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16章
春のハープ
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ディトリックスから詳しい話を聞くために【刻狼亭】の料亭へ連れ帰ると、冬眠明けの従業員達は春の陽射しにまったりとした和やかな雰囲気で仕事をしている。
そして眠気を誘うような音色が料亭の奥からしていて、その音色がまたふわふわとした雰囲気を醸し出している。
この音色の主は【刻狼亭】16代目リュエールの番キリンのハープの音。
料亭に春っぽい音でも響かせていたら雰囲気出そうだね・・・と、いう話をしたのが数日前。
キリンが「ハープくらいなら出来ますよ」というので生演奏を弾いて、どの曲が良いかを義妹のフィリアとミルア、ナルアと決めている最中だったりする。
シャリンとハープの合間に聞こえるのはフィリアの羽の音なのだろう。
リラックスし過ぎると羽が出てしまうらしく、羽が出ていると人前に出れないのでこれはこれで大変らしい。
「キリン姉様・・・辛いです」
「キリン姉様・・・眠いです」
「キリンさん、私も眠くて・・・」
「起きて。うん、わたしも頑張ってるんだから、ね?」
当主の部屋でソファの上で眠気と戦う義妹達3人はせめて縁側から燦々と入る春の日差しをカーテンで遮断してくれと思うものの、縁側でドラゴン達が昼寝をしている為にカーテンをすることが出来ない。
近付こうものならドラゴンに混じって寝ているササマキに突かれたり、クロに不機嫌そうな声を出されるのである。
「君達ね、僕のキリンが演奏してくれてるんだから、しっかり目と耳開けて」
極めつけはキリンを溺愛しているリュエールが仕事机で書類仕事をしつつ見張っている事だろうか?
出来る事ならドラゴン達に混じって惰眠を貪りたい!!・・・が、リュエールがそれを許してくれないので3人はぐぬぬと思いつつも春の温かい日差しと眠気を誘う穏やかな音色に耐えているのである。
ちなみに三つ子は縁側でハガネと一緒に寝ている。
そして、朱里は三つ子が寝た隙を狙い買い物に出かけて、ディトリックスに出会ったという。
「ただいまー、可愛い音色ねー」
「リュー、問題発生だ。少し良いか?」
朱里とルーファスが部屋を開けるとミルア、ナルア、フィリアは助かったとばかりに顔を上げる。
そして3人共「あ」で、言葉が止まる。3人と目が合うと、朱里も「あ」と声を出す。
「ルーファスおろして」
3人が朱里がルーファスに抱き上げられている事に言葉を止めたので、流石に羞恥心という物が沸き上がる。
リュエールはさほど気にせず、またかくらいの物で、キリンも割りと慣れたというより、自分達も傍から見れば朱里とルーファスと変わらないので口を噤む。
これで顔を赤くするのは思春期なお子様とようやく人とのスキンシップを学び始めた初心な元王女くらいだ。
「父上、どんな問題が?」
「それが、ミルアの婚約者だと名乗る奴が現れてな」
リュエールの耳がピクッと動いて、片眉を上げるとルーファスを見上げて、自分の名前を出されたミルアが首を傾げる。
「今、テンの方で事情というか、釣書が送られて来た経緯などを聞き出している所だ」
「報告が遅くなったけど、今日すでに3件ほど釣書の問い合わせが来てるよ」
「なんだと!どうしてそれを早く言わない!」
「こっちで確認作業をしてからと思ってね。だってルーシーの釣書まであるんだよ?」
「ルーシーの物までか?・・・一体なんだそれは・・・」
リュエールが「まぁ僕達のせいかな?」と小さく笑う。
