黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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19章

雪樹の森

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 凍える様な寒さの中で雪樹の森では魔獣の声と叫び声が響き渡っていた。

「た、すけてぇ・・・」

 消え入りそうな声で朱里が木の上から声をあげる。

 雪樹の森に降り立ちそれぞれが配置に付き、始めに魔獣の王の魔石の周りを木竜ケルチャの魔法で木々で覆い、【怨嗟】で黒くなった魔獣達が入り込まない様にバリケードを張っていた。
そこまでは予定通りで、次に魔石にグリムレインが【聖域】と【聖女】の力の入った聖水を掛けて魔石から【怨嗟】を浮かび上がらせて、その隙に魔石を砕くはずが、聖水を掛けた瞬間、爆風がした。

 気付いたら朱里は木の上に引っ掛かっていて、全員バラバラに吹き飛ばされケルチャの木のバリケードも所々吹き飛ばされていたせいで【怨嗟】で黒くなった魔獣達がバリケードの中に入ってきていた。
それぞれが戦闘開始になり動き出して、ケルチャが木々でバリケードを再び作る間にも続々と魔獣は入り込んでいた。

「アカリ!どこだ!」

 ルーファスの声に朱里が木にしがみ付いてもう一度助けを呼び、ルーファスが上を見上げて朱里を確認した。
この中のメンバーで一番軽かったせいか、朱里だけが派手に飛んだという形だった。

「ううっ、下ろしてぇー」
「待ってろ!直ぐに下ろしてやるからじっとしてろ!」
 じっとして居ろと言うより、高所恐怖症で木にしがみ付いている他ない状態に朱里は身動き一つとれないでいる。
ルーファスが木を登る間に周りでは作戦がいきなりの総崩れ状態で混乱も起きていた。

「うわーっ!うわーっ!」
「アリス落ち着いて!刀は何処に⁉」
「わかんないっしょー!」

 吹き飛ばされた時に刀を手放してしまったありすがパニック混じりに大騒ぎしてリロノスが魔獣を倒す横で「マジヤバーい」と叫び声をあげた。
倫子は小刀を振り回しながら魔石を砕いている、それ程刃が滑らかに動かずのこぎりの様に扱っている。

「これ本当に刀なの!?切りにくい!三等分にしたら駄目になったりとか!?」
「リンコさんそれでも削れてるから大丈夫だよ!」

 シュトラールが倫子の周りの魔獣を倒して回復魔法をそれぞれに掛けて回る。
グリムレインが頭を振って起き上がるとドームを張って雪を止めて周りを見渡し、ルーファスと朱里を見つけて慌てて木の所まで駆け寄る。

「婿!嫁!我の背に乗り移れ!」
「アカリ、大丈夫か?動けるか?」
「うーっ、足に力入んない」

 ルーファスが朱里を抱き上げてグリムレインの背中に飛び乗ると状況を把握する為に魔石の周りをぐるっと旋回してそれぞれの位置を確認する。
ケルチャの周りを従業員が囲みながら魔獣を退治して守り、リロノスとありすは相変わらず騒ぎながら刀探しをしている。魔石を倫子が切りシュトラールもたまに拳で魔石を殴りつけて手を振りながら「無理かー」と声を出していた。

「まだ【怨嗟】は散ったままだな。アカリは小刀をちゃんと持っているか?」

 朱里が着物の懐から小刀の入った布袋を取り出してルーファスに見せてぎこちなく笑って見せると、小刀を持った手を包み込む様に片手で握られて頬にキスをされると心なしか震えが少し止まる。

「聖水は後1回分だ!我は聖水が終わり次第、魔石を砕くのに協力する!」
「でもまた爆発みたいのしたりしない?」
「言っていても仕方がないのだ!【怨嗟】で嫁やアリスが死んだら元も子もない!」
「次はアカリが吹き飛ばん様にオレが支える。だから安心しろ」
「うん。わかった」

 地上に降りて朱里も魔石砕きに布の中から小刀を取り出し、鞘から抜き取ると魔石に小刀を突き立てる。
ズブズブと小刀の刃が根元まで入り込み、朱里が慌てて引き抜く。

「なにこれ⁉ゼリーみたい!!」
「そうなのか?」

 ルーファスが魔石をコンコンと叩くがゼリー状の弾力というよりは硬い鉱物である。
首を捻ると、倫子からは「私には筋ばった肉を切ってる感じよ!」と声がする。
ありすはと言えば、まだ刀探し中である。

「アカリの刀が一番能力的には強い部分だからな……アカリ、どんどん削り取れ!」
「はい!頑張ります!」

 また小刀を魔石に刺してなるべく大きめに切り取り、朱里が切り取った魔石をポイポイ投げていくのをルーファスとグリムレインが後ろでキャッチしながら袋に詰めていく。
倫子の後ろではシュトラールが魔石を回収している。

「しかし、こんなに時間が掛かっていては【怨嗟】にもう一度聖水を掛けても間に合わんな」
「昔の【勇者】はどれだけ凄かったんだろうね?」

 ルーファスと朱里の会話に「死んでも生き返りながら手を休める事は無かったと聞きましたよ」と、聞いた覚えのある声が後ろからして、振り向くとギルが肩に乗るサイズのネルフィームと共に立っていた。
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