黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

現在の帰還

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 ケンジが残した【Ke&Li】の店舗の買収作業でルーファスが世界中を土竜ニクストローブとスピナを連れて飛び回り、忙しく日々だけが過ぎ去り、リュエールとシュトラールの誕生日が過ぎ去り、2人が7歳になってもルーファスは家にあまり帰れずに走り回り、気が付けば冬になっていた。

 冬になると森の中にある『女将亭』はお客さんの安全の為に休業になっていた。
グリムレイン以外のドラゴンもハガネも冬眠に入り、家の中で動いている大人は朱里だけだ。
 
 リロノスは【刻狼亭】の方で冬眠中の従業員の代わりに働きに出ているが、ありすのお腹も大きくなり始め、リロノスの家に帰りたい症候群が酷い。
このままでは貴重な働き手が逃げてしまうと【刻狼亭】に『女将亭』の毎月変わる温泉鳥シリーズの販売ブースを作ってもらい、そこにありすが売り子としてバイトをしている。
休憩を入れつつのノンビリ販売で、購入はタイミングが合わなければ無理な事もあり、12月のサンタ温泉鳥はプレミアが付きそうだと朱里は未来のマニア達は手に入れるのにどれだけのお金を出すのかな?と、くすくす笑っていたりもする。

 
 朱里はと言えば、ケンジが残した書類の英語を異世界人が残した英語の辞書を片手に訳していた。

「異世界の人の辞書があるのに、どうして英語もローマ字もこの世界にないのー!誰か研究してたり、訳をパッパッて出来る人プリーズ!!」

 むしろ、ケンジがわざとこの世界の人間にわからない様に書類を作ったのでは?と疑いたくなる。
こんな所でケンジにまた苦しめられるとは・・・と、朱里がムムッと口を尖らせながら書類を手に取る。

「ははえー、にゃんにゃーん」
「ははえー、にゃんにゃえー」
「ううっ、ミルア、ナルア母上頑張る~」
 お喋りが最近ますます長い言葉になってきた2人は今日も元気に朱里に話し掛けてくる。
嬉しい限りの成長っぷりに、朱里も頑張るしかないと辞書をめくる。

 ケンジの残した書類は時間移動の機械に関する物もあれば、下着の布地に関する物や種族別に用意するべき布や強度などが書かれている為に、把握しておかなければ後々の商売に影響が出るので泣き泣きやっている感じである。

「母上ー、今日のおやつは何?」
「母上ー、お腹すいたー」
 リュエールとシュトラールがリビングに来て朱里におやつをせがんで騒がしくしている。
育ち盛りの子供達はとにかくよく食べるという感じで、朱里は自分の妹や弟もこんな風に食べていたかな?と、思う物の・・・きっと運動量の違いだろうと思っている。
 
 とにかくこの2人は冒険者まがいな動きで温泉大陸中を走り回っているのである。
友達の子供達と一緒に訓練と称して危険な事ばかりしている気がするが、ルーファスに相談しても「オレも子供の頃してたな」と、話にならないのでこういう物なんだと、半ば自分に言い聞かせてる。

「オヤツならチョコマフィンがキッチンにありますよ。手を洗ってから食べてね」
 2人は尻尾を振りながらキッチンでマフィンを漁っている。
水の音がしないので手を洗っていないなと朱里が「もう」と小さくため息を吐くと、ミルアとナルアも「もぉー」と真似をするので苦笑いが漏れる。

「ちぃー」
「ちぃー」
 ミルアとナルアが首を傾げながら朱里を見上げているが、視線は朱里より上な事に気付き朱里が振り返ると、唇の上に指を1本立てているルーファスが立っていた。

「ルーファス?!」
「ククッ、やはり駄目か。ただいまアカリ」
「やめきゃー」
「やめちゃー」
 ミルアとナルアがルーファスの言葉を復唱しながらキャッキャッと手を広げて「だっこー」とルーファスに騒いでいる。
ルーファスが愛娘たちに目尻を下げると、朱里がガタッと椅子から立ち上がりルーファスに抱きつく。

「ははえーめぇー」
「ははえーめーっ」
 ミルアとナルアが不服の声を朱里に上げると朱里も負けじと「いいのー」と声を上げる。
「父上は母上のものなんですー。ミルアとナルアは母上の後ですー」
「ククッ、母上は大人げないな。でもミルア、ナルア、父上は母上のものだからな」
「ふふふっ。ルーファスおかえりなさい。ルーファス不足で干からびる寸前のところでしたよ」
 朱里がルーファスに頭を擦り付けるとルーファスが抱き上げて、唇と頬とおでこにキスをすると満足そうに微笑んで朱里にスリつく。

「オレもアカリ不足だった。ようやくこっちは終わったぞ」
「お疲れ様です。年越までかかると思ってたよ」
「流石に年越までアカリ達と離れてるのはオレが寂しいからな」
 2人で声を出して笑っていると、「ちちえーいやぁー」と不満の声がミルアとナルアから上がり、リュエールとシュトラールが口にチョコマフィンを頬張りながら、少し半目でお互いに顔合わせて「やれやれ」と言う顔をしている。

 朱里を下ろすとミルアとナルアをルーファスが抱き上げると2人が嬉しそうにルーファスにスリスリと頭をこすりつける。

「2人共少し重くなったな」
「毎日少しずつ大きくなってるからね。最近は色んなもの齧ってくるよ」
「かじかじー」
「もぐもぐー」
「こらこら。父上の服を齧るのは駄目だぞ」
 ルーファスが嬉しそうに2人にスリつきながら尻尾を振ると2人の尻尾も高速でブンブンと左右に揺れて朱里がそれを見て笑い、リュエールとシュトラールを手招きで呼ぶ。

「何?母上、言っておくけど父上と抱きつくのは嫌だよ?」
「そそっ。もうその役目はミルアとナルアに譲ったから」
 少しだけお兄さんになってしまった2人は父親離れをし始めているので朱里としてもルーファスとしても寂しい所だ。

「もぅ。父上が帰ってきたら『おかえりなさい』でしょー!」
 朱里がリュエールとシュトラールをギュッと抱きしめると、2人が「もうそれは言ったよー」と朱里の腕から逃れようと暴れて「それなら良し!偉いよー」と朱里に頬にキスをされて2人が顔を真っ赤にさせて「母上!」と悲鳴の様な声を上げていた。

 ようやく家族が揃って賑やかな毎日がまた始まりそうだと朱里は満足そうに笑い、ルーファスは家族の元へようやく腰を落ち着けられたことにホッと息をついた。 
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