黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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5章

家出と食事

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 3時頃から降り始めた雨は夕方にはバケツをひっくり返した雨という言葉が当てはまる様に降り注いでいる。

夕飯の支度が出来上がり、ハガネがそれぞれ呼びに回るとアルビーとありすは競争する様に1階へ降りていく。
朱里とルーファスはゆっくりと手を繋いで1階へ降りていく。

食堂ルームでテーブルの上に東風(和風)の物を中心にハガネが料理を並べると、ありすが「久々の和食ー!」と声をあげて煮魚と煮物にヤバイーと、騒いでいる。

朱里の希望でテーブルは8人用程の物で料理を並べると非常に手狭ではあるが、会話をするには丁度いい距離になる。手を伸ばせば届く距離が理想的な食卓と、いう事らしい。

「そっか。私は東国が近いからで和食ばかりだったけど、ありすさんは魔国だから和食じゃないんですね」

朱里が喜ぶありすに今更ながら東国近辺以外は和風の食事は少ない事に気付く。

「そうだよ。アカリっち羨まなんだけど!」
「和食は私達子供の頃から食べてるから離れられないですよね」
「マジそれ!」

 2人が食事の事で盛り上がる中、1人一歩踏み出せずにいるのはリロノスだった。
楽しそうな2人に声を掛ける事も出来ず、黙々と食べていき胃がキリキリと痛んでくる。

 ルーファスもハガネもアルビーも適当に話は振ってくるがそれ程弾む会話も無く、リロノスが胃を押さえると不意に差し出されたのは胃薬。
ありすが少し心配そうにリロノスに常備薬の胃薬と水を出していた。

「シノノメは、優しいな」
「・・・そんなんじゃないし・・・」

「私はシノノメに甘えてばかりだな」
「・・・そんな事ないし・・・」

「シノノメを追い詰めて悪かった」
「それは、反省必要だし」

「うん。ごめんシノノメ」
「うちも家出して悪かったし・・・」

「家出させるような私が悪かった」
「・・・とりあえず、ご飯食べて薬飲むし」

そんな2人のやり取りを朱里は少しふくれっ面で口を尖らせるが、ルーファスとハガネは生暖かい目で見守りアルビーに至っては、変な感じとしか受け止めていない。


 食事の終わりにテーブルの上が片付くと、ハガネがデザートのスイートポテトを出して朱里の機嫌も少し緩和される。

「ハガネの作るスイートポテトは甘くて好き」
「私もハガネの作るデザートは好きだよ」

朱里とアルビーが「ねー」と、言い合いながらニコニコしたところでルーファスがありすとリロノスに話しかける。

「少し時間も開いた事だし、話はまとまったか?」

ありすは少しうつむき気味だが、リロノスはありすの手を握って困った顔で少し笑って頷く。

 「始めに言っておきたいのは、私はシノノメと一緒なら、もう何処へでも逃げる決心がついた。だから、私が今まで悩んでいた事を話す。私が【魔王】を継承したのは私の能力でも力でもなく、上の兄達が死に絶えて得た物なんだ」

ルーファスが東国の【勇者】カイナを思い出しながら、お飾り的な物がこの【魔王】にあった事も合点がいくと失礼な事を心の中で思いつつも軽く頷く。
朱里はまた「むぅっ」と小さく声を上げている。
まだ朱里的にはリロノスを『最低男』とみなしているからだ。

 「私の上には7人兄が居て先代の【魔王】が生きているうちから命を狙われ、丁度先代が亡くなった時に生きていた一番上が私だった・・・と、いうだけだ。魔族は強い者を【魔王】にしたがる為に、子供の頃から奇襲攻撃を部下達に幾度もされていく・・・結果、死んでしまう兄達の様な子供が多い」

