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10章
タルアニ国
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海に面した土地の多さから海の国とも呼ばれる小国タルアニ国。
海に居る海獣がそれ程強くなく、海へ潜る事も出来る為に、海の中で獲れる真珠や珊瑚といった海産宝石の有名な所でもある。
気候も穏やかで夏の今のシーズンは花弁の大きな赤い花が海岸から街中まで咲き乱れている。
タルアニ国には小規模ながら騎士団があり、騎士団によって街の警護が成されている。
今現在、騎士団が追いかけているのは『詐欺師』の男だった。
タルアニ国へリゾート目的で入国した【刻狼亭】の当主と名乗る狼獣人の男。
【刻狼亭】という温泉大陸の当主がリゾートに来たという事で、宝石を買ってもらおうと商人達がこぞってその男に商談を持ち掛けたり、持て成したりと派手にやってしまったらしい。
「被害は店の宝石類一切合切持って行かれたという事か?」
騎士団の群青色の制服の男に聞かれ、商人の男は泣きそうな顔で頷く。
鼻水をすすりながら「この先どうすれば・・・」と嘆く商人に騎士団の男が何とも言えない顔をする。
「先を見越したはずが、ちゃんと見通せなかったお前にも責任がある。一から出直すしかないだろうな」
「ううっ・・・私の財産がっ!!」
「こちらでもその男を捕まえる為に尽力しているからしっかりしろ」
泣きすがる商人に「ハァー・・・」と、ため息を吐きながら騎士が困り果てた顔をしていると、部下の騎士が「エインズ隊長~っ!!!」と呼んで入ってくる。
エインズ・グルブス。
タルアニ国の騎士団の隊長で獅子族の獣人。
人当たりの良い人物で部下達からも慕われ、面倒見の良い愛妻家。
「どうした、何かあったのか?」
部下が慌てふためいた感じでエインズを引っ張っていく。
「それが、ローディルとミロルドがまた揉めてて!」
「またか!あいつ等本当に懲りない奴らだな!」
エインズが若い騎士2人が揉めている所まで行くと、既に一人の不愛想な男が2人の騎士を止めていた。
「クイードが止めてくれたのか。やはり専属騎士なだけはあるな」
短い茶色の毛をした狼獣人の騎士クイードが目だけで一瞥して、地面に伸びた2人の騎士に「情けない」と一言いって、路地の端で困った顔をしているドレス姿の若い女性とメイドの方へ向かう。
「ユリアお嬢様、もう大丈夫ですよ。行きましょう」
「ええ。クイード、騎士様達は大丈夫ですか?」
「お嬢様、あの様な騎士放っておけばいいのです。クイード様行きましょう」
ユリアと呼ばれたドレスの若い女性はハニーピンクの髪を靡かせながら、クイードとメイドによって促されるようにその場を離れていく。
その場に残されたエインズは地面で転がっている部下のローディルとミロルドに頬を掻きながら「またやったのか」と呆れてしまう。
ローディルとミロルドは狼獣人なのだが、銀色の毛並みのローディルも灰色の毛並みのミロルドも若い女性に人気があり、事あるごとに女性関係で競い合い、今現在2人が狙っているのがユリア・ロキシーという宝石商の娘でこの国でも有数の金持ちのお嬢様だ。
金持ち故にクイードの様な専属の騎士を護衛に付け、メイドもいつも一緒について歩いている。
メイドの名前はアンナニーナといい、以前ローディルとミロルドが声を掛けたところ、メイド服のスカートの中から大量の暗器を投げつけられたらしい。
ただのメイドでは無いというもっぱらの噂のある女性だ。
「お前達、聞き込み調査はどうした?まさかナンパしてたなんて言わないよな?」
ピクッと地面に転がっている2人の耳が動き、ゆっくりと顔を上げるとエインズが怒っているのが解り、慌てて2人はバッと立ち上がり、お互いを指さして「こいつが悪いんです!」と言い始める。
狼族は戦闘向けの種族なのでこの島では騎士に狼族が多く用いられているが、リーダー的な者を見付けられない狼族の若者というのは統率が出来ずに好き放題に生きる特質もある。
まさにこの二人の騎士がそれに当てはまる。
「ローディルは【刻狼亭】と名乗る黒狼族の男の聞き込み。ただし、女をこれ以上口説くようなら馬屋番に回す!」
「そんなエインズ隊長~っ」
情けない声を出したローディルにミロルドが「プッ」と笑うと、ローディルがミロルドを睨みつける。
「ミロルドは他に被害者が居ないか商人達に聞き込みをしろ。お前も女を口説くようならば練習場の雑用係に回す!」
「ちょっ、エインズ隊長っ!」
焦るミロルドにローディルが「ブハッ」と笑い声を出し指さして笑うと、悔しそうにミロルドがローディルをキッと睨みつける。
「笑ってないで2人共仕事に戻れ!!」
エインズの一喝で2人は逃げるように聞き込みに走って行く。
「まったく・・・困った連中だ」
エインズが自分も引き続き仕事に戻るかと呼びに来た部下と共に歩き出すと、その様子を路地の影から覗いていたフードを目深に被った男が「そろそろ潮時か」と呟く。
