黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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13章

恋の宅配便2

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 港の潮風を浴びながらシュトラールが『酔い止め魔法1回1銀貨(1万円)』と看板を出している男の術師に目を付け、術師に「どんな魔法なの?」と興味津々で詰め寄っている。

「オレ、こう見えて回復魔法使えるから教えてよ。1銀貨払うから」
「これは俺の魔法だ。教えるわけないだろ!」
「えー、ケチくさいなぁ。まぁ酔っては無いけど、1回かけてみてよ」
「今日は店仕舞いだ!シッシッ!」
 術師の男に追い払われ、シュトラールが「ちぇっ」と言いながら、後ろで魔国の地図を見ていたリュエールの元へ戻る。

「リュー、ダメだったー」
「そうだろうね。簡単に教えてたら商売にならないでしょ」
「魔法もっと覚えたいんだけどなー」
「だったら医療関係の魔法情報を小鬼から買えば良いんじゃない?」
「あ、それだー!って、お小遣い足りるかなぁ・・・」
 
 シュトラールが「うーん」と唸っているとイルマールが「冒険者になって稼げば良いんじゃないか?」と言い、シュトラールが「それだー!」とポンッと手を叩く。
 ない物は稼げば良い。元お坊ちゃん育ちのイルマールも冒険者稼業が少し板につき始め、考えも冒険者らしくなってきた。
 何より、今現在借金がかなり凄い事になっているのでイルマールも稼がざるを得なくなっている。
ありすがリリスとの魔法通信が出来る腕輪をイルマールの分も買ったらしく、ありすへの借金が出来ているのだ。
朱里が「お友達からお金を取るなんて出来ませんよ」と、言うのをありすが「友達でもお金の事はしっかりしないと!でも、結構お高いので半額でお願いするし!」と、1個大白金貨3枚(3千万円)で購入し、イルマールの腕にその大白金貨3枚が付いているのである・・・。

 有り難いが、自分のお金が貯まって自分の力で手に入れたかったとも思っている複雑な心境なのだが、ありすも従者2人も「頭固すぎ」と、笑うばかりだったりした。

 そんな訳でイルマールはこの宅配が終わり次第、冒険者ギルドで依頼をこなしながらお金を稼がなければいけない生活が待っているのである。

「イル。学園はここから近いみたいだけど、先に行く?」
「いや、最初に自分達の拠点を見付けておく方が良いだろうから、宿を先に確保してからだな」
「オレの鼻はこっちだと言ってる!」
 ビシッとシュトラールがいく方向を指さすと、くんくんと鼻を鳴らし、リュエールとイルマールが半目でシュトラールを見る。

「シュー、どう嗅いでもこれは食べ物の匂いに釣られてると思う」
「先に腹ごしらえでもしてから宿を探すか?」
「やったー!船の食事じゃ足りなかったんだよね」

 育ち盛りにしては些か育ちすぎているシュトラールの背をリュエールが見上げながら、食べた分だけ背に持って行かれて・・・と、シュトラールの指さす方向へ歩いて行く。

 港の近くにあるレストランは海の近くと言えど、海に居る海獣が魔国は危険度Aランクに指定されている為に魚介類はそんなに扱っているわけでは無い。
むしろ魚介類など注文しようものならお金がパッと飛んで行ってしまう。
 3人が入ったレストランは魔牛を使ったハンバーグ専門店でハンバーグの分厚さが腹ペコなシュトラールが喜ぶ分厚さで7cmな上、大きさも15cmとシュトラールの尻尾をブンブンと揺らすほど満足させたようだ。
付け合わせのポテトはおかわり自由でシュトラールがこれもお皿にこんもりと盛っていた。

 よく食べるなぁ・・・と、思いつつもペロッとリュエールもイルマールも食べきってしまうあたりシュトラールの事は言えないのである。
 食べ終わると3人はレストランの人に聞いた宿屋を目指して歩き出す。

「ふぅー、食べた~。あの大きさ食べると母上のハンバーグが小さく見えるよね」
「母上は手が小さいからね。でも母上のハンバーグはたまに無性に食べたくなるんだよね。あれは不思議」
「わかる。唐揚げとかも母上の作ったヤツ食べたくなる時ある」

 リュエールとシュトラールが朱里のご飯を思い出している時に、イルマールが鼻を鳴らして立ち止まる。
ふわっとした甘くて花の様なお菓子の様な匂いが人混みの中からしている。

「イル。おいて行っちゃうよー」
「ああ、悪い。直ぐに行く」

 イルマールがリュエール達の方へ歩き出すと「待って!イル!」と聞き覚えのある声が人混みの中に紛れる。
声の主を探して辺りを見回していると、リュエールとシュトラールが「あ、リリだ」と人混みの中から匂いを探し当てる。

「イルー!!」

 金髪の長い髪に白い角、ダークパープルの瞳が嬉しそうに輝いてイルマールを呼びながら抱きついてくる。
学園の制服なのか紺色の上下に分かれた服に赤いリボンを付けていた。

「リリス、久しぶりだね」
「イル!どうしてここに居るの?ビックリしたわ」
「おれは護衛の仕事でここに来たんだよ」
「護衛?」

 リリスが首を傾げると、イルマールの横に初めから居た幼馴染の2人が「酷い」と呟く。

「リリ、僕らの事見えてないの?」
「リリ、オレ達生まれた時から知り合いなのに・・・」
「あはは。冗談よ。2人も何でここに居るの?」
「アリスさんからリリに届け物を届けに来たんだよ」
「ママから?じゃあイルを届けに来てくれたの?」
「・・・リリ、流石にそれは無いからね」

 「なーんだ、残念」とリリスが肩を落としながらイルマールを見上げると、イルマールが少し困ったような顔で笑いリリスの頭を撫でる。

「でも、リリは何でこんな所に居るのさ?」
「今、慈善活動の時間でこの町にある孤児院に来てるの・・・って、いけない!イルが居る様な気がしたから走って来たけど、抜け出したのバレたら怒られそう!」

 リリスがそういうのと同時に「リリスさん!どこですか!」と年配の女性がツカツカと人混みをかき分けて怒った表情で近付いてきていた。

「見つかると大変だから逃げて!」
「ええ!荷物渡したいんだけど!」
「どうせ学園に来てくれるんでしょ?待ってるから!」

 リリスがイルマールから離れると「またね!」と笑って人混みの中を消えていく。

「あーあー、サッサッと会った時に渡しとけばよかった」
「リリに会いに学園行きは決定みたいだね」

 自分の手をジッと見ながらイルマールが「リリス」と小さく呟いて、自分の手に残ったリリスの残り香を吸い込んだ。
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