黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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6章

冬の露店商

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 チャポンと、水槽に手を入れドクターフィッシュの『タンタン』達が近寄らないのを確認して、厚手のクリーム色のコートに内ボア入りのロングブーツを履いて玄関ホールを出る。

 「久々のお出掛けだー!」

朱里が両手を上げて外に出ると、ハガネが追いかけて来て朱里の首に黒猫が毛糸玉を追い駆ける図柄の入った白いマフラーを巻き付ける。

「はしゃぐのも良いが、ちゃんと温かくして行け」
「ありがとう。ハガネ」

 ワシワシと朱里の頭を撫でて、先に外に出ていたルーファスに朱里が抱きあげられるのを見てから屋敷に戻っていく。
 ハガネとしては付き合ってあげたいところだが、アナグマの獣人のハガネはこの時期は冬眠シーズンなので半分眠たいのもある。他の種族に比べれば、軽い眠りではあるけれど。
あと、ルーファスと朱里のお出掛けに付き合って馬に蹴られたくもないのだ。

アルビーもこの時期は冬眠期にあたるので自分の部屋でウトウトと寝ている事が多い。

「アカリ、可愛いマフラーだな」
「うん。ハガネが作ったやつだから私よりも上手なの」

相変わらず手先の器用さは群を抜いているのがハガネである。

「いつかルーファスにももっと上手く編んだの渡すからね?」
「オレはこれで十分嬉しいが?」

 朱里が作った黒いマフラーを首に巻いてルーファスが嬉しそうに目を細めると、朱里が「メリヤス編みとガーター編みしか出来てないのにぃ」と、顔をルーファスの首に擦り付けて恥ずかしそうにする。

「アカリ、寒くないか?」
「寒くないよ。今日はいっぱい楽しもうね」
「ああ。久々にアカリが調子も良いしな。色々見て回ろう」
「楽しみだね」

 大橋が大幅完成したことで大陸側との行き来も少しずつ増えて来て、その分、関所の通行門は入国審査は多忙を極めているが、物入りな冬場は物資の出入りも多く、真新しい物や珍しい物、そして冬に欠かせない物も多く、街では冬支度の為の露店商が軒を連ねている。

 ルーファスと朱里の目的もそんな冬支度の露店商を見て回る事と、朱里が久々に街を見て回れるのでゆっくりと楽しんでくる予定なのである。

 「まだ年末まで二月あるから、そんなには混んでいないな」
「年末はもっと人が居るの?私には十分人が居る様に思えるけど・・・」

露店に来ている人々は温泉街の人も居れば、住民区の人も多くみられる。
まだ、大橋が完成していないせいもあってか、温泉に羽休めに来る旅行客や冒険者は少ない為に温泉大陸の住民だけが集まっている感じではある。

 「あっ、ルーファス。【刻狼亭】の露店が出てるよ」
「ん?出した覚えは無いが・・・っと、製薬部隊のマグノリア達の店だな」

【刻狼亭】と小さく旗を出している露店に行くと、見知った製薬部隊の責任者マグノリアとその弟子の1人のツンツン頭のロタルスがガラスの瓶に入ったオイルやロウソク。塗り薬や飲み薬など色々と売っていた。

「マグノリアさん。こんにちはー」
「おや?若旦那に若女将じゃないですか。お久しぶりですねぇ」
「若女将久しぶり!元気してたか?」

マグノリアが丸メガネをずり上げながら、小さく首を動かして挨拶をするとニッコリと微笑む。
ロタルスは製薬部隊で朱里が一緒に【病魔】と闘っていた時と同様、明るく元気なようだ。

