黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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20章

黒狼亭⑨

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 雪樹の森は少し前と同じで、まぁ、それは当たり前なのだけど、黒い魔獣達が多く私は見つけたカイナ君を掴んで、移動魔法を使ってダークエルフの小屋へ逃げ帰ってきた。

「はぁ……、第一段階終わり……痛ぁ……」

 特殊ポーションを飲み干して、【怨嗟】を吸い込んだ体を少し休める。
ズキズキと痛む心臓に、肩口の傷、そして黒い魔獣達にも散々噛まれたり引っ掻かれたりで、ネリリスさんの魔法を貰っておいて良かった。
普通にあれは死んじゃうところだった……。

 カイナくんを見れば、私よりも酷く、血だらけで傷だらけ、魔獣の歯形や爪痕が皮膚を抉って内臓に達していないと良いんだけど、というところ。

「ルーディクスさんのおかげで内臓系も大丈夫!」

 ルーディクスさんも内臓出て酷かったし、あれは予行演習になったと思う。
私は水玉を出して、回復ポーションと特殊ポーションを混ぜ合わせてカイナくんの顔以外を全て漬け込む。
水玉が赤く濁り、カイナくんは完全に気を失っているおかげで、ルーディクスさんの時みたいに悲鳴を上げたりはしない。

「【乾燥】さて、失礼しますねー」

 製薬部隊から貰った傷薬の軟膏をべたべたと塗り付けてカイナくんに包帯を巻いて、ベッドの上に転がすと、私はネルフィームの鱗を隣りの部屋に置いておく。

「任務完了。ふぇー……疲れた。本当に、早く魔石の【核】砕いてくれないと、心臓も体もボロボロになるぅ……」

 一ついい事があるとしたら、ちゃんとルーファスの居る時代に戻ったから、番の絆もハガネ達従者との絆もちゃんと私の中に繋がったみたいで、心にポッカリ空いた穴がちゃんと埋まった所だろうか?
まぁ、それでもルーファスに会いたくて、早く帰りたいとは思っているんだけどね。

 着物を脱いで自分の体の傷の手当てをすると、回復ポーションと傷薬の塗り薬は悶絶する程痛かった。
昔より数段、染みる様になっているのは何故なのか!?
ちょっと製薬部隊を突きまわして問い詰めたいところでもある。
ルーディクスさん……傷を治すためとはいえ、拷問の様な物をかけて申し訳ございませんでしたー!!と、心の中で謝罪しておきたい。

「こんな傷だらけな体見せたら、ルーファスにまた心配されそう……」
 
 どうにかルーファスより先にシューちゃんを確保して回復魔法で治してもらってから会いに行った方がいいかもしれない。

 まだこの時代に自分が存在するから、魔獣の【王】の魔石が砕かれるまで傷薬で我慢しなきゃいけない。
あ……っ、ルーディクスさんのお腹にヒドラのクリスタルを入れ込んだままにしちゃったけど、あのヒドラのクリスタルどうなったんだろう?
トリニア家が何とかルーファスの代まで生きてこれた理由がヒドラのクリスタルの回復が受け継がれているとかだったら、私はトリニア家になくてはならない嫁なのではないかな?
まぁ、そんな事は無いだろうけど、きっとルーディクスさんのお墓に今もあるかもしれない。
温泉大陸に帰ったらお墓参りをしに行こう。

「少し前にあった人なのに……時間移動って、結構、心にダメージきちゃうな……」

 だからケンジは心がおかしかったんだろうか?
まぁ、元々の性格な気もするけど、ケンジはどこか人としては不気味だったところがあるから、何度も時間を移動する度にあの人も心にダメージを負っていたのかもしれない。
彼はリルの死を何度も繰り返し見ていたのだろうし、私がもしルーファスの為とはいえ、何度もルーファスが死ぬところを見てしまっていたら、きっと心はボロボロになる。
そう思えば、少しだけケンジに同情もしてしまう……が、これも仮定の話。

「はぁー……温泉入りたい……」

 カイナくんは……まだ目覚めそうにないし、移動魔法で温泉に入ってきちゃおうかな?
この【怨嗟】の場所に私がずっと居るのもキツイし……。

「そうと決まれば、私が魔石騒ぎの時に、行ってない場所で温泉はー……」

 ケイトを卵に孵した森の中にある温泉なら人も来ないし、良いかな?
あっ、その前にちゃんとこの場所の位置確認を自分でもしておかないと、ギルさん達を案内出来ないよね。

 小屋を出て森を少し歩いたところで、ガサッと音がして、また魔獣かな?と、覗こうと顔を出す。

「誰です!」

 あっ、ギルさん……と、ネルフィームにサザンさん……。
しまった!この時間軸って、直ぐにギルさん達と遭遇するタイミングだったの!?
これから時間移動する私へのメッセージも何もやれてない……。

 ニコッとギルさん達に笑って誤魔化して、仕方なくカイナくんの居る小屋まで手招きして連れて行き、小屋を指さして、皆が小屋に向かったところで、私はこの雪樹の森から移動魔法で温泉大陸に移動した。

「危なー……。あー、でもこれで私がメッセージを残せなかったわけが分かったかも」

 歴史通り、何も変わってない事は良い事……かな?

「さてと、旧女将亭で私が居なくなるまでのんびり暮らしましょうかね」

 ドラゴンには時間移動がバレても平気だし、この時期はアルビーが一人で旧女将亭でお酒の準備してたから丁度いいや。私のお世話はアルビーにさせちゃおう。
アルビーなら回復魔法も使えるし、傷を治してもらうのに丁度いいよね。

 旧女将亭までのんびりと歩いて辿り着くと、アルビーがやはり一人でお酒のストックを数えて鼻歌を歌っていた。

「アルビー、ただいまー」

 キョトンとした顔でアルビーが目をパチパチさせてから首をかしげる。

「あれ? アカリ、魔獣の【王】の魔石を砕きに行ったんじゃないっけ?」
「えへへ、実は私は未来から来た私なんだよね。ドラゴンには時間移動とか喋って大丈夫なんだよね?」
「ええ!!じゃあ、アカリ、時間移動してきちゃったの?」
「うん。3ヶ月程、今の私は隠れていなきゃいけないから、ここに匿ってもらっていい?」
「アカリの家なんだからいいよー。と、いうか、時間移動で3ヶ月後に移動したらいいんじゃないの?」
「それがね、どうも、上手く動かないみたいで、この時代に来るまでに何度も時代を飛んでるの。だから、これ以上の時間移動は怖いから、止めておくの」
「なるほどね。まぁ、私と一緒にここでのんびりしとこうか」
「ふふっ、アルビー、3ヶ月間楽しくやろうね!」

 ようやく私の長い時間移動の旅は落ち着いた感じをみせた。
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