黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
483 / 960
16章

春のハープ

しおりを挟む
 ディトリックスから詳しい話を聞くために【刻狼亭】の料亭へ連れ帰ると、冬眠明けの従業員達は春の陽射しにまったりとした和やかな雰囲気で仕事をしている。
そして眠気を誘うような音色が料亭の奥からしていて、その音色がまたふわふわとした雰囲気を醸し出している。
この音色の主は【刻狼亭】16代目リュエールの番キリンのハープの音。
料亭に春っぽい音でも響かせていたら雰囲気出そうだね・・・と、いう話をしたのが数日前。
キリンが「ハープくらいなら出来ますよ」というので生演奏を弾いて、どの曲が良いかを義妹のフィリアとミルア、ナルアと決めている最中だったりする。

 シャリンとハープの合間に聞こえるのはフィリアの羽の音なのだろう。
リラックスし過ぎると羽が出てしまうらしく、羽が出ていると人前に出れないのでこれはこれで大変らしい。

「キリン姉様・・・辛いです」
「キリン姉様・・・眠いです」
「キリンさん、私も眠くて・・・」
「起きて。うん、わたしも頑張ってるんだから、ね?」

 当主の部屋でソファの上で眠気と戦う義妹達3人はせめて縁側から燦々と入る春の日差しをカーテンで遮断してくれと思うものの、縁側でドラゴン達が昼寝をしている為にカーテンをすることが出来ない。
近付こうものならドラゴンに混じって寝ているササマキに突かれたり、クロに不機嫌そうな声を出されるのである。

「君達ね、僕のキリンが演奏してくれてるんだから、しっかり目と耳開けて」

 極めつけはキリンを溺愛しているリュエールが仕事机で書類仕事をしつつ見張っている事だろうか?
出来る事ならドラゴン達に混じって惰眠を貪りたい!!・・・が、リュエールがそれを許してくれないので3人はぐぬぬと思いつつも春の温かい日差しと眠気を誘う穏やかな音色に耐えているのである。

 ちなみに三つ子は縁側でハガネと一緒に寝ている。
そして、朱里は三つ子が寝た隙を狙い買い物に出かけて、ディトリックスに出会ったという。

「ただいまー、可愛い音色ねー」
「リュー、問題発生だ。少し良いか?」

 朱里とルーファスが部屋を開けるとミルア、ナルア、フィリアは助かったとばかりに顔を上げる。
そして3人共「あ」で、言葉が止まる。3人と目が合うと、朱里も「あ」と声を出す。

「ルーファスおろして」

 3人が朱里がルーファスに抱き上げられている事に言葉を止めたので、流石に羞恥心という物が沸き上がる。
リュエールはさほど気にせず、またかくらいの物で、キリンも割りと慣れたというより、自分達も傍から見れば朱里とルーファスと変わらないので口を噤む。
これで顔を赤くするのは思春期なお子様とようやく人とのスキンシップを学び始めた初心な元王女くらいだ。

「父上、どんな問題が?」
「それが、ミルアの婚約者だと名乗る奴が現れてな」

 リュエールの耳がピクッと動いて、片眉を上げるとルーファスを見上げて、自分の名前を出されたミルアが首を傾げる。

「今、テンの方で事情というか、釣書が送られて来た経緯などを聞き出している所だ」
「報告が遅くなったけど、今日すでに3件ほど釣書の問い合わせが来てるよ」
「なんだと!どうしてそれを早く言わない!」
「こっちで確認作業をしてからと思ってね。だってルーシーの釣書まであるんだよ?」
「ルーシーの物までか?・・・一体なんだそれは・・・」

 リュエールが「まぁ僕達のせいかな?」と小さく笑う。

「僕やシューは昔から【刻狼亭】に取り入りたい人達に付きまとわれてたけど、子供だったから女性もそんなにアプローチは激しくなかった。でも、もう僕はキリンを番にしちゃったし、シューも番見つけたしで、【刻狼亭】に嫁入りさせるのが無理・・・と、なれば、ミルアとナルアに次は目が行くでしょ?ルーシーのは、何かの冗談だとは思いたいけどさ。うちは何だかんだで金の生る木に他の人間からは思われてるだろうからね」

 キリンがハープを弾く手を止めてリュエールを見て、耳をピコピコ動かしている。
昔から女性に付きまとわれたというところに反応しているのか、少し口がとがっているキリンにリュエールが「僕は母上似だから、主にシューが追い回されてたよ」と言い、フィリアの背中の羽がパシュンと音を立てて背中に仕舞い込まれる。

「つまりは我が家へ取り入ろうとしている何者かが釣書を送り付けて、何かしらの利益を貪ろうとしている・・・と、いうところか」
「上手くいけば仲介料みたいなもので美味しい思いをする人間が居るだろうから、そいつが犯人・・・かな?」

 リュエールが1枚の釣書の封筒をルーファスに渡すと、釣書の中に【刻狼】の印が入った手紙が入っていた。

『支度金を大白金貨6枚用意されたし、もしくはそれ相当の財貨を用意すべし』

「まっ!うちの子は大白金貨6枚しか価値が無いとでも?!失礼です!」
「全くもって話しにならんはした金だな!うちの子を何だと思ってるんだ!」

 朱里とルーファスが手紙を破きそうな勢いだったのをリュエールが「大事な証拠だから破らないで」と両親を止めて苦笑いする。

「見て欲しいのは、その【刻狼】の印だよ。13代目の頃の印なのが気になるんだよね」
「オレの祖父の代・・・代が変わると印も変えているからな。随分と久しぶりに見た気がするが、本物の印だな」
「そっ、本物なのが気になるよね」
「ふむ・・・代々の印の管理がどうなっているか調べる必要があるな」
「管理・・・?手の平の鍵の中にあるんじゃないの?」

 朱里がリュエールとルーファスの手を見ると、2人は肩をすくめる。

「財貨の管理は『ロックヘル』という小人達が取り扱っている。代々の印もそこへ入れている」
「ロックヘル?」

 初めて聞く言葉に朱里を含めキリンやフィリア達も首を傾げた。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。