黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

ひな祭り②

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 タンッと障子を開けて大広間に入ると、東国の職人に作らせた大きな屏風に目の前には陶器で作ったドラゴンの形を模した雛人形が飾ってある。
 このドラゴンはグリムレインが氷で1個ずつ作った物を東国の職人さんが粘土で型を取って作ってくれたもので、朱里達も知らないドラゴンも居る。
これはグリムレインの記憶に残っている今はもう居ないドラゴン達も居るらしく、『女の子の成長を願うなら将来子を産むときの安産祈願に我達ドラゴンのひな人形でも飾れば少しはご利益があるかもな』と、言って作ってくれたものだ。

「1年に1回仲間のドラゴンを思い出すのもいいものだ」

 グリムレインが甘酒を漆塗りの盃で飲み干しながら懐かしそうに眺めている。
これはエデンの為のお雛様で、エデンはグリムレインの横でウトウトと眠そうになりながら一緒に眺めている。
エデンはまだ冬眠が明けたばかりでフラフラしている感じで、雛人形はあとで携帯で写真を撮って他の起きたドラゴンにも見せてあげればいいかな?と、朱里が携帯で写真を撮っている。

 向かい側にはフロントロビーに飾ってある雛人形と同じ物を飾っている。
あのフロントロビーの物は朱里の為の物で、ここに飾ってある物はミルアとナルアの為の物だ。
雛人形の前で温泉大陸の12歳以下の女の子6人を集めて着物を着せて写真を撮っているのはありすだ。

「皆かわいいっしょー!笑って笑って。緊張しなくて大丈夫だかんねー」
 ありすも今日は薄紅色の着物に光沢のある白い帯をして髪には桃色の大きめの髪飾りをしている。
髪飾りはリリスとお揃いらしく、同じものをリリスも頭に付けている。
リリスは桜色に手毬デザインの着物で薄く化粧をしてもらって緊張しているのか笑顔がぎこちない。
 
 ミルアとナルアとシレーヌの赤ちゃん3人組は着物を着せてもらっている間に眠くなったのか、小さく欠伸をしている。
ミルアとナルアの着ている着物は白い着物に色とりどりの花柄の入った物で花のデザインは朱里がしたもので東国の職人に温泉大陸に来てもらって相談して作った物だったりする。
 朱里も朱里で拘るのでギリギリ間に合うかどうかで出来上がった着物なだけに感慨深いものがある。
・・・が、着ている双子姉妹は既にくてんこてんと眠って折り重なりそうになっている。

「ミルア、ナルア起きてー。シレーヌちゃんも起きてー」

 キリヒリとフリウーラの娘シレーヌは水をイメージした水色の着物で桃色珊瑚や貝が描かれた物を着ている。
シレーヌも双子姉妹につられてウトウトしている為にフリウーラが転ばないか心配しながら手を空でワキワキしている。

 そんな赤ん坊3人を後ろから支えてくれているのが9歳になる亜人の子供レレイだ。
アマゾネスの母親と岩トカゲ亜人の父親を持つ女の子で肌が小麦色をしていて活発そうな子。
温泉大陸のギルド支部に本拠地を置く冒険者夫婦で腕前は一級クラスの凄腕だったりする。
 レレイの着ている着物は赤の鮮やかな色の着物で白い波模様と蝶の柄の物。

「大丈夫だよ。おばちゃん。3人共アタシが支えておくから」
「ごめんよレレイちゃん。写真の間は頼むね」
「うん。任せて!」

 フリウーラにレレイがニッと笑って3人の軟体オクトパ状態の赤ん坊達を座りなおさせる。

 最後の一人は7歳のコネミー・キリカ。
ドリアード族と人族の子でのんびりとした子。
温泉大陸では花屋を一挙に引き受けている温泉大陸唯一の花屋【ふらわーず】の子供。
【刻狼亭】で飾る花も【ふらわーず】から仕入れている物で今日のこのお雛祭りの大広間に飾られている桃の花も【ふらわーず】から仕入れたものだ。
 着ている着物は薄い黄色の着物に小さな花があしらってある物でアクセントに宝石の絵柄が入っている。

「笑うといいよ~」
「う、うん」
 緊張するリリスにコネミーがふにゃーと笑って見せる。
「そうだよ。今日は女の子が主役の日なんだろ?緊張してたら勿体ないよ」
「はいっ!」
「その意気その意気」
「その意気ですよ~」
 レレイとコネリーに励まされてリリスが笑顔になると、ありすが目を細めながらスマートフォンで写真を撮っていく。

「バッチリっしょ!あとで写真現像して持って帰ってもらうからお父さんお母さんにも今日の可愛い姿見てもらうっしょ!」

「さあ、皆お食事にしましょうか」
 朱里が漆塗りの今日の為だけに作らせた可愛らしい器の数々に彩られた食事に子供達を呼ぶ。
甘酒にちらし寿司に三色ゼリーは定番だよね!と、ありすと一緒に考えたメニューに料理人が色々と小さな女の子ウケしそうな物を作ってくれている。

「あら・・・そういえば、ササマキちゃんはどこ行ったんだろう?」
 一応、ササマキも本日の主役の女の子としておめかしの飾り紐を付けていたのだが・・・と、朱里が見渡すと、ありすが朱里を指でちょんちょんと突き、スマートフォンを指さす。

 五人囃子のハガネを模したアナグマの横にあるヒナあられを食べているササマキの姿に朱里が「あらら」と声をあげてひな壇を見れば、お内裏様とお雛様の真ん中で丸くなっているササマキが居た。

「あの鳥にはひな祭りも何も関係ないっしょ」
「あはは・・・まぁ仕方がないね」
「それにしても、今日は可愛いお姫様一杯っしょ」
「そうだね。リリスちゃんも他の子とお友達になったみたいで良かった」
「うんうん。これでリリちゃんも寂しくないっしょ」

 朱里とありすがリリスとレレイとコネリーが笑いながら3人で喋っている姿を見て満足して頷いた。
リリスの為に学校を作ろうと発言したものの、子供の数に上手くはいかなかったが、結果的にこうして女の子の集まりが出来て、毎年開催できれば少なくとも温泉大陸の子供達同士の繋がりは出来ていきそうだ。

「うちの子達もお友達が一杯出来るといいなぁ」
「大丈夫っしょ。少なくともうちのリリちゃんとシレーヌちゃんはお友達っしょ」
「そうだね。ふふふ」
 朱里とありすの笑い声に女の子達の笑い声が大広間は華やいでみせた。

 『ひな祭り』の後、女の子達に可愛らしい人形を作り、ひな祭りで着せた着物をその人形に着せて贈ってプレゼントした。
子供の成長は早いので着物は来年には着れなくなるので思い出にと作った物で、余った着物の布生地でシュシュとポーチを作りそれも一緒に贈っておいた。
 
 後日、シュシュをして遊ぶ3人の女の子の姿に朱里がひな祭りを開催して良かったと微笑んで来年も頑張るぞ!と意気込むのだった。


 【刻狼亭】の方でも『ひな祭り』フェアを来年もするなら予約をしたいと言う声もあり、来年は女の子連れのお客さんが多そうだとルーファスが笑っていた。

「それはともかくです。早くミルアとナルアのお雛様を片付けさせてください」
「いや・・・ほら、この子達も気に入ってるしな?」
 目を逸らすルーファスに朱里が腰に手を当てて「駄・目・で・す!!行き遅れちゃう!」と雷を落とし、ルーファスが「行き遅れてもいい!」と駄々をこね、ササマキをけしかけられて獣化させられ朱里にひな壇を片付けられたのだった。
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