「たんまり稼いだし、しばらくは大人しくしとくか」
フードの男が口元に笑みを浮かべて路地裏に消えていった。
海に居る海獣がそれ程強くなく、海へ潜る事も出来る為に、海の中で獲れる真珠や珊瑚といった海産宝石の有名な所でもある。
気候も穏やかで夏の今のシーズンは花弁の大きな赤い花が海岸から街中まで咲き乱れている。
タルアニ国には小規模ながら騎士団があり、騎士団によって街の警護が成されている。
今現在、騎士団が追いかけているのは『詐欺師』の男だった。
タルアニ国へリゾート目的で入国した【刻狼亭】の当主と名乗る狼獣人の男。
【刻狼亭】という温泉大陸の当主がリゾートに来たという事で、宝石を買ってもらおうと商人達がこぞってその男に商談を持ち掛けたり、持て成したりと派手にやってしまったらしい。
「被害は店の宝石類一切合切持って行かれたという事か?」
騎士団の群青色の制服の男に聞かれ、商人の男は泣きそうな顔で頷く。
鼻水をすすりながら「この先どうすれば・・・」と嘆く商人に騎士団の男が何とも言えない顔をする。
「先を見越したはずが、ちゃんと見通せなかったお前にも責任がある。一から出直すしかないだろうな」
「ううっ・・・私の財産がっ!!」
「こちらでもその男を捕まえる為に尽力しているからしっかりしろ」
泣きすがる商人に「ハァー・・・」と、ため息を吐きながら騎士が困り果てた顔をしていると、部下の騎士が「エインズ隊長~っ!!!」と呼んで入ってくる。
エインズ・グルブス。
タルアニ国の騎士団の隊長で獅子族の獣人。
人当たりの良い人物で部下達からも慕われ、面倒見の良い愛妻家。
「どうした、何かあったのか?」
部下が慌てふためいた感じでエインズを引っ張っていく。
「それが、ローディルとミロルドがまた揉めてて!」
「またか!あいつ等本当に懲りない奴らだな!」
エインズが若い騎士2人が揉めている所まで行くと、既に一人の不愛想な男が2人の騎士を止めていた。
「クイードが止めてくれたのか。やはり専属騎士なだけはあるな」
短い茶色の毛をした狼獣人の騎士クイードが目だけで一瞥して、地面に伸びた2人の騎士に「情けない」と一言いって、路地の端で困った顔をしているドレス姿の若い女性とメイドの方へ向かう。
「ユリアお嬢様、もう大丈夫ですよ。行きましょう」
「ええ。クイード、騎士様達は大丈夫ですか?」
「お嬢様、あの様な騎士放っておけばいいのです。クイード様行きましょう」
ユリアと呼ばれたドレスの若い女性はハニーピンクの髪を靡かせながら、クイードとメイドによって促されるようにその場を離れていく。
その場に残されたエインズは地面で転がっている部下のローディルとミロルドに頬を掻きながら「またやったのか」と呆れてしまう。
ローディルとミロルドは狼獣人なのだが、銀色の毛並みのローディルも灰色の毛並みのミロルドも若い女性に人気があり、事あるごとに女性関係で競い合い、今現在2人が狙っているのがユリア・ロキシーという宝石商の娘でこの国でも有数の金持ちのお嬢様だ。
金持ち故にクイードの様な専属の騎士を護衛に付け、メイドもいつも一緒について歩いている。
メイドの名前はアンナニーナといい、以前ローディルとミロルドが声を掛けたところ、メイド服のスカートの中から大量の暗器を投げつけられたらしい。
ただのメイドでは無いというもっぱらの噂のある女性だ。
「お前達、聞き込み調査はどうした?まさかナンパしてたなんて言わないよな?」
ピクッと地面に転がっている2人の耳が動き、ゆっくりと顔を上げるとエインズが怒っているのが解り、慌てて2人はバッと立ち上がり、お互いを指さして「こいつが悪いんです!」と言い始める。
狼族は戦闘向けの種族なのでこの島では騎士に狼族が多く用いられているが、リーダー的な者を見付けられない狼族の若者というのは統率が出来ずに好き放題に生きる特質もある。
まさにこの二人の騎士がそれに当てはまる。
「ローディルは【刻狼亭】と名乗る黒狼族の男の聞き込み。ただし、女をこれ以上口説くようなら馬屋番に回す!」
「そんなエインズ隊長~っ」
情けない声を出したローディルにミロルドが「プッ」と笑うと、ローディルがミロルドを睨みつける。
「ミロルドは他に被害者が居ないか商人達に聞き込みをしろ。お前も女を口説くようならば練習場の雑用係に回す!」
「ちょっ、エインズ隊長っ!」
焦るミロルドにローディルが「ブハッ」と笑い声を出し指さして笑うと、悔しそうにミロルドがローディルをキッと睨みつける。
「笑ってないで2人共仕事に戻れ!!」
エインズの一喝で2人は逃げるように聞き込みに走って行く。
「まったく・・・困った連中だ」
エインズが自分も引き続き仕事に戻るかと呼びに来た部下と共に歩き出すと、その様子を路地の影から覗いていたフードを目深に被った男が「そろそろ潮時か」と呟く。
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