黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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16章

私のお城

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 4月1日の自分の33回目の誕生日に「これはエイプリルフールかな?」と思ったのは、『女将亭』のカフェテラス側に生えていた『竜の癒し木』が『女将亭』の壁を押し付けて枝を伸ばし、壁をくぼませているのを発見した時。
記憶をさかのぼり、未来から来た子孫のリルが言っていた言葉を思い出す。

『ドラゴン達が初代の『女将亭』は『竜の癒し木』が大きくなりすぎて駄目にしちゃったんだよね・・・って、言っていたんです。もっと木が大きくなるので私の知っている『女将亭』はこの『女将亭』の後に建てられた物だったんですね』

 あの言葉はコレか!!と、朱里は吠えずにはいられない。

「うわぁぁん!私のお城がーっ!!!」
「1本くらい引っこ抜いちゃえば?」

 朱里の嘆きにシュトラールがへらっと笑って言えば、アルビーが「ダメ!何言ってるの!」と騒ぎ、『竜の癒し木』を見上げていたキリンが「うちの椅子を作る木に使いたいねー」と言うとリュエールが「キリンが言うなら木の1本や2本へし折るよ」と笑顔で答える。

「アカリ!この息子達と嫁止めてー!」
「良いじゃないですかー!私のお城と木の1本や2本で文句言わないでー!!」

 アルビーと朱里がわぁわぁ騒いでいると、ルーファスが壁の状態を見ながら「ふむ」と声を出す。
そして足元で三つ子達も「ふむ」とルーファスの真似をして声を出して同じ様に顎に手をやりながらポーズをとる。

「そうだな・・・新しい『女将亭』を建て直すか?子供達も成長してきたし、個々の部屋も欲しいだろうしな」
「と・・・取り壊しぃいいいいい!!!!」

 朱里の大絶叫にルーファスがイヤイヤ違うと、手を左右に振ると、三つ子も左右に手を振る。
三つ子の最近のお気に入りはルーファスの真似なのでルーファスのする事なす事真似をしたがるのだ。

「ドラゴン達にこのままの状態で場所を移動させてもらおうと思っているんだが」
「出来るでしょうか?」
「お前達出来そうか?」

 ルーファスが庭に集まっているドラゴン達に声を掛けると、8人のドラゴン達はお互いに顔を見合わせながら、ケルチャが前に出る。

「とりあえず、どこまで『竜の癒し木』が大きくなるか見てから決めても良いんじゃない?」

 ケルチャが『竜の癒し木』に手を触れるとメキメキと音を立てて木が大きくなり・・・ガシャンメキメキと音を立ててリビングとシュトラールの部屋とカフェテラスの一部が損壊した。

「あら?失敗しちゃったわ」

 ケルチャがホホホと笑いながら舌を出すと朱里の大絶叫再びである。

「あああああああーっ!!!!!」

「あーあ、オレの部屋も壊れちゃった・・・」
「シュー、お部屋に物が無くなっててよかったね」
「そうだねーフィリア」

 シュトラールとフィリアは2日前に自分達の新居を用意し、引っ越した為に部屋はもぬけの殻で被害はなかったのである。

「ううっ、私のお城が・・・」
「母上、元気を出してくださいませ」
「母上、冬でなくて幸いでしたわ」

 ミルアとナルアが朱里を見上げて微笑むと、朱里は2人の頭を撫でながら「お店、当分お休みだわ」とため息を吐く。

「嫁よ、我と一緒に店が再びオープンするまで旅にでも行くか?」
「あ、ズルいの!エデンも!」
「はいはい!ケイトも行くぅ!」
「うるさい奴らだの。我は嫁としか行かんぞ?!」
「グリムレインだけズルいの!」
「そうだ!そうだー!」

 グリムレインとエデンとケイトが主である朱里の取り合いをしてルーファスが「ダメに決まっているだろう!」と3人を叱りつけると「婿はケチだの」「ケチー」「けちぃ」と騒がれ、朱里を抱き寄せて「オレのだ」と言い、朱里の足に三つ子が「ティルのー」「エルのー」「ルーのー」としがみ付いてくる。

「こりゃ、派手にやっちまったな」
「ハガネ、応急処置出来そうですか?」
「んー・・・なんとかなるとは思うが、ちと日数かかんぜ?」
「はうー・・・私のお城ぉ・・・」
「まぁ、家を移動させるならさせちまってから修復した方が良いだろ?どうせ運ぶときにまた壊れちまうだろうし」
「あわわわ・・・私のお城がっ!!!」
「まぁ、ちゃんと俺が直してやるから、移転させる場所を決めとけよ?」
「はい・・・」

 ハガネにリュエールとキリンが「うちの工具貸そうか?」「わたしも家具作り得意なので手伝いますよ」と声を掛けて、日曜大工の話で花を咲かせる。

「この土地に『竜の癒し木』に引っ掛からない場所で『女将亭』を新たに作るか」
「・・・未来からきたリルさんが言ってました。この『女将亭』はリルさんの知っている『女将亭』じゃないって、きっと運命なんですね。寂しいけど、手狭になっていた気もするから思い切って新しいお店作りましょうか」
「そうだな。またアカリの城を作るといい」
「ううん。もう半分はキリンちゃんが若女将として頑張ってくれているから、キリンちゃんの意見も聞くつもり」
「そうか。オレ達は早めに隠居生活でもして、移転先のこの城でのんびり暮らさせてもらおうな」
「ええ。2人でのんびりしたいですから、移転先の場所ものんびりした所を選びましょうね」

 こうして、『女将亭』は移転先を探す事になった33歳の春。
誕生日なのに、今年はとても叫んでいた気がすると思いつつ、朱里は新たに増えた2人の家族を見ながら、来年の誕生日はどうなっているやら?と微笑む。
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