「何それ?!子供多っ!ってか、リロっち弟さん達いたよね?何人兄弟なん?!!」

ありすが驚いた顔でリロノスを見て、リロノスは「元は12人兄弟だった」と呟けば、朱里も交じって驚く声が上がる。

 「魔族は、そういう感じだから、子供は多数用意しておくんだ。妻も複数用意する一夫多妻が多い。初めの頃に生まれる子供で生き残る子供は本当に極一部の子供なんだ・・・本当に守りたい女性と子供を作る前には他の女性と子供を先に作っておくのが風習みたいなものだ」

 「何それ!不潔!魔族は・・・もがっ!」
朱里の口をルーファスが手で押えて小さく朱里の頭を小突く。

「アカリ、他種族の生き方にオレ達の常識を当てはめて考えるな。他種族から見たらオレの様な獣人族の常識も非常識な場合があるからな」

「そんな事あるの?」
「他種族には無い『蜜籠り』とかがそうだな」
「・・・了解です」

顔を赤くしながら朱里が口を閉じる。
獣人族は子作りのシーズンがそれぞれ決まっていてそれを『蜜籠り』という。
『蜜籠り』以外で出来る子供は非常に稀で少し体が弱かったり能力的に問題がある場合が多い。
他種族にはない習慣で獣人には常識だが、他種族にはなんだそれ?の物だ。


 リロノスが恥ずかしそうに顔を赤らめて「魔族はそういうものなんです・・・」と、消え入りそうな声で申し訳なさそうに言う。
魔族の中で純情なリロノスは少し異分子だったのかも?と、思わないでもない。



 「私の部下達が毎日の様に子供を作れとせっついて来ていただろ?」

リロノスがありすに言うと渋い顔をしながらありすがコクコク頷く。

「マジ、あれ最悪だった!うち何度もそれで喧嘩になって飛び出してたし!」

「私にも他の女性を色々紹介されて、胃が痛かった・・・勿論シノノメ以外に手は出していない!そこは信じて欲しい・・・ただ【魔王】の称号がある以上は継承権が子供にいくのは逃れられない・・・弟に【魔王】を継承させれば弟の子供達が犠牲になるかもしれない。私はそれで悩んでいた」

胃を押さえながらリロノスが青い顔をして、辛そうな顔をする。

「弟さんの子供は犠牲にできないっしょ・・・」

ありすが俯きながらリロノスの手を握り絞めて唇を噛みしめる。

 「それと、シノノメが【聖女】として魔国の土地を浄化したのもあってか、シノノメに子供を作らせて【聖女】の力を子供に受け継がせれば安泰だという声もあり、シノノメとの子供を利用されたくない事もあったし、せめて子供問題だけでも、私が他の女性と子供さえ作れば・・・と、色々考えていたら、今回の状況になった」

 リロノスが「申し訳なかった」と、ありすの手を両手で握り謝る。

「うちは難しい事はわかんないよ?でもさ、なんか方法あるべきじゃん?子供って、命ってそう簡単に殺して良いモノじゃないじゃん?こんなのおかしいっしょ・・・」

ありすがリロノスに詰め寄りながら喋るが、次第に声が涙声になって、ありすの目から涙が溢れ出るとリロノスも目から涙を流しながら、小さく肩を震わせる。


 様子を静観していたアルビーが首をかしげてリロノスに声を掛ける。

「確か【魔王】継承って『強さ比べ』が元で始まった事だったと私は記憶してるよ?何で一部の一族の者に継承させるようになったのかな?他の一般魔族も多産と一夫多妻なのは力比べの為の子供の欠員を防ぐ為だったはず」

リロノスがアルビーを見つめるとアルビーの金色の目がくるんっと輝く。

「私の一族が【魔王】になったのは4代前・・・それまでは別の一族が【魔王】だった。そういえば、その前の【魔王】も違う一族だった」


「世襲制にした事が苦しめているなら世襲制を無くしてから【魔王】を降りたらいい」

アルビーの言葉にリロノスが少し呆気にとられた顔をして、ありすが「簡単な話だったんじゃん?」とリロノスに小さく笑って見せる。
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