める。

「1匹1金貨だからな!」

「僕もう8金貨だよ」

「俺様は10金貨分は投げつけたぜ!」

子供達は温泉鳥に卵をぶつけるのをポイント制の遊びの様に言い合っては自分のスコアを自慢し合っている。
卵にぶつかり地面に落とされた温泉鳥が地面を足で蹴りながら子供に突進の準備をしている。

温泉鳥はこの温泉大陸では大事にされていて、攻撃を受ける事が無いので避けるという動作が苦手でたまに風に煽られて木にぶつかったりして負傷しているのを温泉街の人々が治療したりすることも多いくらいにのんびり屋の鳥。
卵を避ける事が出来ない為に子供達の卵攻撃に木から落ちまわっている。

しかし、温泉鳥にも逆鱗がある。
それは黒い卵。
ヒナの入った黒い卵を盗んだり、間違えて落として殺してしまったりすると攻撃音をくちばしから出して仲間を呼び、一斉に体当たりで攻撃をしてくる。
まさに、今その状態になろうとしていた。

「ふざけんな!くそガキ共!!」

ハガネが完全にキレたと言わんばかりに手に幻惑用の痺れ薬の瓶を持ち、蓋を開けようとした時、何かに気付き立ち止まって地面にしゃがみ込む。
地面にしゃがみこんだハガネに子供達が卵を投げつけ、ハガネの体が少し揺れるがハガネはすぐさま立ち上がり走り出す。
走って朱里の所まで来ると、片手で朱里の手を掴み走る。

「どうしたの?ハガネ?」

「まだヒナが生きてる!直ぐに治療しに帰るぞ!」

ハガネの手に小さな赤黒いヒナが弱弱しく動いている。
朱里もそれならばと、ハガネの手を振りほどいて自分の足で走る。

「私の事は良いから、早くヒナを助けて!」

2人が走り出すと、温泉鳥が攻撃を仕掛けに一斉に動き出し、ヒナを持っているハガネに突進して近くで走る朱里もくちばしで突かれ、逃げまどっているうちに何処で別れてしまったのか、ハガネの姿が無くなっていた。

とにかく【刻狼亭】の方へ帰らなくてはと、歩き出すと目の前に子供達が現れて朱里の行く先を阻んだ。

子供達が朱里を見て、まるで新しい玩具を見つけた様に口を歪める。

朱里の中で警鐘が鳴り響く。
とても嫌な感じがねっとりとした視線から感じる。
そして、自分のブラウスが温泉鳥に突かれた時にボタンが取れて胸元を晒していたことに気付き、ブラウスの前を片手で握りしめる。

「この女は何金貨分にする?」

「そうだな。小さいし直ぐにバテるだろうから別の遊びにしようぜ」

子供達の気味の悪い会話に朱里はここに居ては駄目だと走って逃げだした。
子供達は直ぐには動かずに笑いながら数を数える。

「いーち、にー、さーん・・・10まで行ったら狩りの始まりだぞ!」

あはははは

笑う声が大人の声よりも残酷で怖かった。

森の中を走り回り、子供達の声が何度も近づいては離れる。
朱里をいたぶる様にからかう様に繰り返されて、元々体力のない朱里の限界は近かった。

助けを呼ぼうと口に出すも上手く声が上がらず、恐怖から涙が出て苦しい呼吸を余計苦しめていた。


「兎狩りだ!追えー!」


朱里を狩りの動物に見立てているのか、残酷な声は楽しそうだ。
ガツッと、足が木の根に引っ掛かり朱里がコケると、子供達が笑ってみている。
朱里が立ち上がり逃げ出すと、笑ってそれを追ってくる。

体中が心臓になった様にドクンドクンと言っている様に頭の中にまで心臓のうるさい音がして、朱里が足をも連れさせながら木に手をつきながら足を動かすと、ようやく温泉街の街並みが見えかけて来た。

あと少し、あと少しで逃げられる。

朱里が最後の力を振り絞る様に駆け出すと、目の前に朱里より少し背の高い子供が朱里の胸を突き飛ばす。

「きゃあっ!」

地面に尻もちをついて倒れた朱里が目を開けると子供4人に囲まれていた。

「捕まえた!」

「ヒッ!」

子供に肩を叩かれ朱里が引きつった声を上げる。
不気味な笑顔に囲まれ朱里が脅えて子供の手を振りほどこうと手を動かし、パシンと手が子供の手にあたり、いい音を立てた。

次の瞬間、胸倉を掴まれて頬を殴られて朱里が地面に勢いよく倒れ込むと、掴まれた胸元のブラウスがビーッと音を立てて破けた。

ボタッと何か生暖かいものが朱里の肌けた胸元に落ちると、殴った少年が鼻血を出して朱里を見下ろしていた。
朱里が手で少年をどかすより早く、何かに憑りつかれたように少年が朱里の服を破いて襲い掛かっていた。

恐怖に朱里が声をあげようとするも、恐怖で声が出ず、小さな悲鳴が口から出るだけだった。

「ぃやあ・・・」

恐怖で肩から腕の力が抜けても朱里は少年を追い払おうと手を振り上げて抵抗する。
地面に押さえつけられて乱暴に胸を揉まれ、恐怖と気持ちの悪さに揉まれた胸より胸の奥が痛んだ。
ルーファスとは違う手に触られるのが嫌で怖くて心が冷たく凍りそうだった。

スカートの中に手が入り、朱里の中で何かが弾けた。

「いやっ!離して!触らないでーーーー!!!」

足をバタつかせ、渾身の力で少年の足を蹴り上げた。

次に朱里が見たのは少年の怒りに満ちた顔と拳だった。
顔を殴られ、少年達に手足を押さえつけられた。

何度か殴られて目の中は真っ赤で何も見えなかった。

顔が痛い。
押さえつけられた腕が痛い。
怖い。

ドカッと上から音がして、声がした。

「おい!大丈夫か?!」
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