「僕やシューは昔から【刻狼亭】に取り入りたい人達に付きまとわれてたけど、子供だったから女性もそんなにアプローチは激しくなかった。でも、もう僕はキリンを番にしちゃったし、シューも番見つけたしで、【刻狼亭】に嫁入りさせるのが無理・・・と、なれば、ミルアとナルアに次は目が行くでしょ?ルーシーのは、何かの冗談だとは思いたいけどさ。うちは何だかんだで金の生る木に他の人間からは思われてるだろうからね」
キリンがハープを弾く手を止めてリュエールを見て、耳をピコピコ動かしている。
昔から女性に付きまとわれたというところに反応しているのか、少し口がとがっているキリンにリュエールが「僕は母上似だから、主にシューが追い回されてたよ」と言い、フィリアの背中の羽がパシュンと音を立てて背中に仕舞い込まれる。
「つまりは我が家へ取り入ろうとしている何者かが釣書を送り付けて、何かしらの利益を貪ろうとしている・・・と、いうところか」
「上手くいけば仲介料みたいなもので美味しい思いをする人間が居るだろうから、そいつが犯人・・・かな?」
リュエールが1枚の釣書の封筒をルーファスに渡すと、釣書の中に【刻狼】の印が入った手紙が入っていた。
『支度金を大白金貨6枚用意されたし、もしくはそれ相当の財貨を用意すべし』
「まっ!うちの子は大白金貨6枚しか価値が無いとでも?!失礼です!」
「全くもって話しにならんはした金だな!うちの子を何だと思ってるんだ!」
朱里とルーファスが手紙を破きそうな勢いだったのをリュエールが「大事な証拠だから破らないで」と両親を止めて苦笑いする。
「見て欲しいのは、その【刻狼】の印だよ。13代目の頃の印なのが気になるんだよね」
「オレの祖父の代・・・代が変わると印も変えているからな。随分と久しぶりに見た気がするが、本物の印だな」
「そっ、本物なのが気になるよね」
「ふむ・・・代々の印の管理がどうなっているか調べる必要があるな」
「管理・・・?手の平の鍵の中にあるんじゃないの?」
朱里がリュエールとルーファスの手を見ると、2人は肩をすくめる。
「財貨の管理は『ロックヘル』という小人達が取り扱っている。代々の印もそこへ入れている」
「ロックヘル?」
初めて聞く言葉に朱里を含めキリンやフィリア達も首を傾げた。
そして眠気を誘うような音色が料亭の奥からしていて、その音色がまたふわふわとした雰囲気を醸し出している。
この音色の主は【刻狼亭】16代目リュエールの番キリンのハープの音。
料亭に春っぽい音でも響かせていたら雰囲気出そうだね・・・と、いう話をしたのが数日前。
キリンが「ハープくらいなら出来ますよ」というので生演奏を弾いて、どの曲が良いかを義妹のフィリアとミルア、ナルアと決めている最中だったりする。
シャリンとハープの合間に聞こえるのはフィリアの羽の音なのだろう。
リラックスし過ぎると羽が出てしまうらしく、羽が出ていると人前に出れないのでこれはこれで大変らしい。
「キリン姉様・・・辛いです」
「キリン姉様・・・眠いです」
「キリンさん、私も眠くて・・・」
「起きて。うん、わたしも頑張ってるんだから、ね?」
当主の部屋でソファの上で眠気と戦う義妹達3人はせめて縁側から燦々と入る春の日差しをカーテンで遮断してくれと思うものの、縁側でドラゴン達が昼寝をしている為にカーテンをすることが出来ない。
近付こうものならドラゴンに混じって寝ているササマキに突かれたり、クロに不機嫌そうな声を出されるのである。
「君達ね、僕のキリンが演奏してくれてるんだから、しっかり目と耳開けて」
極めつけはキリンを溺愛しているリュエールが仕事机で書類仕事をしつつ見張っている事だろうか?