「お前達は何を売っているんだ?」

マグノリアが笑顔のままルーファスに小声で耳打ちするとルーファスが「ほぅ」と、意味ありげに笑う。

「若女将。オマケに渡してる喉飴やるよ。蜂蜜たっぷりで作ってるから喉の殺菌にもいいぜ」
「ありがとう。ロタルス」

ロタルスに飴の詰まった缶を貰い、ロタルスと他愛無い会話をしていると、ルーファスがマグノリアから商品を買い紙袋を手にしていた。

「若旦那、お買い上げありがとうございます」
「また何かあれば、今度【刻狼亭】に行った時に教えてくれ」
「ええ」

マグノリアとルーファスの意味深なやり取りに朱里が胡散臭さを感じつつも、マグノリア達に手を振って別れて、露店を見て回る。

「ルーファス、あの賑わっている露店なんだろう?」
「あれは『子宝屋』だな」
「何それ?子宝っていうと子供だよね?」
「冬場は休みが長くもらえるからな【蜜籠り】シーズンの獣人中心に子供を授かりたい者はああして『子宝屋』に子供を仕込む日はいつが良いか占ってもらったりするんだ。あとは気休め程度の護符や安産の護符なんかを買ったりするところだが、アカリも護符でも買うか?」
「要らないです!」

ルーファスがクククッと笑いながら、顔を真っ赤にした朱里の頭を撫でながら歩く。
茹でダコ状態の朱里が次に目にした露店はアクセサリーの露店だった。

小指ほどの小さなガラス瓶に色とりどりの石が入っているネックレスや指輪に髪飾りを売っている露店に首をかしげると、ルーファスが髪飾りを一つ取って朱里の髪に合わせてみせる。

「色合いは・・・もう少し黄色が多い物の方が良いな。店主、黄水晶の多い物はあるか?」
「ありますよ。この時期はやはり黄水晶ですね」
露店商の女店主がニコニコと笑いながら足元のカバンから、ガラス瓶に黄色い石の多く詰まっている髪飾りを取り出してルーファスに見せる。

朱里の髪に合わせて頷くと、そのまま買い上げ、女店主がサービスだと言って小さな黄色い花の様に固まっている黄水晶の付いたヘアピンを朱里の髪に差し込む。

「 ”春の日差しが降り注ぐように” 」
「ああ、ありがとう。良かったなアカリ」

キョトンとしながらも、女店主に頭を下げてルーファスの顔を見上げる。

「今のは祝詞だ。そのヘアピンに加護を授けてくれたみたいだな」
「のりと?」
「彼女はシャーマンだな。神々に祈りを捧げ、人を災いから救ってくれる様に祈る者だ。アカリに災難が降りかからず、春の日差しが訪れる様にという様な祈りをそのヘアピンに加護してくれたから、付けておくと良い」
「よくわからないけど、良い物なのかな?」
「シャーマンの加護は神聖な物だから良い物だ。それに黄水晶は邪気払いに使われる石だしな。年末に今年中の厄を落とすのによく使われている」

よくわからないけど、取り敢えず良い物の様?と、小さく首をかしげる朱里にルーファスが苦笑いをしながら、食べ物の屋台が並んでいる場所に移動する。

「アカリ、何か食べたい物はあるか?」
「えーと、あの肉まんっぽいの!」
「焼き包子だな。あと他には何かあるか?色々買って休憩所で食べるぞ」
「んーっ、なら、あそこの揚げパンと串焼き屋さんも!」
「了解。飲み物も適当に買っておくか」

露店で買った食べ物は休憩所に持ってきてもらう様に露店商に追加料金を払って、休憩所へ向かうと、休憩所ではお花見会場の様に人が区切られたスペースに人が座りながら食べたり騒いだりしていた。

黒い釘の打ち込まれた枠組みの場所が【刻狼亭】関係者が使える休憩所らしく、幾つかのスペースはすでに従業員達が大荷物を持ちながら、騒いでいた。

空いているスペースに座ると、直ぐさま従業員が挨拶に来て賑やかさが増す。
食べ物も露店から届けられ、食べながら従業員と喋っていると、華やかな集団がスペースに近づいてくる。

全体的に色の白い綺麗な集団で、髪の先が透明感のある濃い青や赤といった色味のある髪をしている人々。
何処か滑らかなガラス細工を思わせる中性的な感じがする。

「【刻狼亭】の方達ですね?」

澄んだ水の様な声は男とも女とも取れない不思議な声をしていた。
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