黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

温かい食事

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 『女将亭』の2階の住居部分からは甘い春野菜を煮る匂いと鶏肉の皮がバリバリと焦げて焼ける匂いと音がしている。
キッチンで朱里がリュエールとシュトラールにお皿の準備をさせながら、四角いバスケットに焼き立てのパンを入れていく。

「あちっ。あつつつ、誰です!焼き立てのパンを持たせるのは!」
「母上だよ・・・」
「母上、熱い物触る時にそれ言うよね・・・」
  朱里の一人芝居に2人が呆れた顔をすると朱里が「ふふふっ」と楽しそうに笑って「昔はこれで2人共笑ってくれたのにぃ」と、まだ6歳以上7歳未満の息子達に昔を強調する朱里に笑って反応してくれるのは椅子に座ってお行儀よくしているミルアとナルアだ。
「きゃふー」
「みゃふー」
 ミルアとナルアの笑い声に朱里が振り返ってガッツポーズをする。

「小さいうちが一番素直ね。うん」
「一応僕らも小さいんだけどね」
「身長の事じゃないけどね」
 ポコッと朱里とリュエールがシュトラールの頭を軽く叩く。
最近少し背が伸び始めたシュトラールはよく身長の事をネタに出してくるので朱里とリュエールによく突かれているが、止めない所はいい根性をしているとしか言いようがない。

「アカリさん、お店の方集計終わりましたのでそろそろアリスを連れて帰りますね」
「はーい。お疲れ様ですー。ありすさん、パン持って帰って下さいな」
「ありがとー。アカリっち」
 リロノスがありすを迎えに2階まで上がってくると、朱里がありすにバスケットに入れた焼き立てパンを渡す。
今回は『祝福』があるおかげか、ありすのつわりも無く、適度に食べて適度に運動という感じで『女将亭』までリロノスと毎日来ている。
リロノスがありすを心配して1人に出来ないのも理由で、リリスは友達と一緒に夕方5時ごろまでは一緒に居るので『女将亭』の終了時間とそう変わらない為に帰りに合流して親子3人で家に帰るらしい。

 リロノスとありすと入れ違う様にギルとリルがリビングに戻ってくる。
「アカリ、今日は私も一緒に夕飯を食べても良いかな?」
「良いですよ。ドラゴン達がお酒を飲むのでお料理は多いですから人数が増えても平気です」
 朱里が胸をトンっと叩いて任せなさい!と、笑ってリュエールとシュトラールにお皿を追加するように言い、2人がお皿を2組出してくる。
初めからリルの分は用意してあったので、2組追加された物はギルとネルフィームの物だ。

 リルが頭を下げると朱里が「ピザも今焼いてるからね!」とウィンクしてリルに椅子に座る様に指をさす。
ミルアとナルアがテーブルをパシパシ叩いてリルを見上げる。

「ミルアとナルアが横に座ってって言ってるから座ってあげてくれます?」
 リュエールが椅子を引いてリルに「どうぞ」と言うとリルが頭を下げて『ありがとう』と文字を書く。

「ああり?」
「ああえー?」
 ミルアとナルアがリルと朱里を指さすとリルが首を振り朱里が「母上はこっちです」と自分を指さす。
リルの後ろから朱里が「ばぁー」と言って顔を横から出してみせると、ミルアとナルアがキャーっと声を出して喜ぶのでつい朱里が何度かやっていたら、リュエールに「母上、お肉焦げる!」と慌ててキッチンに引っ張られていった。

「母上は直ぐに料理から目を離すんだから」
「母上が焦がして良いのはピザだけだよ」
 リュエールとシュトラールがテーブルにお皿を出しながら朱里にチクチク言ってくるのは反抗期なのか?それとも成長したというべきなのか?
小さな小姑のような2人に愚痴られつつ朱里がお肉をトングでお皿に乗せていき、マッシュポテトと人参グラッセに焼きブロッコリーを乗せていく。

 春キャベツのソーセージロール巻きをスープにした物を器に注いでいきリュエールとシュトラールがそれをどんどんテーブルに持って行く。
とにかく人数が多い為にキッチンのテーブルの上が直ぐに置き場が無くなるのでスピード勝負なのである。
朱里達家族だけで6人とハガネにドラゴンで7匹それに付け加え、今日はリルとギルとネルフィームと大家族並みに大変な量と皿数になる。

「あっ、リューちゃん、母上の腕輪を返してくれる?ルーファスに連絡を取りたいから」
「はーい。貸してくれてありがとう母上」
 ダンジョンに行くという2人の為に朱里がルーファスと連絡が取れるように貸していた腕輪を返してもらうと、ルーファスに早速連絡を入れる。

「ルーファス、お夕飯の準備そろそろ出来るんだけど帰りはどのくらいになります?」
『もう直ぐ家に着く』
「はーい。じゃあ皆を呼びますね」
『ああ。それじゃあまた後でな』
 ブツンと腕輪の通信を切ると窓から『竜の癒し木』の上に居るドラゴン達に声を掛け、グリムレインが大窯の前でピザが焼けるのを待っているハガネに夕飯が出来た事を伝える。 

 ルーファスがスピナとニクストローブと一緒にリビングに帰ってくると全員がテーブルに着いていた。

「ルーファスお帰りなさい」
「「父上おかえりー」」
「「ちちえー」」
「おかえりー」と、口々に帰宅の挨拶をされルーファスが「ただいま」と言いながら朱里の頬にキスをしてから席に着くと、朱里の「召し上がれ!」言葉で一斉に食べ始める。

「はい。リルさん。ミッカジュースどうぞ」
 朱里がミッカジュースをリルのグラスに注いだ後、子供達のグラスにも注いでいく。
リルが小さく頭を下げてグラスに口を付ける。
ミッカの酸味と甘さに食花の爽やかな香りが口と鼻の奥に広がっていく。
初めて飲んだミッカジュースにリルがリンゴともグレープフルーツとも違う味に少し目を丸くする。
レモーネに近い味はするのに、酸味はそこまで無く甘くて飲みやすい。

「リルさんどうですか?」
 リルが頷いて指で丸を作り笑うと朱里が同じ様に指で丸を作り「良かった」と笑い、「ピザも食べてね」と自分用にピザを手に取って口に入れると口を手で押さえながら「美味しー」と幸せそうな顔をする。

 リルが周りを見れば、楽しそうに子供達は食べてドラゴン達も笑っている。
ルーファスとギルがお酒をお互いに注ぎ合って、ハガネがミルアとナルアの口に離乳食を入れながら自分の食事もするという器用な事をしているが、それでも笑いながら出来るのは流石としか言いようがない。

 リルの知っている【刻狼亭】はこんな風に温かな場所だった事を思い出す。
そしてケンジと一緒に【刻狼亭】から連れ出してもらって、屋台で食べた時の食事もこんな風に温かく楽しいものだった。

今、ケンジはどうしているのだろ・・・?
ギルはリルに任せてくれればケンジの行方を探し出すと言うが・・・また会えるだろうか?
賑やかで温かい食事の中でリルの心の中にあったのは、ケンジと笑ってまた食事がしたいという事だった。
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