出来る事ならドラゴン達に混じって惰眠を貪りたい!!・・・が、リュエールがそれを許してくれないので3人はぐぬぬと思いつつも春の温かい日差しと眠気を誘う穏やかな音色に耐えているのである。
ちなみに三つ子は縁側でハガネと一緒に寝ている。
そして、朱里は三つ子が寝た隙を狙い買い物に出かけて、ディトリックスに出会ったという。
「ただいまー、可愛い音色ねー」
「リュー、問題発生だ。少し良いか?」
朱里とルーファスが部屋を開けるとミルア、ナルア、フィリアは助かったとばかりに顔を上げる。
そして3人共「あ」で、言葉が止まる。3人と目が合うと、朱里も「あ」と声を出す。
「ルーファスおろして」
3人が朱里がルーファスに抱き上げられている事に言葉を止めたので、流石に羞恥心という物が沸き上がる。
リュエールはさほど気にせず、またかくらいの物で、キリンも割りと慣れたというより、自分達も傍から見れば朱里とルーファスと変わらないので口を噤む。
これで顔を赤くするのは思春期なお子様とようやく人とのスキンシップを学び始めた初心な元王女くらいだ。
「父上、どんな問題が?」
「それが、ミルアの婚約者だと名乗る奴が現れてな」
リュエールの耳がピクッと動いて、片眉を上げるとルーファスを見上げて、自分の名前を出されたミルアが首を傾げる。
「今、テンの方で事情というか、釣書が送られて来た経緯などを聞き出している所だ」
「報告が遅くなったけど、今日すでに3件ほど釣書の問い合わせが来てるよ」
「なんだと!どうしてそれを早く言わない!」
「こっちで確認作業をしてからと思ってね。だってルーシーの釣書まであるんだよ?」
「ルーシーの物までか?・・・一体なんだそれは・・・」
リュエールが「まぁ僕達のせいかな?」と小さく笑う。
「僕やシューは昔から【刻狼亭】に取り入りたい人達に付きまとわれてたけど、子供だったから女性もそんなにアプローチは激しくなかった。でも、もう僕はキリンを番にしちゃったし、シューも番見つけたしで、【刻狼亭】に嫁入りさせるのが無理・・・と、なれば、ミルアとナルアに次は目が行くでしょ?ルーシーのは、何かの冗談だとは思いたいけどさ。うちは何だかんだで金の生る木に他の人間からは思われてるだろうからね」
キリンがハープを弾く手を止めてリュエールを見て、耳をピコピコ動かしている。
昔から女性に付きまとわれたというところに反応しているのか、少し口がとがっているキリンにリュエールが「僕は母上似だから、主にシューが追い回されてたよ」と言い、フィリアの背中の羽がパシュンと音を立てて背中に仕舞い込まれる。
「つまりは我が家へ取り入ろうとしている何者かが釣書を送り付けて、何かしらの利益を貪ろうとしている・・・と、いうところか」
「上手くいけば仲介料みたいなもので美味しい思いをする人間が居るだろうから、そいつが犯人・・・かな?」
リュエールが1枚の釣書の封筒をルーファスに渡すと、釣書の中に【刻狼】の印が入った手紙が入っていた。
『支度金を大白金貨6枚用意されたし、もしくはそれ相当の財貨を用意すべし』
「まっ!うちの子は大白金貨6枚しか価値が無いとでも?!失礼です!」
「全くもって話しにならんはした金だな!うちの子を何だと思ってるんだ!」
朱里とルーファスが手紙を破きそうな勢いだったのをリュエールが「大事な証拠だから破らないで」と両親を止めて苦笑いする。
「見て欲しいのは、その【刻狼】の印だよ。13代目の頃の印なのが気になるんだよね」
「オレの祖父の代・・・代が変わると印も変えているからな。随分と久しぶりに見た気がするが、本物の印だな」
「そっ、本物なのが気になるよね」
「ふむ・・・代々の印の管理がどうなっているか調べる必要があるな」
「管理・・・?手の平の鍵の中にあるんじゃないの?」
朱里がリュエールとルーファスの手を見ると、2人は肩をすくめる。
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「ロックヘル?」
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