黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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12章

試験官の1日目 前編

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 チャルッタの街はお正月名残りか日も沈んだというのにお酒を飲んで騒いでいる人々が多く歩いている。
グリムレインが冬を振りまいたおかげなのかチャルッタでも雪が降ったらしく、雪を固めてブロックを作りそのブロックで大きなかまくらを作り中ではテーブルと椅子が設置され、お酒や露店で売られている食べ物を食べている人々が騒いでいる。居酒屋の喧騒という所だろう。

「ミヤ試験官も一緒に食べに行きませんか?」
 朱里にそう声を掛けてきたのは筆記試験官のリンディ・チアという女性で彼女もCランク冒険者だ。
リンディは親の薬をギルドが試験官を5日間やれば用意してくれるというので試験官を引き受けた人。
年齢は14歳と年若く、朱里を同じ様な年齢だと思っているのか、よく声を掛けてくれる。
スグリ色の髪の毛を三つ編みにして焦げ茶色の人懐っこい瞳は犬の様で可愛らしい。

「リンディありがとう。でも私はルーと一緒に食べれるお店を予約しているからごめんなさい」
「そうなの?でもワンちゃんも一緒の所なんてそんなに無いから仕方ないかー」
「グルル」
 誰が犬っころだと言いたげなルーファスが唸るのを朱里が手で耳をつんつんしつつ制してリンディに小さく手を振る。
リンディは他の試験官達と「ミヤは他に食べに行くんだって」と言って歩き出して行った。

 実技試験官と違って筆記試験官は6人にギルド職員が4人付く10人体制で不正防止をしている為に人数が多い。
実技試験官は2人なのだが、朱里と一緒の実技試験官のもう1人はランクがC+のBに近いという事もあってほとんど朱里が担当という事になっている。
 まぁ、実際はルーファスが蹴散らしている感じなのである。
ルーファスが多少試験を受けに来た人の動きを見て冒険者にしても大丈夫と見たら、朱里が「降参します」と言うのだが、今の所ルーファスのお眼鏡にかなう人が居ない。

「それではルー、食べに行きましょうか」
 ルーファスが尻尾を振って朱里のお腹にスリつくと一緒に予約した店に歩き出す。
予約した店は高級料亭なのだが、完全個室制でルーファスが獣化を解いても人に見られる心配がない。
獣化した獣人を使っているという事がバレては駄目だとギルドからも言われているので、そこは気を付けている。

 料理も既に先に注文してあり、入店して食べて帰るだけなので給仕の人に見つかる事も無い。
まぁ、有名人が誰にも会わずに密会に使う様な店なので、朱里が獣化したルーファスを連れて店に入っても店の人はそれを気に掛ける事も無いのは、そういうところだ。

テーブルに並んだ食事に朱里が「ふぁぁ。美味しそう」と目を輝かせると、獣化を解いたルーファスが朱里のグラスにジュースを注いでくる。
朱里もルーファスのグラスに清酒を注いで2人でグラスを合わせるとニコッと笑う。

「ルー、お疲れさまでした」
「ミヤもお疲れさまだ」
 クイーッと飲み干して料理に手を付け始める。
チャルッタ特産のヌガという大根に似ているカブの様な味で焼けば焼く程甘みの増す野菜を中心に、鴨肉のローストにミッカソースの掛かった物、ハーブの香草焼きハムを和えたサラダ、カボチャのクリームスープという感じで女性が好きそうなメニューが多い。

「あの子達もご飯食べている頃でしょうかね?」
「今事アーネストが腕によりをかけて食べさせているだろう」
「ふふっ。【刻狼亭】の料理長自らの離乳食は私も少し興味があります」
「味を占めて茶碗返しされないと良いな」
「もぅ~。それは勘弁してほしいです」
 でもありそうで怖いと朱里が苦笑いしながら、ミルアとナルアの舌が肥えませんようにと小さく祈る。

「それにしても、私の時はそんなに試験官って意識してなかったんですけど、色んな理由で雇われるんですね」
「Cランクは最下級ランクではあるが、すぐに居なくなるからな。冒険に出て命を落としやすいのもCランクがダントツだしな。ランクアップで居なくなる分には良いが、常に不足がちなランクだ。帰ったら直ぐにBランクに引き上げて試験官にならない様に対策しておくしかないな」
「そうですね。でもリューちゃんもシューちゃんも冒険者になりたがってるから、2人の時に試験官をしてもいいかなって思いますけど」
「止めておけ。あの2人はもうB+以上の実力になっている。あとは知識を付けて場数を踏ませればAクラスに直ぐになるだろうからな」
「お父さんの英才教育の賜物ですね?ふふっ」
「まぁ、なるべく我が子には冒険者になって死んでほしくないからな。こちらも厳しく教えていくしかない」
「うん。あと5年あるから鍛えてあげてね」
 了解という返事の代わりに微笑んで朱里に口づけをしてから獣化する。

「さて、そろそろ宿に戻ろう」
「はい。明日も試験頑張らないとね」
 料亭で明日のお昼御飯用のサンドイッチを用意してもらいバスケットに入れて、露店で朝ご飯用のスープとパンを購入すると2人で並んで帰った。
暗くなったチャルッタの街に静かに雪が降り始めていた。
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